下編
死刑囚田辺和也は世界を救うと信じて、殺人を犯した。
本当に和也は正しかったのか?
3部作の下編でこれで終了になります。
少しグロイ描写がありますので、苦手な方はご遠慮願います。
ネズミがたったったと前を走っている。
今考えていたことが書かれている筈だ。貰った本を読んでみると俺は驚愕した。
そのうちに看守に何か言われた気がしたが、本の内容に驚いていたのでよく考えずに返事した。
その本には俺が親を失い、会社で同期の出世を妬みながら、圭介の発言に逆上し、少なからず成功を収めている殺害した5人に身勝手な殺意を抱き、実行したことが書かれていた。
その本で書かれていたのは親を失ったことと、圭介の言葉に逆上して、圭介を葬ったことだけが事実だった。5人を手にかけた原因の丸眼鏡の女のことは何も書かれていなかった。
ネズミがたったったと前を走っている。
ぼんやりしていると、その日の食事をすませた。そして、看守から手紙をもらった。
差出人を見たとき、俺の眠気は吹き飛んだ。それはヨシさんだった。
中身を見ると、それはヨシさんが書いたあの記事を再度、自分の足で調べてみると、あの時、殺害された人物は地理に関する仕事をしていて、それを共同で作業していて、その中に圭介も入っていた。その人物の変わりはいたが、故人の域までには達していなかったこと、そして、殺害されたことにより、圭介がフォローをしながら仕事していたために、負担がのしかかり、事態に気づいたころには、手遅れの状態になっており、事件の発表時期になってしまったこと、細かく調査しなかったために、圭介が集中砲火にあってしまったことが書いてあった。そして、その原因は自分だったと。圭介が居なければ、更に被害が出ていただろうと、それを当時、圭介と仕事をしていた人達に聞いて回ったと懺悔の気持ちが書かれていた。
そして、あの女に嵌められたと書いてあった。封筒の中には一枚の記事があった。あの時の記事が畳んでて添付されていた。
ヨシさんは独身だった、この文章はいつ出したんだ?
ネズミがたったったと前を走っている。
折りたたまれた記事を開いた。それを開いた和也はこれ以上ないほど目を見開いた。
そこには丸眼鏡の女が満面の笑みを浮かべていた。
前を通った看守から丸谷の刑が執行されたと聞いた。
俺は本当に正しかったのか?失意の和也は知らない間に眠っていた。
翌朝、和也は机に向かい、執筆していた。まるで、試験終了寸前に答えを閃いた学生が必死に回答するように
書き終わった和也は筆を止めた。そして、紙を見たら、驚いて、次のページに一言付け加えた。そして、
何かに抵抗するように一ページを破った。
そして、鉄格子を見ると大勢の刑務官が居た。一人が刑の執行する旨を告げた。
「どういうことだ?」
和也は尋ねると、昨日、告げたことと、晩餐にリクエスト通りの好物を与えたことを告げた。
「嫌だ!俺は嵌められたんだ!」
必死に抵抗する和也を刑務官が押さえつけた。
ネズミがたったったと走っている。
目隠しをされた和也は歩かされ、階段を上った、恐らく、13階段だろう。
首に何かが触れるのを感じた。その時、目の前が明るくなった、自分は助かるんだ、そう思って、看守の顔を見たら、無表情の丸眼鏡の女だった。
「ひっ」
横を見ると昨日、刑を執行された白い顔でうつろな目の首に縄の跡が付いた丸谷が居た。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
和也は悲鳴を上げた。
「僕ありがとうね」
丸眼鏡の女は無機質な声で言った。
「僕がさっき書こうとしていたことと理由は同じ、あのノートに書かれていた名前は私が計画を実行するのに邪魔な人物の名前だったの、この子は一人、残して消した。その後始末は僕がやってくれたわね。えらいわよ。貴方が葬った5人はこれから起こる細菌のワクチンを作る可能性があった人物。僕が全員始末してくれたおかげで私が今後、余計な仕事をしなくてよくなったわ」
和也は怯えた目で見つめている。
「人類はどうなってしまうんだ?」
「僕さっき書こうとしてたじゃない、人類滅亡だって、それで新しい、生物が地球を支配するの」
「俺たちはどうなるんだ?」
「僕は私の息子にしてあげるね、そして、真っ暗闇の中を永劫歩き続けるの、この明お兄ちゃんと一緒に、意思を伝えることができない人間として、永劫、私と共に歩むの」
「嫌だ」
「和也、貴方の感謝されるっていう願いは叶えてあげたわ。猫たちが囚人護送車で移送されるときにお礼を言ってたでしょ。新しく地球を支配する可能性を与えてくれてってしかも、ネズミも貴方にお礼を言いたくて、近くをさまよっているわ。貴方の夢を叶えるために犯した罪はちゃんと償いなさい」
「嫌だぁ、俺は悪くない」
和也は悪いことを叱られる子供のように駄々をこねた。
「知ってた?貴方が葬った回を英語に変えるとloopになるわね?それと他の4人のイニシャルをとって並べるとANGELになるの知ってた?彼らは天使が人に名前を変えて遣わされた使徒、貴方は天使を殺したのよ」
和也が居た独房の中では看守が身辺整理をしていた。机の上で和也の書いた文章を見て、看守は呆れた。
そこには
俺は悪くない
と延々と書かれた原稿用紙だった
「こいつ、自分が葬った人間のことを考えないで書きやがって、理不尽に命を奪われた人間はなにか殺されるまでの悪事を働いたっていうのかよ。こいつはまさしく、悪魔だ、悪魔の所業を行ったんだ」
看守はそう吐き捨てると、作業を続けた。
母となった女性が額に手を当てると目の前は真っ暗になった。
たったったと走っていたネズミは足を止めた。
ちゅうの鳴き声はとまるでありがとうというように聞こえた。
和也の手から紙が落ちた。それには俺はこれを書いていないと書かれていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
和也は絶叫すると看守たちが一斉にボタンを押して、和也が立っていた足場が消えた。
ありがとうございました。