表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花束の約束 The Another World  作者: ぬうと
【第0章】灰色の世界
6/49

【第4話】『 溢れ出す想い 』






 ⒌花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第4話〉『 溢れる想い 』






 施設のフロントには、義也よしや、マヤ、孝徳たかのりの3人が、椎菜しいなの事を待っていた。


 そして面会が終わった椎菜しいなが、エレベーターをりて3人と合流する。


 椎菜しいなは暗い顔をして、3人の元へやって来た。


「ちゃんと伝えられたのか?ちさとっちに愛の告白。」


「んもぉ〜、タカノリはデリカシーが無いんやから黙っときーや!!」


 茶化した様子で聞く孝徳たかのりにマヤが反論した。それに対して孝徳も反発する。


「んだとぉ?!俺だって気つかってるし!」


「‥はぁ、椎菜しいなちゃん、こんなアホほっといてアタシらだけで行きましょ」


「やっぱ、マヤちー冷てぇ!」


 そう言いながら4人はフロントを出て、研究施設の近くにある公園へと向かった。


 空は少しずつ暗くなっている。


「ベンチあるから、そこで話さね?」


「んじゃ、メンズは立っといてな?」


「はぁ?!なんでだよ!」


「だってベンチ1つしか無いんやし。レディーファーストや」


「だったら仕方ないか。」


「それでええんかい。」


 そう言って、ベンチには椎菜しいなとマヤの2人が座り、義也よしや孝徳たかのりは2人の前で立っていた。


 公園には、噴水ふんすいや滑り台などの遊具が寂しそうに置かれている。


 時刻じこくは19:14。公園の中にはびれた時計も置かれていた。

 夏の日差しはまだ残っており、ベンチの側でたむろう4人の事を夕日が優しくらしていた。


 しかし椎菜しいなは、相変わらず暗い表情をしながら黙っていた。


「んで?どうだったんだよ。アイツ」


 沈黙ちんもくに耐えられなかった孝徳たかのり椎菜しいなに問いかけた。だが、椎菜しいなは何も答えず、ただ下を向いたままだった。


「なぁ孝徳たかのり、俺と一緒にジュース買いに行かね?」


「ジュース?なんで?」


「いいからちょっと俺について来い。」


「ちょ、お前、腕引っ張んなって!!」


 義也よしやはそう言って、少し強引に孝徳たかのりの腕をつかみ、公園のトイレの裏にある自動販売機まで引っ張っていった。


「んだよヨッシー、椎菜しいなちゃんの告白の答えが気になんないのか?」


「うるせーなー、何かあったに決まってるだろ?お前もう少しアイツの表情見てやれよ」


 義也よしやは気づいていた。面会室から戻ってきた椎菜しいなの様子がおかしい事に。

 孝徳たかのり義也よしやの言葉を聞いて、ようやく理解した。


「‥‥‥なにかって、チサトっちが椎菜しいなちゃんの告白をOKしない訳無いだろ?」


「俺にも分からん。でも、あんな顔の椎菜しいなは今まで見た事がない。」


 義也たかのりは、デリケートな話は女子同士の方がいいと判断して、孝徳たかのりとあの場から離脱りだつしたのだ。


 きっと“何か”があったのだろう。それで無くとも、椎菜しいなの心情的に、複雑ふくざつな事があったのだろう。

 義也よしやはそう思い、椎菜しいなの事をマヤに託したのだ。


「とにかく、少しここで待ってようぜ。後はマヤがなんとかしてくれる。」


「なんとかって、そんな無責任むせきにんな‥。」


 ベンチに取り残された2人の間には、沈黙ちんもくが続いていた。マヤも、椎菜しいなの変化には気づいていた。


 元々は今日、椎菜しいなの背中を押す意味も込めて、彼らを2人きりにしたのだ。


 しかし、戻ってきた椎菜しいなは、赤嶺知束あかみねちさとに思いを告げられた顔はしていなかった。その顔は、絶望感ぜつぼうかんとも、失望感しつぼうかんとも違っていた。


 マヤは沈黙ちんもくの中、椎菜しいなに優しく問いかける。


椎菜しいなちゃん、どうかしたん?」

 

 マヤが椎菜に問いかけるも、椎菜はなにも反応しなかった。

 

