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花束の約束 The Another World  作者: ぬうと
【第1章】黄昏の世界
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【第9話】『 剣と魔法の世界 』

 48.花束の約束【第1章】- The Twilight World -〈第9話〉『 剣と魔法の世界 』




 マーフと分かれて、僕は王都を目指した。森の中とは違い整備された道を歩くのはとても楽に思える。なんたってそこには道があるのだから。

 道無き道を進むあの恐怖はもう二度と味わいたくは無いものだ‥‥‥。

 そんな事を考えながら僕は、呑気に鼻歌なんて歌いながら広々としたら農園の真ん中の道をひたすら真っ直ぐに歩いていた。

 

 少し歩くとその道は街道に繋がっており、前の方から少しずつ小さな集落のような煙が見えてきた。

 間違いない。きっと村があるのだろう。まだこの辺りは森に近い地域だから、国の入り口とは少し違う気がする。

 

 村の門には若い兵士が2人あくびをしながら待機していた。1人は細身で、もう1人は体のゴツいお兄さん。なんだか2人とも気の抜けた表情をしている。

 意を決して、その2人に僕は近づいて声をかけた。


「あの、すいません。王都を目指しているのですが。」


「なんだ?あんた見ない顔だな。またどっかの商人か?ここから王都までは歩きじゃ2日はかかるぞ?」


 細身の兵士がとても眠そうに教えてくれた。


「いやいや、この村から馬車が出ているからそれに乗ればあっという間に王都さ。姉ちゃん??いや、にいちゃんか、髪が長いからどっちか分かんなかったぜ。にしてもあんた若いね。王都へは何しにいくんだい?」


 もう1人の体のゴツい兵士は活発な様子で聞いてきた。


「僕は“時の崩壊”を食い止めにいくんです。」


 と言うと、2人とも「は?」みたいな顔をしていた。

 もしや?と思って言って見たのだが、やはり“時の崩壊”なんて言葉はこの地域の人には知られていないのだろう。僕は咄嗟に誤魔化した。


「あ、いや、えっと‥‥その‥‥‥観光ですかね‥‥‥。」


 僕がそう言い直すと2人は目を合わせて頷いた。

 そして今度は2人とも目を輝かせながら顔を近づけてきた。


「なんと!!観光か!!!」


「いやぁ、観光客なんて何年ぶりだな‥‥。」

 

「王都には観光できる場所が百万通りあるんだぜ!」


「そうそう!中でも“ピシャールの飲んだくれ屋”は欠かせねぇな!」


「なんたって新鮮な魚にお肉、そして美味い酒が飲める最高の店だ。」


「他にもゴブリン美術館にコーラル広場、他にも猛毒羊の肉をふんだんに使ったスープが売りのレッドワインズレッド!!!」


「この国は豊かで飯も美味い!!そして女も美女揃いだからにいちゃんにもチャンスがあるかもな!!」


「……あ、あははは。」


「とにかくこうしちゃいられねぇ。あんたみたいな顔の男はこの国にはほとんどいねぇからな!!」


「僕みたいな顔?」


「あんた東洋人か?人族でにいちゃんみたいな容姿は珍しいからよ。最初に見た時はべっぴんな姉ちゃんかと思ったくらいだしよ!!」


 なるほど。どうやらこの世界にも様々な人種があるみたいだ。さっき出会ったマーフと言い、ここの人達はヨーロッパ人に近い気がする。もっと言えばラテン系?ゲルマン系?イギリスやオランダなどの地域の人によく似ている。

 テレビや映画でしか見た事は無かったけど、まるで中世ヨーロッパから出て来たような背格好だ。

 

「とにかくだ。この国はルギナ諸国の中で1番広くて1番綺麗な夢の楽園さ!!」


「立ち話もなんだからにいちゃんを車の所へ案内してやら!!」

 

 そう言いながら2人は僕の腕を掴むと、村の奥へと半ば強引に連れて行った。


「え?え?え?」


 僕が困惑している間に村の奥にある馬車?のような物に乗せられている。馬が引っ張っている訳ではないようだけれど……。

 この生き物はなんだ??馬車と繋がれている生き物は、まるで真っ白な毛皮の大きな犬みたいだ。


「あ、あのぉ〜」

 

