【第5話】『 ベルファシスの奔流を 』
43.花束の約束【第1章】- The Twilight World -〈第5話〉『 ベルファシスの奔流を 』
少女は僕が乗り込んだ瞬間に凄い勢いで絨毯を走らせた。
「僕にも考えがある!!君は早く逃げろ!!!」
僕が絨毯に飛び乗った瞬間、その絨毯は大きく円を描くように動き始めた。そして驚くべきことに宙に浮かんだまま河川を早いスピードで駆け抜けた。
「グァアァオオオオ!!」
ドラゴンは僕らを見つけるなりすぐに追いかけてきた。
さっきまで僕らが居た場所はもうドラゴンの顎に砕かれて見る影もなかった。
「ねぇ!!あんた考えがあるって一体どうするの?!」
「考えはあるんだ!!」
「だからそれを詳しく教えてよ!!」
「考えはあるんだ‥‥‥。けどまだ足りない。」
「え?!何が?!!!」
「まだ‥‥‥足りないんだ。」
少女は両手を絨毯の上に乗せてコレを操っているようだ。
これが魔法なのだろう。しかし、今はそんな事に感心している場面ではない。
この子を信用したからには、僕がこの子を安全な場所まで送り届けるんだ!!
その為には、この状況をなんとかするしかない!!
「足りない。まだ考えが足りない!!とにかくもう少し時間をくれ!!後もう少しで出来るかも知れないんだ‥‥‥!」
僕の考えてる事が上手くいけば、きっと僕らは助かる。
その為に、ドラゴンの特徴、生態、好き嫌い、そして安全な場所がどこなのか?色々と情報は足りなさすぎる。
しかし、そう考えてる間もドラゴンはどんどん迫って来る。
ココが森の中の河川だから、周囲の木や岩がドラゴンの進行を阻害して、上手く近づけないようだ。
だが、奴の目は僕らの事をずっと睨んでいる。
「ねぇ、なぜドラゴンは僕らを追いかけるの?」
「そりゃあんた!!私達は人間でしょ?!」
「どうして僕らを狙うんだ?!恐らく捕食対象として追われてるんだろうけど‥‥‥。お腹が空いているとか?」
「違うわよ!!あんたバカね。人族は比較的に神に近い位置に居る存在だから竜は喰らおうとしてるのよ!!」
「ただの食事とは違うって事か?」
「全く違う!!人族は神が作り上げた存在よ。だから肉体はもちろんだけど魂まで竜に食われてしまうの。人の魂を得た竜は神龍になれるって言うわ。食われたらもう誰にも思い出されない。存在ごと消されてしまうのよ。」
「つまりそれがドラゴンの本能って事か‥‥‥。」
「竜は神に近い存在を捕食し、自分の養分とするの。そしたらその竜も高次元の存在になれるからよ。あんたこんな事も知らないの?!」
とにかくこの世界ではドラゴンは異質な存在のようだ。
僕が生まれ育った世界ではドラゴンなんて想像上の生き物だったから対策なんて全く思い浮かばない。
いや、一つだけある。
ほとんど賭けになってしまうが、この子を信じるなら賭けてみるしか無い!!!
「この先の渓谷は凄く狭くて危険な場所だから、あんたは頭を隠してじっと捕まってなさい!!」
少女は大声で言った。
河川の木々を抜けた先はとても狭い渓谷だった。川の流れはそんなに早くは無いが、周りには岩とその間から申し訳程度の木々が何本か育っている。
狭く高さのある場所な分、ドラゴンの炎を避けながら進む事は出来るようになったが、その分ドラゴンと距離が近くなってしまった。
このままだと時期に焦がされるか食われてしまう。
「グァァァァアァァアアアアアアア!!!」
岩山が震えるほど大きな声を上げながらドラゴンが口を開けて突っ込んでくる。
「避けろ避けろ避けろ!!!」
「言われなくてもやってる!!!」
少女は後ろのドラゴンの攻撃を交わしつつ、前の岩や木々などの障害物を避けながら進んでいる。
この渓谷は開けてはいるが、道が分かれていたり、とにかくクネクネしていて、この先に進む為には操縦に相当な集中力が必要なはずだ。
「右だ!!右から攻撃が来るぞ!!」
「後ろ向いてるんだからあんたの右は左でしょ!!ちゃんと言って!!」
「ちゃんと言ってるよ!!次も右だ!!3秒後には来るぞ!!3、2‥‥‥‥!!!」
「今よ!!!」
バヒュン!!!!!