「何かあったんやったらアタシになんでも言ってええんやで?椎菜しいなちゃん、1人で抱え込んじゃダメやで‥‥?」


 椎菜の横顔を見ながら、マヤはゆっくりと椎菜に語りかける。


 すると椎菜しいなの目からポロポロと涙が溢れてきた。


「‥‥‥知束ちさとくん。別れぎわにね、私に無理しないでって言ってくれたの。本当は、彼が1番辛いはずなのに。私、知束ちさとくんに会えてとっても嬉しかった。でも、とっても苦しかった。なんでかな、凄く苦しい。」


 そう言って椎菜しいなは自分の手首を強くにぎった。そんな椎菜しいなの手をマヤの手が優しくつつんだ。


「なんで、知束ちさとくんが辛い思いをしないといけないの?知束ちさとくんいつも頑張ってるのに。部活も勉強も、誰も見てない所で努力してるのに。神様は、なんでこんなイジワルをするの‥‥‥?」


 空には少しずつ星がかび始める。まるで椎菜しいなを見下ろしているかのように光っている。


「こんなのあんまりだよ。知束ちさとくんは、とってもいい人なんだよ。 知束ちさとくんは優しくて、キラキラしてて、本当は私なんかじゃ釣り合わないくらい素敵な人なの。 さっき知束ちさとくん言ってた、退院したらまた皆んなで遊びたいって。100点満点の笑顔で私に語りかけるんだよ。次は何しようかなって‥‥‥。」


 マヤの手に椎菜しいなの涙があふれ落ちる。そしてマヤはギュッと椎菜しいなの事を抱きしめた。


「‥‥‥しいなちゃん。」


 日がしずみ始め、徐々に電灯でんとうの方が明るくなっていく。その電灯がベンチに座る2人を照らしていた。


 自動販売機に居た義也よしや孝徳たかのりが、2人に見つからない場所で会話を聞いている。


「‥‥‥ヤダよぉ、知束ちさとくんに会いたいよぉ。ずっと一緒にいてあげたいよぉ。早く知束ちさとくんを助けてあげてよ。」


 椎菜しいなはマヤの服をギュッとつか沢山たくさんの涙を流した。

 マヤの目からも涙があふれ出した。そして力強く、そして優しく、椎名しいなの事を抱きしめる。


椎菜しいなちゃん、んでたモン全部吐いて。じゃないとアンタが救われへん。」


 マヤがそう言うと椎菜しいなの感情がさらあふれ出した。

 椎菜しいなはマヤの胸の中で大きな声を上げながら泣いた。

 知束くん、知束くん、と何度も名前を呼びながら、何度も息を切らしながら、声がれるまで泣いた。


 背中しに聞いていた孝徳たかのり義也よしやも、その声を聞いて涙をおさえようとしていた。


 1番辛くて痛い思いをしているのは、赤嶺知束あかみねちさと本人だ。

 それなのに知束ちさとは友人の前で決して弱い所を見せなかった。


「クソッ。チサトっちのくせに、椎菜ちさとちゃん泣かせやがって‥‥‥。」

 

 孝徳タカノリがボソッと呟いた。

 そんな様子を横で義也よしやは見ていた。

 

「なぁ、ヨッシー。俺決めたぜ、余計なお世話でもなんでもいい。俺に出来る事は全部やってやる。ちさとっちが退院したら、ゼッテー幸せになってもらう。文句もんくあるか?!」


 孝徳たかのりが立ち上がってそう言った。

 いつもヘラヘラしてて、不器用で、バカな奴だと思っていた孝徳たかのりが、今は誰よりも男らしく、真剣な顔をしていた。


文句もんくなんかねーよ‥‥‥。いいぜ?やってやるよ。知束ちさと椎菜しいなの為だ、なんだってやってやる!」


 そう言って2人は手を取り合いながら立ち上がった。


 夕日は最後のかがやきを見せてしずんでいく。

 美しく、多くの光と共に。


 地平線ちへいせんの向こう側、もうビルにかくれてよく見えない。


 これは、赤嶺知束あかみねちさとの知らない場所での出来事だ。






最後まで読んでいただき、

誠にありがとうございました。


今後とも、

この作品を完結まで描き続ける所存であります。


もし少しでも良いと感じられましたら、ブックマークやコメントなどお待ちしております。


また、アドバイスやご指示等ございましたら、そちらも全て拝見させて頂きたく思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