 僕の声は虚しく2人の兵士はニッコニコだった。


「にいちゃん!!良い旅になるといいな!!」


「俺たちも久々に旅人を王都へ案内できて嬉しいよ!!また何処かで会おうや!!」


「あ、はい!ぜひお会いしましょう!」


 そう言う暇もなく、僕の乗る馬車??のような物は早速出発してしまった。

 それもすごいスピードだ。馬車?を引っ張る大きな白犬も、それを操るボロボロな服を着たおっちゃんも、鼻息上げながら凄い勢いで車を走らせている。


「何年ぶりのお客さんだろう‥‥‥。こりゃわし今日死ぬのか?!」


 馬車を操るおっちゃんが涙を浮かべてそんな事を言っていた。全く状況が掴めぬまま出発してしまったが、思っていた以上に移動スピードが早い?!!!

 一瞬でその場から消えて、僕を乗せた馬車は出発してしまった。気がつくとさっきの兵士2人はもう遠くの遥か彼方に居る。


「にいちゃーん!!王宮へは近づくなよ〜!!」


「え??なんて言いました??!」


 遠すぎて聞き取れなかったのだが、こんなに歓迎??されて嫌な気はしないし、ここはお言葉に甘えて王都まで送って行ってもらおう。


 にしてもいい人なのか、悪い人なのか‥‥‥。

 さっきから出会う人達は皆んなお転婆な人が多いなぁ。

 マーフも含めて‥‥‥。


「にいちゃん!!馬車は初めてかい??」


 生い茂る木々の中を走りながら、馬車に乗るおっちゃんが後ろを向きながら声をかけてきた。


「えぇ、と言うかここに来て何もかも全てが初めてです。」


「そうかい。じゃあ王都に着いたらぶったまげるぞ??」


「え?」


「昔はよく旅人を王都まで乗せたもんさ。その時のアイツらの顔ときたら、王都を前にそりゃあ目ん玉飛び出そうなくらいびっくりしちゃったでな。」


「そうなんですね。そんなに凄いんですか?」


「凄いなんてもんじゃ無いさ。そりゃあもうぶったまげるぞ?全ては現国王が綺麗好きなもんで何でもかんでも綺麗に整備されてんだばぁ。」


「へぇ〜!なんだか凄くワクワクしてきますね。」


「そりゃあお前さんいくら想像しててもびっくりすんだべさ。今まで乗せた奴らも最初は想像してドキドキしちゃったに。王都着いてっと、皆んな腰抜かすど??」


「‥‥‥そ、そんなに??なんだか少し怖くなってきたなぁ。」


「怖がるこたぁねぇ。にいちゃんはただ景色でも眺めてろぃ。」


 このおじさんはまるで僕がどんな反応をするのか分かっていて言っているみたいだ。

 初めての異世界で、初めての文明社会か、確かにびっくりしそうだけど、どんな場所なんだろう??


「見えてきたっぺ。あのトンネルの先が王都だよ。」


「え?!もう??さっき歩いたら2日かかるって??」


「俺と“白犬コイツ”の馬力を侮って貰っちゃいけねぇな。俺たちゃナンバーワンのスピードとお客様の乗り心地を誇ってんだべよ。さぁもう着くべ!!!」


 馬車の先に見えるのはとにかく大きい巨大樹だった。

 ひと1人飲み込むなんて訳ない、街一つ分覆い隠すほどの巨大な木が目の前へと現れたのだ。


「これは‥‥‥でかい“木”か?!山脈だと思っていた場所にまさかこんなにでかい大木があるだなんて。軽く5000メートルはあるぞ。もっとでかいかも‥‥。」


「この巨大樹を知らんとね?こりゃあ大地の女神が創り出した三代大木の一つツウァル木だっぺ。空より高く地獄の底まで埋まってるど?んまこの辺りは丸ごと結界で守られてっから悪さする魔物は入ってこれないんだば!」

 

