ズルしまくりの体育祭
綱を引く手に、力を込める。
単純な腕力だけじゃない、私の場合は念力も込めているのだ。全身の血が沸騰するのではないか、というほど体が熱くなるのを感じがら私は対戦相手を見やる。そこには一般のクラスメートに紛れて、私と同じ「超能力者」がいるはずだった。
◇
「この学校のクラスにはそれぞれ一人ずつ、超能力者がいる」
それを知っているのは、当の超能力者たちだけだ。ただし具体的に誰がそうなのかを調べること、また自身の超能力について公表することは厳重に取り締まられている。超能力者同士が団結するのを防ぐためであるが……私は、いや、私たちはおそらくお互いに誰が自分と同じ境遇なのかを探ろうとしている。この体育祭という行事において、それを実に都合のいいイベントであった。
玉入れの玉が、明らかに不自然な飛び方をする。組体操で非力な生徒が、さして力を込めている様子も見られないのになぜか平然としている。
そんな「ちょっと変だな」と思うところに、きっと超能力者が隠れている。そしてそれに私が気づいている、ということも向こうはわかっているだろう……わかっている上で、それぞれ牽制しあいながら他の超能力者がボロを出すのを待っている。体育祭の浮ついた雰囲気の中で、私たち超能力者はそんな密かな攻防戦を行っているのだった。
そうして、体育祭はつつがなく進んでいく中で種目は借り物競争に移る。一般の生徒に紛れ込み、私がカードをめくろうとすれば――
「――待って、それダメ!」
思わず叫んだ隣の男子と、ばっちり目が合う。
今、私はカードを「めくろうとした」がめくってはいない。伏せたカードの中身がわかるのは、透視能力を持った人間でないと無理だ。
「あなた、超能力者?」
小さな声で囁きかければ、彼は「しまった」という顔で口元を抑える。……その態度が何よりの証拠だ。とりあえず、「仲間」が一人見つかった……そう思いながらカードをめくり、私は何食わぬ顔をして借り物競争に戻りお題を確認する。
「超能力者」
「……とりあえず、一緒に走る?」
「……うん」
おずおずと口にされた彼の提案に、私はぎこちなく頷く。
誰がこんなことを書いたのかはわからないが――とりあえず、私の超能力者仲間第一号は結構お人好しであるとわかった瞬間だった。