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花束の約束 The Another World  作者: ぬうと
【第0章】灰色の世界
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【第3話】『 始まり 』





 ⒋花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第3話〉『 始まり 』




2043.8/25




【2043年8月25日土曜日】


 あれから1週間が経ち、検査を終えた17:30。僕は今日も、孝徳たかのり達が面会室に来るのを待っていた。


 外の季節はきっと夏なのだろう。僕はこの施設から一歩も外に出られない為、外の世界の状況が何も分からなかった。


 しかし、テレビやネットはつながっているので、ニュースやその日のトレンドなんかはチェックする事ができた。


 おまけにここに居る間は、無料で漫画や小説が読み放題だった。と言うのも、僕がドクターに注文すれば全て買えそろえてくれるのだ。


 なので僕は、右目の痛みがひどい時以外は、ドクターに注文した漫画や小説を読んで過ごしていた。


 しかし、この施設で不可解な点がいくつかある。


 【問・その一】なぜ隔離かくりする必要があるのだろうか?


 【問・その二】そもそも僕の目の病気は、人に移る病気なのだろうか?


 【問・その三】もしそうだとしたら、なぜ僕にその情報が回ってこないのか?


 【問・その四】そもそも僕が麻酔ますいで眠らされている間、どんな検査をしているのだろうか?


 正直、キリがない程の疑問が頭の中にいていた。


 しかし、僕にはどうしようも出来ない。なぜなら、僕には知識ちしきが全く無いからだ。


 医療いりょう知識ちしきも、病気の事も、全くと言って良いほど自分では何も分からない。


 だから僕はドクター達を信用する事に決めた。


 この病気を一刻いっこくも早く治してもらえるのなら。

 この病気が他の誰かにも発生しているのなら、僕はドクター達の研究材料になってもかまわないと思ったのだ。


 そんな事を考えながら本を読んでいると、いつの間にか時間は17:56になっていた。


 考え事をしていた為、あまり本の内容が頭に入ってこなかったのだが‥‥。そろそろ孝徳たかのり達が面会に来る時間だ。

 僕は今読んでいる本のページにしおりして、面会室へと向かった。


 僕の部屋から面会室へのルートは1つだけである。

 部屋を出たら長い廊下をひたすら真っ直ぐに進み、エレベーターでB3から面会室のあるF1まで上がる。

 そしてF1に到着したら『Visiting room❷』と書かれた部屋に入る。


 ちなみに『Visiting room❶』は、いつもドクター達とカウンセリングや診察しんさつなどをしてもらう時に使用する。


 この施設は何と言うか、病院?と言うより近未来きんみらい的な刑務所のようだと思う。見た感じではだけど…。


「こんちわ〜ちさとっち!!今日はいつにもして元気そうだな!!良い事でもあったの?」


 相変あいかわらず陽気ようき孝徳たかのりがガラスしに話しかける。


「別に何も無いよ〜。あれ?今日は孝徳たかのり椎菜しいなの2人だけ?」


 どうやら今日面会に来たのは、孝徳たかのり椎菜しいなの2人だけのようだ。

 まぁ、これまでずっと4人が時間を合わせて来てくれていたから、僕も心配していた所だ。

 土曜日は休日だし、1日くらい面会に来ない日があっても別にかまわないのだが。1日くらい…。


「こんにちわ知束ちさとくん。今日、義也よしや君は陸上の選手権大会せんしゅけんたいかいに行ってるよ。マヤちゃんは義也よしや君の応援だってさ!」


「あ〜、そう言えば今日が夏最後の大会だっけ」


「そうらしいよ〜!それで、義也君とマヤちゃんから手紙預かってるから、いつもの差し入れ口に入れておくね」


「うん、ありがとう!」


 こんな日常にもれてきた。

 れとは恐ろしい物で、ココに来たばかりの頃は不安と恐怖で体のふるえがおさまらなかった。しかし、今となってはココに居る方が安心できる気がしていた。


「そーだ!ちさとっちって本好きだったよな?実は駅前の書店で、お前が好きそうな本仕入しいれといたからさ、良かったら読んでみろよ!」


「本当?ありがとう!」


「あ‥‥‥、えっちぃ本も入れといたから、椎菜しいなちゃんにはバレんなよ‥‥‥?」


 孝徳たかのりは、僕に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言った。その顔は、何故なぜだがめちゃくちゃドヤ顔である。