 そして、そこには大木の幹の麓にある小さなトンネルがあった。その小さなトンネルを目掛けて馬車は突っ込んでいく。


「え、ちょ!!ぶつかるうううううう!!!!」


「その反応100点だっぺ」


 おっちゃんはそう言って、その大木の中へ一瞬で吸い込まれて行った。中は一瞬、キラキラと輝く“何か”を通り過ぎたと思ったら、いきなり目の前が一瞬ピカッと光った。

 僕は腕で目元を覆い、その光を遮った。すると、少し経って徐々に僕の腕や顔に陽光が当たり始める。


「生きてるかぁ??にいちゃん。到着したぞぉ!!!」


 僕はゆっくりと目を開いた。

 するとそこに映ったのは、僕が想像していた場所よりも数百倍素敵な景色が広がっていた。


「ここがこの世で最も美しい国、ベルファシス王国だでな。」


 そこには見たこともない神殿がいくつも並んでいて、それがこの広い国を一周するほどだった。

 重力がどう作用しているのか分からないが、上にも下にも左右にも、至る所に真っ透明で大きな海が広がっていて、そこに大きなクジラや海の生物、なんならリヴァイアサンのような未知の生物達が何匹も群れを成して生息していた。周りを取り囲む神殿の中にまで透明な水がびっしりと詰まっている。


 そして、魔法の絨毯で行き来する人々。レトロな電車も海の中を走っている。何より驚くべきはあの大きな樹木の中とは思えないほどキラキラと明るい空間が広がっていた。


「凄い。あの木の中にこんな場所があったなんて。」


「ここはまだ下層だっぺ。もっと上にいきゃ人の住む居住地区に出れるさぁ。」


「下層?なのにお日様の光が届いてるよ??」


「ツウァル木の中はほとんど空洞だっぺ。後は魔術師達が日の光をあちこちに屈折させてんだっぺよ。んま詳しい事はわっかんねっけど。」

 

 辺りには見たこともない生き物達、鳥、魚、そして哺乳類らしき生物が人族、亜人族、獣人族達と共存している。そして赤、黄、黄緑の妖精?のような小さな人型の生物も居る。


「ここが、異世界か。」


 思わず声が溢れた。そんな僕の顔を見ておっちゃんはさぞ満足そうにしていた。


「どうだい?気に入ったかい?」


「もちろんさ。ねぇ、あれは何?!」


 僕は無邪気に指を刺しておっちゃんに聞いた。

 指の先には、魔法使いのような人々がお互いに手をかざしながらドーム上の建物の中で赤い液体を生み出しているようだった。


「あぁ、あれは治癒のポーションを作ってんだべな。」


「治癒のポーション??」


「そんだぁ。どんな怪我でも病でも完璧に直す薬の事さね。魔除けにも効果があるでな?あーやって魔術師達は実験しとるんだべなぁ〜。」


「じゃあ、あれは何??」


 今度は別方向を指差して聞いた。


「あぁ、あれはこの国の騎士様だんな。この国の身分は騎士から上が純騎士と聖騎士とあっぺ。ありゃ遠征試合中でねっが?」


「戦っているの?」


「もしもの時に備えてるんだっぺ。もし他の国と戦争にでもなったらおっそらしいかんな。」


 戦争?時の崩壊とは違うけど、戦争も多くの人が死ぬ。言ってしまえばそれも災害級の出来事じゃないか。


「ねぇ、この国は戦争をしてるの?」


「んあ?昔だ昔。もう戦争なんてうんざりだっぺな。先代の国王は現国王の父君だったんだけんど、戦死しちまってだな。それで現国王は戦争や争い事をとにかく嫌っておるんだばさ。」


「そうなんだね。なるほど。」


 とにかく、僕が真っ先にやるべきなのは、この国で“時の崩壊”についての情報集めをしなきゃ。


「んところで、にいちゃん。どこに下ろしたらいいっぺ?」


「あ、えーと。じゃあ宿屋とか民宿のある場所。それとこの世界について詳しく聞ける所があればお願いできませんか?」


「あいよっ!任せとくれ〜!!」


 そう言っておっちゃんは僕を、“ベーゼル地域”と呼ばれる場所で降ろしてくれた。そこはキラキラするような綺麗な装飾は無いものの、とても多くの人々が住んでいる地域らしい。

 旅人が寝泊まりするにはうってつけの宿もあって、治安もとても良い街だと教えてくれた。

 

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