【第33話】『 天と異孵の狭間にて 』
35.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第33話〉『 天と異孵の狭間にて 』
あれから少しだけ時間が経った。
僕らは沢山語り尽くしたし、沢山笑い合った。真白の話は相変わらず難しい事も多かったけど、聴いていて飽きないしとても楽しめた。
そして僕も僕の過去を真白に聞いてもらった。
真白はただただ頷きながら聞いてくれた。こうして僕らは星の彼方でお互いの理解を深め合ったのだ。
それはまさに幸福と言い換えてもいい程に、祝福されたひとときだった。
「ねぇ知束、覚えているかい?キミは僕に名前をくれたよね。」
「あぁ、覚えているよ。真白に最初に出会った時は本当に不思議な子だなって思った。あの日の事は今も昨日の事のように覚えているよ。」
「そうかい(笑)」
僕らはまた2人顔を見合わせて笑った。
「キミがくれた名前だからね。死ぬまで大切にするよ。」
「そんな大袈裟だなぁ(笑)」
僕は真白の言葉に笑って答えた。
その言葉に特に深い意味なんて無いと思ったからだ。それに僕はこんなに笑ったのはいつぶりだろう。
これから僕らは旅に出る。
真白は僕について来て本当に良かったのだろうか?
僕は真白が言う“世界”という物にとても無知だ。だからこそ真白が居てくれるのはとても有難いし心強い。
「そう言えば真白も僕に名前をくれたよね。確か“アデン”だっけ?僕はこれからその名前を名乗ればいいのかな?」
「そうさ、キミの名はアデン・グラ・ヴェオレンス。これからはこの名を名乗るんだよ?名前と言うのは面白いモノでね。キミの本来の名前である“赤嶺知束”は僕らだけの秘密にしていて欲しいのさ。」
「それはどうして?」
「そうだね、キミは知らなければならない。特別に聞かせてあげよう。」
そう言って真白はそこら中から白い砂をかき集めて一瞬のうちに人形を作り、その人形を使って説明し始めた。
人形は“シンプルな可愛らしい個体”と“明らかに歪な形をした粗末な個体”の2つが作られていた。
「いいかい?名前って言うのはねその物や人に与えられた唯一の自分を自分だと証明する定義さ。名前とは万物に魂を与える言わば儀式。キミに心が宿るようにキミのお父さんとお母さんが名付けたのさ。」
「儀式‥‥‥?」
「そうさ、でも本来のキミの名前をもし仮に“誰かに奪われてしまったら?”と考えると分かりやすいかも知れない。」
すると今度は、歪な形をした人形はシンプルな人形の一部の“石”を取り除いて自分のモノにしてしまった。
「それって本来の名前を失ったら心が消えてしまうの?」
「いいや、感情は消せない。しかし本当の名前を奪われた者は悪魔に魂を奪われてしまうのさ。それどころかその人は自分を証明する手段を失い、死ぬまで自分が何者なのか分からなくなってしまう。」
シンプルな人形はみるみると形が保てなくなっていく。
さっきまであんなに可愛らしい人形が徐々に歪な形へと変化してしまった。
そして最後には足から崩れてただの砂に戻ってしまった。
「死ぬまで‥‥?」
「そうさ。人には様々な人生があるように、名前もその人だけのモノさ。しかし、誰かの名前を自分のモノにしてしまうと、その人は呪われる。自分の代わりに誰かの名前を使うと自分自身には到底出来ない恐ろしい事が出来てしまう。」
元々歪な形をした人形は、シンプルな人形から取り出した一部の石を自分に移植した。するとその歪な人形は恐ろしい怪物のような姿となってしまった。
「‥‥‥‥なるほど?」
真白がその怪物のようになってしまった人形に手を差し出すと、人形はゆっくりと石を取り出した。
そして先ほどの人形と同様にポロポロと砂に戻ってしまった。
「フフッ、少し難しかったかな?言わばボクがキミになりすまして犯罪行為が出来てしまうのと同じ事さ。」
「なるほど!!」
「でも気をつけてね。キミの名前はこれから多くの人に狙われるだろう。なぜならキミは“時の権能の獲得者”なのだから。」
「わかった。じゃあこれからはアデンと名乗る事にする。」
「あぁ、きっとその名前はキミを守ってくれる。なんせボクがキミに送った名前なのだから。」
そう言って真白はゆっくりと外の星々に目を向けた。
僕もつられて宇宙に目をやる。するとそこにはさっきまでと比べ物にならないくらい綺麗な光景が広がっていた。
「うわぁ〜!!!!!」
僕は思わず口から溢れた。
その時、僕の目に映ったのは今まで見た事の無いような美しい景色だった。
「これは‥‥マルチバース??」
「いいや、ここにあるのは全て異孵世界さ。その数は無限大。どこまでも広く、どこまでも大きく、そしてその全てが違う色で輝いているのさ。」
そこにはまるで宇宙の中にお花畑があるかのように、色とりどりで様々な形をした沢山の“世界”があった。人々の想いや温もりで溢れていた。
その光景はこれまで見て来たどんな絶景より美しいと言えるほどだった。
「綺麗だ‥‥‥。」
「ボクらはこれからこの中へ行くんだよ。」
「凄い。花火のように光ったり弱まったりまた光ったりしている。僕らはその中を通ってるんだ。」
僕はこの景色から目が離せなかった。
そんな僕の事を真白は微笑ましそうに見ていた。すると真白は自分の服のポケットに手を入れて、キラキラと輝く物を取り出した。それはまるで地球儀のような見た目をしていた。
「さぁ知束、キミにプレゼントさ。」
「僕に?」
「あぁ、これは時を超えるお守りのようなモノさ。これから必ず必要になってくる。キミならコレを上手に使ってくれるだろう。」
真白は僕にそのキラキラと輝く物を手渡した。どうやらそれは青く光るイヤリングだった。飾りの部分はとても精密に作られた地球儀のようだ。
真白はハンドサインで左耳につけるよう僕に促した。
数多くの異孵世界が輝きを見せる中、僕は真白からそのイヤリングを受け取った。
星の彼方に世界が広がる。恐らく僕らはまもなく異孵世界へ到着するだろう。これから新しい世界へ僕は真白と一緒に進んでいくんだ。
見ててくれよ、椎菜。
今度こそ、救ってみせるから。
僕はその想いを胸に、真白から貰ったイヤリングを自分の右耳に付けた。するとキラリと一回輝いた。
最後まで読んでいただき、
誠にありがとうございました。
今後とも、
この作品を完結まで描き続ける所存であります。
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また、アドバイスやご指示等ございましたら、そちらも全て拝見させて頂きたく思います。




