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花束の約束 The Another World  作者: ぬうと
【第1章】黄昏の世界
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【第7話】『 錠尾結界 』





 44.花束の約束【第1章】- The Twilight World -〈第7話〉『 錠尾結界 』



 


『知束くん、私、あなたと友達になれて良かったと思うの。』


 そうだね。僕もそう思うよ。


『あなたに出会えたから、私は前を向けたんだよ。あなたに会えたから、私の人生は輝いたんだよ。あなたが居たから、私の見る世界はカラフルに色付いたんだよ!』


 あぁ、僕もさ。僕も君に出会えたから。この世界が‥‥。


『 最後に約束 』



 




 


 あれ、どうなったんだ?

 結局僕らはあのドラゴンから逃げ切れたのか?

 

 なんでこんな事思い出したんだろう。約束‥‥。


 あの子、あの子は無事か?!

 一体どれだけ時間が経ったんだ。なんだかずっと眠ってたような‥‥。


 あれ、声が聞こえる。

 誰かの声が‥‥しいな?違う。この声は、


「アデン!返事をして!あなたのおかげよ!私達無事に結界まで辿り着けたのよ!!ねぇ、いいから返事をして!お願いだから。」


 僕は魔法の絨毯の上で横になっていた。

 気がつくとそこには女の子が居て、僕の胸の上で泣いている。


「バカ‥‥。私、あんたの事信じたのに。」


 体の痛みがゆっくり和らいでいく。

 さっきまで死にそうなくらい痛かったのに。まるで何事も無かったかのように。


「‥‥ぁ、りが‥‥‥とう‥‥。」


「?!生きてる?!」


「‥‥お‥‥‥。」


「どうしたの?!どこか痛むの?!私が手当してあげるから待ってて!」


「‥‥‥お‥‥‥」


「何よ!今見てあげるから待ってて!」


「‥‥お、お、重い。」


「‥‥‥‥‥‥‥‥は?」


 この後僕は軽く半殺しにされた。





 


「まったく、元気そうで何よりよ。」


「ごめん。気を失ってたみたいで。」


「ほんと!心配したんだから!」


「ごめんって。所でドラゴンが追いかけて来てないって事はここは結界の中なのかい?」


「ええ、そうよ。ここは錠尾結界の中。ベルファシスの奥地、ルウム王国の国地内よ。」


 少し回りくどい説明をするなぁ。

 

「そうか。ならこの先は人が住む領域って事だよね?」


「えぇ、そうよ。」


 ついに人の住む領域に来れた。

 ドラゴンに遭われて一時はどうなるかと思ったけど、どうやらあの記憶に助けられたらしい。


「ならこの国でまずは探さないといけない。」


「探す?何を探しているの?」


「“時の崩壊”につながる情報。」


「ときのほうかい?なによそれ。初めて聞いた。」


「言ったでしょ。僕はこの世界を最悪の事態から救いに来たんだ。」


「そ、その話ホントなの?。」


 さっきまでドラゴンに追われてたのが嘘みたいに爽やかな風が吹いている。結界の内側ってだけでこんなに安心できるものなんだ。


「ねぇ、君はどうするの?」


「どうって何が?」


「君はこの後、国に帰るのかい?」


「そうね。私は1人で国境まで行くわ。私の仕事があるから。」


「君の仕事?君はどんな仕事をしているの?君の職業は?」


 僕がそう聞くと、少女は少しムスッとした様子でこっちを見ている。


「あのさー。さっきからキミキミって私にはちゃんと名前があるんだけど。」

 

「名前、そうだ。君の名前は?」


「私の名前はマー‥‥‥。いぇ、その。」


 彼女は少し悩んだ様子を見せた。

 目を合わさず下向きに小さな声で名乗った。


「私はマーフ。マーフ・エラベルフ。」


 そう名乗った彼女の顔はどこか引け目を感じているようだった。名前に何か意味があるのか、名乗る事を恐れていたのか、どちらにせよようやくこの子の名前を知れて嬉しかった。


