【第2話】『 鳥の子色の少女 』
41.花束の約束【第1章】- The Twilight World -〈第2話〉『 鳥の子色の少女 』
その日僕は、微かに聞こえる誰かの歌声によって目が覚めた。
「あれ‥‥‥。なんだろう。」
その声はこの森のを通して聴こえてくる。とても綺麗な歌声だ。女の子の声‥‥か‥‥?
誰かが近くにいる!!!
僕はそのまま飛び起きた。
食料も持たず、ただその声の主の元へと走った。
まるで僕を呼んでいるみたいに、この歌声は少しづつだけど大きくなっている。さっきよりも声ははっきりと聞こえる。森全体に響いてるようだ。
よし、どこかに人が居るんだ!!!
やっと会える。誰かは分からないけど、きっと街へ案内してくれるはずだ!!そうに違いない!!
僕はその声を頼りに全力で走った。
こころなしか僕の顔は笑顔が溢れていた。
なんせ10日ぶりに人に会えるんだ!!
ずっと孤独かも知れないと思っていたのに、なんだか涙が出て来そうだ。
「一体‥‥どんな人なんだろう‥‥!!この世界の人は!!」
僕は夢中で走ったが、途中である事に気がついた。
でも、待てよ。
もし、相手が僕に対して敵意を向けて来たらどうする?!
僕は文字通り異世界の人間だ。言語が分からなくてコミュニケーションが取れなかったら?!そのまま殺されてしまうかも知れない?!
僕は湧き上がる気持ちを抑えてその場で少し考えた。
まずは木の影からそーっと相手が一体どんな人なのか観察する必要がありそうだ。
僕はさっきまでのテンションとは裏腹に、音を立てずゆっくりと声の方へと向かう。
でも、この声はとても優しそうだし、とても綺麗だ。
どう考えても丸腰の僕に敵意を向けて来るような声だとは思えない。
この歌も、まるで天使が子守唄を歌っているみたいに穏やかな音色だ。
でも、だからと言って冷静さを欠いてはいけないな。ココは異世界なんだから。
もしかしたら相手は人じゃ無いかも知れない。それどころかモンスターの罠って可能性もある。もしくはこの声を餌に僕は誘き寄せられたのかも‥‥‥。
いいや!!!
ココまでずっと誰もいない状況が続いて、誰かに会える初めての手掛かりなんだ!!
なんとかして、この現状を打開しないと。そして現地の人と友好的な関係を気付かないと‥‥!!
「‥‥‥‥。」
固唾をゴクリと飲み込んだ。
まもなく、声の主の元まで辿り着ける。
思っていたよりだいぶ近かった。
近くで水音のような音も聴こえてくる。もしかしたらこの辺りに小さい滝があるのかも知れない。
にしても、こんなに近くに人が居たなんて‥‥‥。
どうする?相手が襲って来たら?僕には武器は無い。
なんなら失う物も無いけど‥‥‥。
いいや、考えるのは後にしよう。まずは相手がどんな人か確かめないと‥‥‥!!
僕は葉の隙間からゆっくりと声の主の方へ目をやった。
♪
声は出ず、音も無い宇宙。
時は止まり、厄災は過ぎて、
人は死に、国は消え、滅びの中に奇跡が起こる。
救われない。望まれない。途方も無い記憶の中。
命すら、証すら、無意味だったのかも知れない。
もういっそ夢ならば、
もういっそ嘘ならば、
貴方の元に居られただろうに。
私を助けに来てくれたろうに。
ねぇ、誰か、今すぐ私を連れ出して。
この世界じゃない、遠くに導いて。
貴方に捧げるわ。だからお願い。
あぁ、どうか神様、今すぐ私に手錠をして。
いっそ世界の片隅に追いやって。
たった1人で生きていきたい。
誰か、見つけて下さい。私の心を、願いを。
贖罪を———。
♪
水流の近くにある大きな岩の上で、少女は歌っていた。
近くには決して大きくは無い滝があり、その下には透明な水が輝いている。そこから伸びる川は僕が今まで辿って来た川だ。
まるで天に訴えかけているみたいに手を伸ばし、真っ白な服を揺らしながら歌っている姿は本当に天使のように見えた。
少し触れただけで折れてしまいそうな程に細く、しかし胸に直接突き刺さるように強い歌声だった。
僕は、彼女を見た瞬間、何も考えられ無くなってしまった。
パチパチパチパチ‥‥
自然と手が動いていた。気がついた時にはもうすでに僕は隠れてはいなかった。彼女の前で手を叩いていた。無性に拍手がしたくなったんだ。
理屈では少し言いにくい。
手も、足も、目も、心も、僕の体にある部位全てが、今勝手に動いていた。
「‥‥‥あ。」
急に我に返って僕は自分が何をしているのかを認識した。途端に拍手の音も少しずつ小さくなっていく。手を動かすスピードも徐々に落ちていった。
あー、うん、僕のばかぁ‥‥‥。
少女は僕の方を振り向いて固まっていた。
「‥‥‥あ、あの。ごめんなさい!!僕は決して怪しい者じゃありません!!多分信じて貰えないと思うけど、僕は異世界から来たんです!!」
あれ?異世界から来た事言っちゃった?僕?!
