【第29話】『 またねの秘密 』
31.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第29話〉『 またねの秘密 』
僕は真白の手を取りながらゆっくりと前へ出る。そして後ろを振り返った。
そこにはかつての友人達が誇らしげな顔をしながら立っている。
僕の顔を見るなり、彼らはいつも通りの表情で僕に笑いかけた。いつものあの笑顔にもう一度出会った気がした。
皆んなの声は、ずっと心の中に響いている。どいつもこいつも無茶ばっかり言っている。
幸せになれだの、人気者になれだの、いい嫁さん貰えだの、本当にお人好しなんだから。
僕は君達の事を救えなかったんだよ。
これから君達と別れて、僕は長い長い旅に出るんだ。
なのに、どうしてだろう。さっきからずっと嬉しい事ばかり聞こえてくる。
あぁ、分かってる。
大丈夫。
心配しないで。
いつかきっと。
うん。うん、もちろんさ。
そんな事言わないで。
僕はみんなのことが大好きだよ。
「ずっと、ずっと、みんなが大好きだ。今まで苦しい事だらけの人生だと思っていた。そんな僕を今日まで支えてくれたのは紛れもなく君達だ。僕に“自分らしさ”を教えてくれたのは紛れもなく君達だ。立ち向かう勇気も、挑戦する姿勢も、誰かを愛することも、夢を持つことも、全部皆んなから教わった。大好きだ。愛してる。僕らは誰が何と言おうと世界一の幸せ者だ!!」
あぁ、そうだ。
どうして今まで気が付かなかったんだろう。
僕らは誰も不幸なんかじゃ無かった。
僕は護ったんだ。みんなの意志を受け継いだんだ。
君達が僕を幸せにしてくれた。世界一幸福な人生を送らせてくれたんだ。
「義也、僕は君と一緒に全国大会に行くのが夢だった。君から受け取るバトンが1番熱い。これからどんな困難が待ち受けていても、僕は最後まで走り続ける。君のライバルとして。“昨日の自分より明日の自分”って義也いつも言ってたもんな。部活でも教室でも僕はずっと誇りだった。確かに受け取ったよ君のバトン。」
「マヤちゃん、痛い思いをさせてごめんね。怖い思いをさせてごめんね。本当にごめんね。ずっと君の笑顔に救われてたんだ。君と一緒に居ると勇気が湧いてくるんだ。僕は1人じゃ無いって気付かせてくれたのはいつもマヤちゃんだった。僕がいじめられてても、マヤちゃんはずっとそばにいてくれた。僕にとって憧れだったし、希望だった。ありがとう。」
「孝徳、覚えてる?僕らで一緒に文化祭実行委員になろうって言ってた話。人を笑わせるのが上手い孝徳となら絶対にいい文化祭になると思ったんだ。2人で漫才しようぜって言われた時は流石にびっくりしたけどさ、いつだって君が僕らを笑顔にしてくれたんだ。どんな時でも。君が背中を押してくれたから、僕はなんでも出来る気がしたんだ。君が託してくれたんだ。」
「椎菜、僕は君が好きだ。大好きだよ。世界で一番心から愛している。君よりいい人なんて今後一生現れないだろう。本当は後悔ばっかりなんだ。もっと早く伝えられたら‥‥‥。」
少し間が空いて、優しそうな表情を浮かべた椎菜が僕の額にそっとキスをした。
その時、一瞬だけ椎菜の記憶が頭をよぎった。
椎菜の想いが全身に伝わってきた。
あの日も、この日も、ずっと椎菜は僕を見ていてくれたんだ。ずっと僕の事を待っていてくれたんだ。
「あぁ、なんだ。椎菜も同じ気持ちだったんだ。」
椎菜は涙を浮かべながら、少し顔を赤らめ、僕にクスッと最高の笑顔で笑いかけた。
!!!
椎菜の顔を見て僕は思い出した。
「‥‥‥約束、したもんな。」
僕の口からポロッと溢れる。
「昔、僕がまだ小学生の頃、ある女の子が家の近くの公園で泣いてたんだ。その子は真っ白な雪が降っているのに、寒そうな格好で、一人泣いていた。」
椎菜は少しドキッとした様子で僕を見つめた。
「僕はその子が一人ぼっちで可哀想だったから、自分のマフラーとジャケットを着せてあげたんだ。そしたらもっともっと泣き始めて驚いた。でもその後、その子は満点の笑顔で僕に笑いかけたんだ。おかしいよね、凄く昔の事なのに忘れられないんだ。きっと、あの日から僕の運命は決まっていたんだろうな。」
椎菜は少し不思議そうな顔を見せた。
そんな椎菜のほっぺに僕は手を当ててゆっくり彼女の方へと近づいた。
「僕らは幸せだった。運命なんだ、あの悲劇もこの幸福も。だから何年かかっても、何十年と時間が過ぎても、例え僕がお爺さんになったとしても、探してみようと思うんだ。君との約束のその先を。」
僕の手に雫のような水滴が溢れ落ちた。
僕はそっと椎菜から手を離してニコッと笑ってみせた。
すると今度は、椎菜が自分の頭につけていた赤色の花の髪飾りを取り外して僕に渡した。
まるで“受け取って”と言っているようだ。
「ありがとう。」
僕はそう言ってその髪飾りを受け取った。
周りの風はより一層大きな音を立てながら吹き荒れる。
その音と共に、椎菜達はゆっくりと消え始めた。
まるで彼らが光の渦の中へと帰っていくようだった。
「‥‥‥また、君に会いに行く。」
爽やかな風は僕と真白の髪を揺らす。
空は青く光っている。鳥達はまるで賛美歌を歌っているかのように羽ばたいていた。
?!
その時、僕の耳には彼ら最後の言葉が聞こえてきた。
『 またね 』
そうだった。
皆んなはいつも帰り際にこぞってそう言うのだ。“また今度ね”って。
でも今度は違う。皆んなはきっと“心”に居る。
だからまたいつでも会えるんだ。寂しくなっても彼らが見守ってくれている。
僕の中で生きているんだ———。
そして大きな光の中へ椎菜達は帰っていった。
きっと今は遠い遠い夢の国へ行ったんだろう。彼らは世界を動かす大きな存在へと変わったのだと思う。
「また会えるかな?」
「うん、きっと。」
真白は僕の背中に手を当ててそう言った。
「僕に‥‥‥できるのかな‥‥?」
「うん、必ず。」
また真白が答えた。
僕らは2人で椎菜達の光の粒が空に広がっていくのを見ていた。その光景はとても綺麗で、この天世界を包み込むかのように広がり続けていた。
そして僕らは、少しずつ歩き始めるのだった。
最後まで読んでいただき、
誠にありがとうございました。
今後とも、
この作品を完結まで描き続ける所存であります。
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