「マーフか。いい名前だ。」


 なぜか僕の顔には喜びで溢れていた。

 なんだか久しぶりに友達ができたような感覚。こんなに嬉しかったんだ。


「んなっ、そんな。いい名前だなんて。私。」


 彼女はなんだか動揺している。

 なんならちょっと顔を隠している。僕と目を合わせまいと下を向いているけど、この子の耳はとっても赤かった。


「ようやく聞けた。なんだか友達みたいだね。」


「え、友達?私とあんたが。」


「え?嫌だった?」


「んーん。別に、嫌とかじゃ、ないけど。」


 また赤くなってる。この子は恥ずかしがり屋なのかな。ちょっとだけシイナに似てるな。


「あーもう、とにかく!!この国では婚姻前の女性の名前を褒めるのは結婚相手として見てますって相手に告白してるような物だから今後は気をつけるように!!」


「え、そうなの?!名前を褒めただけで??」


「そういう文化なの。弁えなさいよ。」


「そうなんだね。ごめん。今のは撤回するよ。」


「べ、別に撤回までしなくてもいいけど。」


 なんだか、天邪鬼な人だなぁ。

 けど、マーフって名前、すごく素敵な名前だと思うけど。

 まるで絵本に出てくるお姫様みたいに可愛い響きだし。


「あれ、マーフ。」


「何よ。さっそく呼び捨てかしら。」


「あぁ、ごめん。マーフさん。一つ聞きたい事があるんだけど。」


「はぁ、マーフでいいわ。それで?何が聞きたいの?」


 マーフは少し溜め息を吐いた様子で聞き返した。


「君ってさ、昔僕と会った事ない?」


 確証は無いし、単なる思い込みかも知らない。

 けど、もしこの子があの子なら。きっと僕らは出会った事がある。


「はい?あなた今日なんて初めて見たわ。また私を誑かそうとしたってその手は通用しないわ。」


「そんなつもりは無いよ。」


「な、無いの……?」


 マーフは少し同様を見せた。

 しかし、僕は考えてしまったんだ。この世界に来る事はもしかしたら決まっていたのかも知れない。


 まだ僕が幼い頃の記憶、迷い込んだ森の中で、この子と出会った事がある。きっとその時も同じ声で同じやり取りをした気がする。


「そっか、昔、君とよく似た人に会った気がしたんだ。けど人違いだったみたい。ごめんね。」


 遠い記憶だ。もしかしたら夢かもしれない。

 いや、あれは夢だと考える方がしっくりくる。

 なんたってあの頃は大好きな絵本を四六時中読んでいたし、妄想と現実の区別もつかない程子供だったのだから。


「フ、フン!とにかく私は王宮に用があるから。あなたは安全な街道を渡って行きなさい。ここを真っ直ぐ行けば王国よ。」


「うん、わかった。色々と世話になってしまった。ありがとう。」


「べ、別にあんたの為じゃないんだからね!ちょっと顔がいいからって何でもかんでもあなたの為だなんて思わない事ね!!」


「顔……か?」


「う、うるさいわね!!とっとと行ったらどうなの?!」


「あぁ、わかった。次は森の中で歌う時は足元に気をつけるんだよ?」


「それはもう忘れなさい!!」


 マーフは僕の頭をつかみながらグリグリと拳を当ててきた。

 きっとこの子の歌が僕をここまで連れてきてくれたんだろう。その事に少しだけ感謝しないといけない。


「とっても素敵な歌だったよ。今度はもっと大勢がいる場所で歌って欲しいな。」


「‥‥‥そんな日は来ないわ。」


「え?」


「とにかく、そう言う事だから。もうその歌の事は忘れて。私の事も忘れて。あなたを助けたのも単なる気まぐれだから。もう私には近づかないで。」


 マーフの口調が一変した。

 まるで悲しそうな目をしている。森の中で歌っていた時と同じ目だ。

 何かに怯えているような。何か淋しげな様子だった。

 僕はそんな彼女の変化を感じ取り、即座に目線を逸らした。


「そうか、だがいつかまた会えた時は、今日の事を思い出して一緒に笑い合えるといいね。」


「‥‥‥////」


「それじゃあ僕はもう行くよ。世界を救う為に。」


 僕は荷物を持った。ローブを着直して、少し先へ歩いた。


「ま、待って!」


 マーフが呼び止めた。

 僕は少し振り返り彼女の顔に目を当てる。


「わ、わた、しと‥‥‥。」


「ん?」


「こ、今度会った時は、私と友達になってくれますかっ!」


 彼女はまるで勇気を振り絞ったかのように聞いた。

 顔は林檎のように真っ赤で、必死にスカートの裾を握りしめて、唇を噛み締めていた。


「もちろん!次は友達になろう!」


 僕がそう言うと、彼女の顔は笑顔でいっぱいになった。


「ほ、ほんと?!ほんとよ!!嘘ついたら承知しないからね!!約束だからね!!」


「分かったって!じゃあ次は王国で!」


「うん!!」


 僕らはそう言って別れた。

 マーフが何を抱えているのかは分からない。きっと何か事情があるんだろう。もちろん力になれるのならなりたい。

 だが、その事情を聞き出す真似はしたくない。だって僕は彼女に命を救われたんだから。

 きっと、また会えるだろう。その時までこの感情は閉まっておこう。




 


 僕の後ろ姿が小さくなるまでマーフは手を振っていた。

 そして再びスカートの裾をギュッと握りしめた。僕の姿が見えないようになった時、ポツンと一人言をこぼした。



 

「あなただったのね。ちさと。」

 


 

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