【第32話】『 星の彼方に 』
34.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第32話〉『 星の彼方に 』
「皆聞け、我々は800年待ち続けた“時の権能の獲得者”は暗黒より蘇った。そして奴は今、まさに我々が求めた逸材だった。皆も思い出して欲しい。我々は長くに渡って戦争をして来た。それも生きる為ではない、考え方が違う為にだ。そんな我々の心に、大きな革新があった。それは確かに希望と呼ぶには弱々しく、偽善と呼ぶにはあまりにも慈悲深い出来事だ。」
ソロモン王は“天世界”に住む大勢の人々に向かって語り始めた。その声に人々は耳を傾ける。
「誰が予想しただろう。あんなにちっぽけな子供が、俺の前で世界を救うなどと戯言のような世迷い言を吐き捨てた。奴は一ヶ月前までは泣くしか脳の無い男だった。だが奴は立ち上がり、過去と向き合い、俺の前へと戻った。奴はこう言った。『より多くの人を笑顔にする。それが何よりもの務めだ。』と。」
天世界に住む多くの民衆がソロモン王の言葉を噛み締める。
「我々は奴をこの天世界で見続けてきた。あの哀れな小僧を、勇敢な弱者を。奴は世界が滅び、大切な人を悪魔に皆殺しにされても尚、世界の為に奮闘すると誓った。滑稽にも足掻く姿はまさに英雄に等しい。」
世界中がソロモン王の言葉を受けて胸に手を当てた。
そこにはかつての友人達の姿もそこにはあった。
「今、奴は“時の崩壊”を食い止める為、1人で異孵世界へと旅立った。皆よどうかこれからも見守って欲しい、我々と共に。そして約束して欲しい。彼は自分を犠牲にしてまで世界を救った。そんな彼を我々は忘れてはならない。これから紡ぐ全ての命に未来永劫語り尽くすのだ。異孵世界、いや、世界の命運は、お前次第だ。」
◇
誰かが僕の名前を呼ぶ。
なぜか僕の心はとても暖かい気持ちになった。
椎菜、僕、行ってくるね。
◇
目が覚めると、まるで宇宙のような場所に僕は居た。
あたりを見渡せば暗黒の中でキラキラと輝く星達が見える。流れ星のような物がチラチラしている。
僕は輝く丸い円盤のような場所で気を失っていたようだ。
「ここは‥‥?」
ここはどうやら宇宙のようだけど宇宙じゃない。僕は息ができる?!
それに声も出る。音も聞こえる。目も見える。
まるで星に手が届きそうだ。それぐらい星空が近い。なんだか夢のようにぼんやりとしている。
ここは何処だろう?僕はどれくらい眠っていたんだろう?
「気がついたかい?」
何処からか声が聞こえる。それも聞き慣れた声だ。
「真白?」
「そう、キミの真白さ。」
「ここは何処なの?」
「ココは異孵世界への入り口さ。僕らはこれから異孵世界へ行くんだよ?」
「あぁ、そうだった。少しずつ思い出してきたよ。」
そうだ。僕はソロモン王の元へ行き、時の崩壊を防ぐ為に別の世界へ送ってもらったんだ。
どうやら、ここがその道中みたいだ。
「とても綺麗な場所だ‥‥‥。」
「キミは一度ここを通った事があるよ。」
「僕が?ここを?いつ?」
「キミが産まれる前さ。キミ達人間はここを通って肉体と一つになって生まれて来る。その時に“忘却の間”を通るからここまでの記憶は全て失ってしまうのさ。」
「忘却の間?」
「そう、生前の記憶を全て抹消する幕さ。そこを通ってキミはキミが産まれた世界へ行ったんだ。でも安心して?僕らは今日“忘却の間”を通らずに世界へ行く。」
「そんな事ができるの?」
「すべてはソロモン王の名の下に。ボクらは世界を救いに行くんだからね。」
「そっか。」
真白と出会ってから、不思議な事が沢山起こった気がする。
そろそも真白はなぜ僕にここまで尽くしてくれるのだろう?
「ねぇ、真白。」
「ん?なんだい?」
「君はどうして僕にここまで尽くしてくれるの?」
僕は恐る恐る聞いてみた。
すると真白からは想像してた回答とは真逆の答えが返って来る。
「それはね、キミがボクの権能の獲得者だからだよ。」
「え?キミの権能?」
「そう、キミがあの時上手に使ってくれたおかげでキミのモノになったのさ。ボクはボクの権能を使ってくれる人を探していたのさ。」
「時の権能?」
「そうさ、時とは時間、時間とは有限。世界はその時間のルールの中で動いている。人々はこの“時の法則”を見つけ出すのに多くの時間がかかった。」
「クロノカノナス?」
「そうさ、キミだって予定を立てる時は時間を気にするだろう?時間とはただの数字じゃ無い。神から与えられた自然の産物なのさ。」
「神って‥‥?」
真白は僕の目の前までやってきてクルリと正面を向いた。
「ボクは時の神様さ。キミに権能を与えた時間を司る存在さ。」
真白は座る僕を見下ろしながらそう言った。
今気がついたけど、この丸い円盤は眩しいくらいに光を放っているようだ。
自分を神様だと言った真白は円盤の光に当てられて、僕の目には神々しく綺麗に映った。
「おかしいと思ったんだ。僕をここまで導いてきたのは紛れもなく君だ。あの日、施設で僕と出会ってからずっと僕は君に助けられた。それに君からは不思議な魅力を感じるんだ。」
僕はあの日の事を思い出しながら真白に言った。
すると真白は少し驚いた表情をしながら、それでも「フフッ」と笑って答えた。
「キミほどでは無いさ。」
その言葉の意味は分からなかったが、この時初めて真白が喜んでくれたような気がした。
最後まで読んでいただき、
誠にありがとうございました。
今後とも、
この作品を完結まで描き続ける所存であります。
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