あわわわ、頭が真っ白だ‥‥。もしかして、さっきからぼく余計な事ばっかりしてるんじゃ‥‥?!
「あ、あの。ち、違うんです!!えっと、覗いてた訳じゃなくて、君の歌がとっても素敵だったから見入っちゃったと言うか聞き入っちゃったと言うかなんと言うか‥‥。」
少女は一瞬ビクッとして目をまん丸にさせている。
「私の歌、聴かれて‥‥た‥‥。」
青ざめた顔で僕の顔を見てる。
ダメだ‥‥。寝起きだし今日までの疲労も蓄積されて、さっきから何言ってるか分かんない。
しっかりしろ。赤嶺知束!!
この子が一体何を考えているのか考えろ!!表情や状況を読み取って最善を尽くすんだ。
もしかしてこの子は僕を警戒してるんじゃないか?きっと僕に敵意があるかどうかを試してるんだ!!
もしそうなら‥‥‥!!
「あ、あの‥‥僕は悪い人では無いよ!!えっと‥‥‥そんな事言われても信用できないよね。実は僕たまたまここを通りかかっただけなんだけど‥‥‥。」
少女はまだ僕を見たまま動かない。
そりゃそうだ。僕はさっきから怪しさ全開なんだから。
ここは彼女をリラックスさせないと‥‥!!
「その、さっきの歌、とっても良かったよ!!君の歌声は綺麗だった!!感動したよ!!なんかこう‥‥心にじーんと響いたって言うか、青春の主張みたいで凄く、凄く、凄く‥‥‥。」
そうだ、歌なんて久しぶりに聞けたから僕は嬉しかったんだ。心が少し軽くなった。それどころか驚いたんだ。凄く痺れたし、この子の気持ちが伝わって来るような気がした。
よし、大丈夫だ。伝えたいことは至ってシンプル!!
簡潔に彼女に伝えればいい。
そう、シンプルに!!
「 凄くカッコよかった!!!!! 」
「‥‥‥‥」
あれ、なんだか言葉を間違えたような‥‥。
切羽詰まると僕は言葉に詰まってしまうからなぁ‥‥。
さっきから頭が真っ白になってる。
でも敵意が無い事は伝わったかな‥‥?
よく見るとこの子、凄く可愛い顔をしている。鳥の小色の髪に真っ白な肌、そして小さな顔なのにモデルのような体型。
まさに1000年に一度の美女だと言われても信じるだろう。
“オトギの国”から迷い込んだお姫様のようだ。
「君‥‥は、とっても綺麗だ‥‥‥。」
また僕の口からポロリと言葉が漏れた。少女は涙目になりながら僕を睨んでいる。
そして頬を赤ながら座り込んでいた。
「あ、あれ‥‥‥?」
すると彼女はさっきまでの凛とした表情とは打って変わり、今度は別人のような雰囲気で話し始める。
「‥‥な‥‥ななななんでここに人がいるのだ!!」
最後まで読んでいただき、
誠にありがとうございました。
今後とも、
この作品を完結まで描き続ける所存であります。
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