少女は思いっきり旋回し、ドラゴンの攻撃を回避した。
「また来るぞ!!今度は左からだ。下に避けろ!今だ!!」
「うっさい!わかってるって!!」
攻撃を避けたおかげでドラゴンは岩肌に衝突し、軽い脳震盪を起こしているようだ。
奴は大きつ翼を広げて、ゆっくりと上に浮上し始めた。
さっきの連携で少しずつドラゴンの攻撃を交わせるようになってきたが、時間の問題だろう‥‥‥。
「後、少しなんだ!!アレを使うにはまだ分からない事が‥‥‥!!」
僕の想像通りなら、きっと役に立てるはずだ。
この子の協力と、僕に勇気さえあれば。そう、出来る出来ないでは無く、きっときこれは勇気さえあればの話だ。
「悩んでても仕方がない。やるしかない。」
「はい?!聞こえない!!」
「ねぇ!!!ここから先に逃げ場はあるの?!」
「そりゃ、王都まで行けば結界があるから“アイツ”は入ってこれないだろうけど‥‥‥。」
「王都まで残り何キロかわかる?!」
「え?キロ?!」
「距離だよ!!距離!!後どのくらいでそこに着くの?!!!」
「分からない。ぶっ飛ばせば10分もかから無いと思う。けど、それより先にアイツを撒かないと王都に着く前に食われるわ!!!」
「考えがあるって言ったろ。君は前だけに集中して!!!」
「ちょっと‥‥あんた何する気なの‥‥‥?!」
今、ドラゴンは上空から僕らを様子見している。
きっとチャンスがあれば降下して絨毯から叩き落とすだろう。そして2人が別れた瞬間、1人ずつ喰われる。
「いいかい?僕は君やこの世界の事を何も知らない。ドラゴンなんて生まれて初めて見た。」
「急に何よッ‥‥‥!」
「聞いてくれ。」
少女の言葉を遮るように言った。
「君は僕を見捨てて、1人で絨毯に乗り、逃げる事だって出来た。その方が安全だし、僕が喰われてる時間をもってすれば君は確実に助かっただろう。けど、君は僕を絨毯に乗せて助けた。だから僕は死んでも君を助ける。」
「‥‥‥そんなの、当たり前よ。」
「君は僕の友達に少し似てるんだ。」
「‥‥ともだち?」
「1つ約束してくれ、何が合っても絶対後ろを振り向いちゃダメだ。いいか?」
「振り向きたくても向けないわよ!」
「あぁ、その調子だ。何があっても絶対だぞ?いいな?」
「分かったわよ!!振り向かないから!!」
「よし。」
正直、生き残れるかは賭けだ。もしもの場合は僕が囮になってこの子だけでも‥‥‥。
僕は絨毯の上に立ち、竜と真正面で睨み合っている。
「ねぇ、何をするのか知らないけど、ちゃんと捕まっておいて!!じゃないと振り落とされるわよ?!」
「僕の心配は要らない。考えがあるんだ。」
「本当に?!絶対に助かるんでしょうね!!」
「あぁ、僕を信じろ。」
少女は一瞬後ろを見てグッと目を瞑った。
「わかった。あんたを信じるから!!!」
少女はそう言って前を向いた。その瞬間、絨毯のスピードはさらに速くなった。
そう、立っているのも限界なくらいの速さで進み続けている。
「よし、いいぞ。このスピードなら。」
僕も竜を睨みつける。
竜は縦横無尽に岩や木々の間をすり抜けて、こちらへ襲い掛かろうとしている。
「さぁ、こっからが勝負だ!!」
竜は大きく開けた口を閉じて僕と目を合わせた。
まさにベルファシスの奔流で僕は初めて竜と戦うことになった。




