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鋼鉄の虎   作者: UK KC
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001 交戦

処女作です、ご了承ください。

                   001話 「交戦」


 ここは―――一面が銀世界の雪で覆われた場所。しかし、その雪は決して綺麗ではなく所々に大きな鉄屑と、赤い液体が漏れ出た生肉が横たわる地獄のような光景が広がっている。ここは戦争の最中だ・・・簡単に命が消えていく。相手の砲撃が当たってしまったらそこでお終いだ。そこではドイツ軍とソビエト軍が死物狂いで戦争をしていた。だが、他の戦場とはここは違う。肉と肉の戦いではなく、鉄と鉄の戦いであることだ。つまり、戦車と戦車の戦いということ。戦況は圧倒的にドイツ軍不利。なぜなら、明らかにドイツ軍のほうが黒煙を上げて停止している戦車が多いのだ。


 ・・・ドゴンッ!!!

 途端、車内にいた乗員は恐怖に包まれる。


 『くそっ! またあの戦車か! こちらの砲がまるで歯が立たないぞ!?』


 『このままでは被害が拡大するだけだ! 援軍はまだか!?』


 車内に置かれた無線機からはノイズとともに友軍の悲鳴に近い声が無数に聞こえる。どうやら、相当混乱しているらしい。しかし、その無線機からの悲鳴も確実に減りつつあった。まずい、このままでは味方の隊がやられてしまう・・・


 「アントン! 左方向から回り込み敵戦車の背後を射撃しろ!私が囮になる!このままでは隊は全滅だ!」


 『ステファン、了解した! ・・・くれぐれもくたばるんじゃないぞ、ヴィットマン!』


 「わかっている!」


 私―――ディートリヒ・ヴィットマンは部下に「戦車、右方向へ前進!」と命令した。返事が聞こえると同時に、エンジン音が一層高くなり、たくましい音とともに車体を揺らし、前進を開始した。そして、キューポラから外の状況を確認。エンジン音が聞こえたのか、敵の戦車――ソビエト連邦のT−34に酷似した戦車がチョロチョロと黒煙を上げ停止した味方戦車への砲撃を止め、ゆっくりとその砲塔をこちらに向けつつあった。よしッ!こちらに食いついてきた。これでいい、これでいいのだ。アントンに砲が向かなければいい。


 「車長! 敵の砲塔がこちらに向いてきていますッ!!」


 と、部下の狼狽しきった声が車内に響く。無理もない、一発でもあたればおしまいなのだから。だが、士気を下げるのは実に良くないことだ。


 「狼狽えるな、ローベルト! そのまましっかりと状況報告をしろ!」


 「はい・・・」


 「それでいい」


 私はそう一喝する。ローベルトだけでなく、砲手のヴィーラント、操縦手のハインリヒ・・・皆が皆恐怖しているのだ・・・無論私、ディートリヒ・ヴィットマンもいつ死ぬかわからない恐怖に怯えている。だが、戦場において一瞬の迷いは命取りとなる。そう私は私に言い聞かせたのだ・・・大丈夫なはずだ、きっとアントンは無事に来る筈だ。


 「敵戦車の状況は!」


 「依然としてこちらに砲塔を向きつつあります! あぁ!! 敵戦車発――」


 彼はおそらく発泡、と言いたかったのだろう。だが、それは車内のとてつもなく強い揺れと、鳴り響く高音のキーーーーーンとした音が駆け回ったため遮られてしまった。その直後、金属と金属が擦れ合ったような嫌な音が響き、またその後に、大きく左へと戦車が移動し、停止した。そして、頼もしくうるさいエンジンの音も次第に止まってしまった・・・車内が揺れてしまった衝撃で気絶しているのだろう、誰一人とて目を覚ます者は居なかった。だが。その間にも時は一刻、一刻と進む。


 「・・・ゥッ、グァ・・・何が起こった・・・何が起こった!!!」


 私の怒声に目を覚ましたのか、乗員がハッと起きる。まだ起きたばかりなのだろう、辺りを見渡している。


 「諸君!! いい加減にしたまえ!! 状況報告!」


 やっと部下たちの目が覚める。急に私が怒鳴りだしたせいかとてもびっくりしているものの、しっかりと状況確認をしている。が、全て内部から確認をしているため敵には視認されないだろう。しかし、ここで最悪な一報が入る。


 「車長・・・報告が」


 「何だ、故障か?」


 「はい、それが・・・エンジンが完全にやられているようで、また履帯も切れているかもしれません」


 「そんなッ・・・」


 そうハインリヒが深刻そうに、そして焦りきった声で報告を入れる。また、それを聞いていた乗員たちも、恐怖と焦燥感かられる。そんな、どうしたら!そんな声が車内から聞こえる・・・士気はガタ落ちであった。この時、私は生きた心地がしなかった。そして、爆音が鳴り響く。恐らく、敵戦車が発砲したのだろう、この時ばかりは皆、死を覚悟した・・・・・・


 ――だが、いつまで経っても何も起らない。自慢の装甲も打ち破られていないし、砲弾に引火なんかもしていない。そう、何も起らなかった。この長い沈黙に耐えられなかっただろう、部下の数人がふと顔を上げる。

 

 「・・・・・・? 車、車長、何も起こりませんが・・・」


 「まさか、ここは天国だとでもいうのですか?」


 「どっちかというと地獄な気がするんだがな・・・」


 「諸君、落ち着くんだ・・・まずは状況を」


 私がそう言いかけると、無線機から雑音とともにかすかな声が聞こえてきて、遮られた。私達はそれに驚きつつも、無線機に注目した。


 『ガガガ・・・・ガ・・お、い・・・おい、こちらアントン、ステファン応答せよ!! そっちは大丈夫なのか!?』


 


 


 








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