第三話 私こそが
(はぁ……)
結局止めることは出来ず、両脇にビルの建ち並ぶ道を歩いていた。
「人の世を見るのは数百年ぶりだが……大きく変わったものだな。 私の知る人間は、小さな家屋に住み畑を耕していたが……」
(人の世……? 数百年……?)
「あぁ、人間がどのように生きているのか気になり、訪れたことがある」
(訪れたって……訳わかんない……)
真央は自分の体の中にいる誰かの言ってることが分からず、困惑するしか無かった。
(てか、そもそもあなたって誰なのさ!)
ここで気がついた、この誰かの名前も自分は知らないじゃないか。
「うん? そうか名乗っていなかったな、私は……」
名前を聞こうとしたその時、
『「ギャハハハ!」』
「む……?」
大きな笑い声が聞こえ、声のした方を向くと数人の若者がカフェのテラス席で騒いでいた。1人は金髪にチェーンネックレス、1人は茶髪のロン毛、もう1人は黒髪パーマと、見た目の癖が強い3人だった。
「……」
周りにいる客は3人をうるさそうに見るが、それに本人たちは気付いていないらしい。
見かねた店員が近づいていき、注意をする。
「お客様、他のお客様のご迷惑になりますので、もう少し声のボリュームを下げていただけると……」
「何? 俺らが迷惑だっての?」
注意されると金髪が店員に突っかかり始める。
「随分民度が悪いように見えるが……」
(全員があんな感じでは無いけど……ああいう人もいるよ)
「あいつ以外誰も止めないのか? 周りの客は鬱陶しそうに見ていたが……」
(みんな面倒事に巻き込まれたくないんでしょ)
みんな止めるべきだとは分かっているが、自分ではなかなか行動に移せない……。
「お前もそうなのか?」
(僕は……)
「まぁお前がどう考えていようと、私には関係ないがな」
(え?)
そう言うとずかずかと3人に近づいていき、
「おい餓鬼共、いい加減黙れ」
(ちょっと!?)
黙れと言われた3人は暫く困惑したような顔をしていたが、すぐに機嫌が悪そうな顔に変わった。
「は? 誰お前、俺たちに文句あんの?」
「先程から見ていたが、周囲の者に対する配慮に欠けている」
「その程度のことも出来んようならさっさと失せろと言っているのだ」
顔色ひとつ変えることなくそう言うと相手は余程頭に来たらしく、
「……お前ちょっと話しようや、こっち来い」
そう言われると腕を掴まれ、近くの路地裏まで引っ張り込まれ、路地の入口を塞ぎ逃げ場が無くなった。
「ここなら人目につかねぇけど、どうする? 流石に三対一でリンチにはされたくないっしょ?笑」
「今なら土下座ぐらいで許してやるけど?」
(なんでこんなことに……)
そんなことを言って笑っているが、言われている本人は全く意に介していない様子で、
「はて? 一体なぜ私が貴様ら下衆なんぞに頭を下げねばならんのか……それに、たとえ三対一でも私は負けんよ」
(なんで相手を煽るようなことばっか言うの!?)
絶望的状況にも関わらず決して態度を崩さず、それでいて相手を挑発していく。
「あっそ、じゃあもう知らんからさ」
そうして金髪が拳を振り上げ、こちらに振り下ろして来た瞬間───
(え……?)
先程まで目の前にいたはずの金髪が傍の壁にもたれるようにたおれていて、そのすぐ傍に立っていた茶髪もゴミ箱の中で気絶していた。
(何が起こったの? 急に2人が……)
「無意味な事だ、私に歯向かおうなど」
そう言うと1人無事な黒髪に向かって少しづつ歩いていく。
「ひっ……」
何が起こったのか分からないといった顔をしていた黒髪も、すぐ我に返って逃げようとするが腰が抜けていて逃げられない。
黒髪の胸ぐらをつかみ無理やり立ち上がらせると、
「今すぐ消えろ、そうすれば命は助けてやる」
それだけ言い手を離した。
「まじでお前……なんなんだよッ!」
開放された黒髪は必死に立ち上がりながら、今すぐにでも逃げ出したいといった顔でそう聞く。
「私か? 私は……いや、私こそが……」
「魔王だ」
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