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花束の約束 The Another World  作者: ぬうと
【第0章】灰色の世界
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【第7話】『 科学者 』

 






⒏花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第7話〉『 科学者 』





 

 ドクター達は慌てながら仕事をしている。しかし、全員がまだ半信半疑のようだ。


 雛川ドクターの言葉の重みもさながら、彼らは心の中で葛藤しつつ、政府や政府関係者に電話をかけた。


 その瞬間、大きな地震が研究施設を襲った。






 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!






 それは、外の公園に居る椎菜や孝徳などの学生達にも感じ取る程の大きな地震だった。


「なんだ?!」


「揺れてるぞ‥‥?」


「ただの地震だ!!全員落ち着け!!」


 科学者達は一層いっそうざわめきが増した。

 少しずつ自然のうねり声と共に地震は静かになっていく。


 音も止み、揺れも収まり、科学者達は一斉にホッとした様子で安堵あんどした。


 しかし、その瞬間、徐々に人や物が粒子のように変わっていった。


 最初は小さな鉛筆や紙などの文房具が少しずつ溶け始め、灰のように散っていく。


 次に机やパソコン、そして遂には髪や爪まで同じようにチリとなって消えていった。


 それに気づいた科学者達は、あの予言が真実であると確信し、同時に恐怖し始める。



「わ、わぁぁぁ!!俺の体がぁぁぁ!!!」



 その恐怖の感情から、1人のドクターは声を荒げながらその気持ちを露にした。そして彼の感情は、徐々に周りへと浸透していった。


「‥‥‥やはりあの予言は。」


 雛川ドクターが呟く。それを見ていた他のドクター達は唖然としている。


 しかし、現状では悪魔の降臨に対処する科学的な治療法は無い。


 魂や霊体すら科学的には確信的な発見が無い現代だからこそ、こうなったら何も成すすべが無くなってしまうのだ。


 沈黙の中、研究所に警報音だけが鳴り響く。

 するとアクアリウムの中で知束がブツブツと何かを喋っているのが確認された。


「‥‥ジオ・アスノ・アクターレア‥‥。」


 水槽の中で知束はそう呟く。

 彼の髪の色は徐々に白く変色していて、右目は相変わらず薄桃色に光沢していた。


 禍々しい右目に対して、悲しそうな左目からは少しだけ涙が溢れていた。


 彼の姿を目の当たりにして、ドクター達は目を奪われた。


「この世の終わりか、なんて突然な話だろう。」


 雛川は知束の姿を見ながら呟いた。

 それを聞いていた新人ドクターは、暗い表情を浮かべながら下を向いていた。


 コレからどんな結末が待っているのか。その未来に恐怖し、頭を抱える者もいた。


 雛川は後ろを振り向き、下を向く新人ドクターに科学者として問いかけた。


「君は今日が最後の晩餐ばんさんだと言われらどうする?」


 その質問に、新人のドクターはうれいた表情で答えた。


「分かりません。しかし、誇り高くとは言いません。ただ家族と一緒に過ごしたいです。」


 雛川はその表情を見て、自身の胸に右手を添えた。

 そして雛川もまた、こう返した。




「私もだ。」




 そう言って雛川は、再びアクアリウムのもとまで行き、全職員に向かって大きな声で演説し始めた。


「確信は無い。確証も無い。しかし可能性だけなら大いに有る。今、世界で何が起こっているのか、預言者の言う無常の天災とは何なのか。この少年は一体何者なのか、悪魔とは本当に実在するのか。それら全てを我々は解明することが出来なかった。しかし、現に予言の通り、我々の世界は粒子化が進んでいる。恐らくこのペースなら、明日の朝には全世界の物質がチリとなり、消えてしまうだろう。だが、我々は最後まで科学者であろうじゃ無いか。これまでの先人達が残した科学を、我々が投げ捨ててしまったら、それこそ本当に世界の終わりだ。我々は叶えてきたはずだ。ありもしないと言われてきた希望を。数式や文字を巧みに利用して証明してきたはずだ。ここに居る者は、全員人では無い。科学者のはずだ。自分を科学者だと信じられる者は、私と共に最後まで謎を追求せよ。そして、ここで私と心中してくれ。」


 それを聞いたドクター達は、目の色を変えて作業を再開した。テレビ局やラジオ放送局、著名人や大学教授、全ての国の首相達に世界の終わりを告げた。


 そして雛川ドクターは知束のDNAを再度研究し始めた。もしかしたら彼が無常の天災を止める鍵なのでは?と考えた雛川は、まだ希望を捨ててはいなかった。


「全員に告ぐ、この研究施設を離れて、安全な場所へ避難しろ!非検体a06をココへ置いて軍に連絡するのだ。奴の体を粉々にして仕舞えば、崩壊を防げるかも知れない!!」


 1人の若いドクターがその場に居る全員に言い出した。


「奴を殺せ。やってみる価値はあるだろう?世界の命運の為だ、仕方がない!」


 すると、雛川がそれに反論した。


「待て、彼はまだ自我を保っている。このまま彼を見捨てる気か?」


「じゃあどうしろと言うのだ?!雛川!!このままだと予言が成就するのは時間の問題だ。一刻も早くアイツを殺さないとアンタの言う粒子化が全てを飲み込むぞ!!」


「たしかに、彼の命が無くなれば、悪魔とやらはこの世に降臨する事は無いかも知れない。しかし、彼はまだ生きている。私達は科学者だろう?そう簡単に人の命を諦めてたまるか!」


「非検体は既に死んだも当然だ、奴を庇っていては、この世界が滅亡する。我々はあんな小僧1人の命より、もっと大勢の民の為に尽力を尽くすべきだ。」


「しかしだ、彼もまたその大勢の中の1人だろう?確かにこの状況なら、彼の命を経つ事によって粒子化は止められるかも知れない。だが、もし止まらなかったら?この世界にもし悪魔や神が実在するのなら、彼を殺した所で何も変わらないと私は思う。」


「可能性の話をしているんだ!試してみるべきだろう?彼を殺して、彼の体をバラバラにして仕舞えばいい。そうしたら粒子化だって止まり、世界はいつも通りの明日がやって来る。」


「我々には人殺しをする時間は残されていない。なんとしても、この状況を打破する為に奮闘しなければならないのだ。」


「ええい、話にならない。アイツを殺せぇ!!非検体の体を粉々にしてしまえ!」


 もはや討論は無意味だと確信したその瞬間、後ろから大きな音が鳴り響いた。




 ガタッ




 その音はどうやらカバンが肩から落ちた音のようだった。

 誰のカバンが落ちたのか、その答えは後ろを振り向けば一目瞭然だった。


 そこには赤嶺知束の学友である椎菜とマヤ、義也と孝徳の4人が立ち尽くしていた。






最後まで読んでいただき、

誠にありがとうございました。


今後とも、

この作品を完結まで描き続ける所存であります。


もし少しでも良いと感じられましたら、ブックマークやコメントなどお待ちしております。


また、アドバイスやご指示等ございましたら、そちらも全て拝見させて頂きたく思います。

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