 その後ろで、椎菜しいな純粋じゅんすいそうな顔をしながら僕らを見ていた。


「タカノリくん?何をコソコソ話してるの?」


「いや〜!別に〜?????」


 僕は少し苦笑いを見せた。

 孝徳たかのりはいつもこんな感じなのだ。世話焼せわやきなのか、気を遣っているのか。

 まぁコレも、孝徳たかのりなりの“優しさ”なのかも知れない。そう考えたら、コイツの不器用さもにくめない気がした。


「‥‥‥じゃあ、俺今日は先に帰っから!後は若いお二人でって事で。ほんじゃ、さいならぁああああああ!!」


 そう言って孝徳は、全力疾走ぜんりょくしっそうで面会室を飛び出して行った。

 その後ろ姿を見て、やっぱりアイツはただのバカなんじゃないか?と思ってしまったが、気にしないでおこう。


 僕の前には、椎菜しいなが1人でポツンと立っている。

 どうやら少し顔が赤いような気がする。夏風邪なつかぜだろうか?


「アイツ意味わかんないよね〜!」


「‥そ、そうだね〜!」


 僕はそのまま思った事を言ってみる。しかし、椎菜しいなの反応が少し変な気がする。


 いつもならもっと笑いながら答えてくれるのだが、その様子は少し、よそよそしかった。


 やっぱり風邪を引いているのだろうか?


孝徳たかのりのヤツ、何考えてんだろうね〜!」


「‥わ、分からないね〜!」


 うん、明らかに椎菜しいなの様子がおかしい。

 どうもさっきから目を合わせてくれない。それに椎菜しいなの顔が異常なほど赤い。凄く熱があるみたいだ。


椎菜しいな、大丈夫?」


 心配になった僕は、椎菜しいなに質問してみる。

 しかし椎菜しいなは、オドオドした表情で「だ、大丈夫だよ〜」なんて、見え見えの嘘をついていた。


 きっと、隔離かくりされている僕に心配させまいと気を遣っているに違いない。

 そんな事を考えていると、少し間を開けて、椎菜しいなが目を泳がしながら質問してきた。


「ねぇ、知束ちさとくん‥‥‥。知束ちさとくんは、病気が治ったら、まず何をしたい?」


「んー、そうだな。今まで考えた事無かったから、これと言ってしたい事とか無いかも」


「‥‥‥そっか。」


「強いて言うなら、皆んなで遊びに行きたい!ほら、高1の時みたいに5人ではしゃぎまくってさ!後カラオケにも行きたいな!皆んなで日帰り旅行とか楽しそうだし、そう考えたらやっぱやりたい事いっぱいあるかも!」


「‥‥‥それいい、楽しそう!」


 つい調子に乗って、やりたい事を熱く語ってしまった。しかし、椎菜しいなはそれに乗ってくれた。

 それどころか、さっきまでとは違い、僕の目を真っ直ぐに見て話を聞いてくれる。


 思わず僕も、熱を込めて話し込んでしまった。


「後、マヤちゃんのラーメン食べに行きたい!」


「それは私も食べたい!」


「うん、絶対行こうね!」


 そう言って椎菜しいなは僕の他愛もない話を聞いてくれた。


 『 もしも、この病気が治ったら? 』


 『 もしも、退院する事が出来たらなら? 』


 僕はそんな事をこれまで考える暇も余裕も無かった。その反動はんどうで、今日は久しぶりにテンションが上がってしまった。


 本当は、皆んなとやりたい事が沢山あった。しかし、僕はいつの間にか忘れていたようだ。


 だからこそ、これからはちゃんとこの病気と向き合う事に決めた。少しでも早く、皆んなの元へ帰れるように。

 絶対に治して皆んなともう一度、思いっきり遊びたい!


 その日、僕の心に新しい目標が生まれた。


 そうして長々と話をしていると、面会終了のブザーが鳴った。

 そのブザー音を聞いて、椎菜しいな名残惜なごりおしそうに言った。


「じゃあ‥‥。また来週も来るね」


 椎菜は毎週欠かさず僕に会いに来てくれる。僕にとって、それが少し申し訳ないような、心配なような‥‥。

 とにかく、椎菜には椎菜の人生があるのだから、あまり僕の為に気を遣わせないようにしたい。


「あんまり無理しないでね。毎週来てくれるのは嬉しいけど、ほんとにたまにでいいから。無理しないでね」


「‥‥‥うん、分かった。」


 そう言って椎菜しいなは面会室を出た。

 いつも通り椎菜しいなの後ろ姿を見送った僕は、そのまま自分の部屋に戻るのであった。






最後まで読んでいただき、

誠にありがとうございました。


今後とも、

この作品を完結まで描き続ける所存であります。


もし少しでも良いと感じられましたら、ブックマークやコメントなどお待ちしております。


また、アドバイスやご指示等ございましたら、そちらも全て拝見させて頂きたく思います。

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