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悪魔の咆哮(あくまのうた)  作者: 金川明
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第十二節 「I have created a God of peace.《私は平和の神を作った》」

 歩美の母親に会った日から数日たったある晩、どうしても寝付けなかった凱は、一人で夜の街を歩いていた。その背中を、聞き覚えのない声が呼び止める。

「……麻倉凱」

「ーーーー俺の名前を呼ぶな」

 安定器(スタビライザー)を手に凱が振り返ると、白いローブにフードを深く被った聖職者らしき男が、手のひらをあげて凱を制止する。

「私を攻撃しないほうがいい。お前の女を預かっている。返して欲しければ、安定器(スタビライザー)を地面に置いて、5メートル離れろ」

 淡々と告げられ、凱は従うしかなかった。

 アスファルトの上に安定器(スタビライザー)を置き、聖職者の男を睨みながら5メートル下がる。男は安定器(スタビライザー)を拾い上げると、興味深そうに見つめた。

「ほう。純正ではないが、よくできているな」

「歩美はどこだ?」

 凱が問うと、聖職者の男は下卑た笑みを浮かべる。

「そうか、歩美というのか、あの少女は。何をしても、口を割らなくてな。まぁおかげで、今は我々のいい玩具(おもちゃ)にーーーー」

 聖職者の男がまばたきをする間に、凱の悪魔の手が心臓を鷲掴みにしていた。

「そんなことは聞いていない。俺が聞いているのは、歩美の居場所だ」

 ひゅうひゅうと苦しげに息をしながらも、男は笑みを絶やさない。

「本当に、イリーニ様の加護を無効化できるとはな。噂通りの化け物だっ……!」

 凱が、鷲掴みにした心臓を引き抜いて握り潰した。

 聖職者の男は膝から崩れ落ちる。

「女はどこだ?」

 聖職者の男には、凱の姿が尊敬する大聖堂の司祭に見えていた。

「マルニエール様……!? あぁ、まさかお目にかかれるとはーーーー女は、麻倉凱を(おび)き出すため、今は教会が運営する山奥の宿泊施設に閉じ込めてあるそうです。しかし、なぜあなたがそれを? マルニエール、様?」

「詳しく教えろ」

 聖職者の男は天にも昇るような多幸感に包まれながら、従順な奴隷のごとく口を割った。


     *


「ここか。想像していたより小さいな」

 人気のない深い山奥の道を数時間歩き、凱は聖職者の男から聞き出した宿泊施設に辿り着いた。窓の位置がやけに高く、一階にあたるであろう位置には窓がなかった。

 真新しいペンキが塗られた鉄の扉を開けて中へ入ると、一斉に明かりがつく。

 そこは宿泊施設などではなく、学校の体育館のような広い空間だった。建物の中は見渡す限り救世主らしき聖職者たちで溢れかえっていた。イリーニ以外の信徒もいるようで、皆様々な装いを身に纏っている。

「ーーーーハッハッハッハ、まさか一人でのこのこ現れるとはな。愚かな悪魔だ。傭兵くらい雇えばいいものを」

 その奥の床が高くなっているステージのような場所の中央で、金の蔦の装飾があちこちに施された薄灰色のローブのハゲ上がった男が言う。

「傭兵などいらない。足手まといになるだけだ。そんなことより、歩美はどこにいる?」

「馬鹿め。素直に教えると思うか? お前はここで死ぬんだよ」

 背後の鉄の扉が独りでに閉まり、救世主たちが一斉に安定器(スタビライザー)をかかげた。体を赤紫の獄炎が包み込み、凱は救世主たちよりも早く変身する。

 全身に紫のタトゥーを掘り込んだ毛むくじゃらの悪魔となった凱の、瞳が光る。

「……ハートフリーズ」

 ドクリと、心臓の鼓動のような音が短く響き渡った。

 救世主たちの心臓を見えない手が握り締め、その動きを止める。

「なんだ? どうした、お前ら」

 ただ一人、先ほどのハゲ上がった男だけが、異変に気づいてキョロキョロと見回す。

 凱はまばたきすらままならず苦悶する救世主たちの中を歩いていき、ハゲ上がった男のいるステージに上がった。

「ーーーーお前がやったのか? 何をした!?」

 震え上がり、後退(あとずさ)りしようとして、男は無様に尻餅をつく。

 無言で目の前まで歩み寄ってくる悪魔に、男は恐怖するだけで、どうすることもできない。

「イリーニからもらった力はどうした? 俺を殺すんじゃなかったのか」

「うるさいっ、お、俺は、サポート役なんだよ……」

「歩美はどこにいる?」

「知らないっ」

「とぼけるな」

 凱が手のひらの上に獄炎を宿して見せると、男は縮み上がった。

「ほ、本当だ! 本当なんだ!! 信じてくくれっ! 俺も、この中の誰も、何も知らされてないんだ! 俺たちはただ、イリーニ様のご意思で、悪魔を倒せと言われただけで……少なくとも、ここにはいない」

「なんだと? イリーニが命令したのか?」

「し、知らない。俺は、会ったこともない……司祭様がイリーニ様のご意思だと言ったんだ。俺は、本当に何もーーーー」

「ーーーーそうか。なら用はない」

 背を向けて立ち去っていく凱の足跡から火柱が立ち上ったかと思うと、それらは意思を持ったように床を滑り、一箇所に寄り集まっていく。

「あ、ああぁぁ……はーーーー」

 赤紫の炎はみるみるうちに塊となって、その中から、天井すれすれの高さの獄炎の巨人が生まれた。

「喰らい尽くせ。タイタンオブヘルフレイム!」

 凱が叫ぶと、獄炎の巨人は野太い雄叫びを上げた。

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