表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花束の約束 The Another World  作者: ぬうと
【第0章】灰色の世界
31/49

【第28話】『 ぼくらしく 』







 30.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第28話〉『 ぼくらしく 』







 真白が僕の元までやってきた。

 風はゆらゆら、花はひらひら、空はキラキラ。僕らがこの世界で再会した事も意味があるのかも知れない。


 もしかしたら君に導かれたのかな?真白。


 考え事ばかりしてしまう僕の事を、ここまで連れ出してくれたのは君だった。


「ねぇ、真白。ありがとう。ここに連れてきてくれて。」


 僕はかつての友人達に囲まれながら真白にそう言った。すると彼も僕を見つめながら優しく答えた。


「こちらこそ。」


 彼からは優しい音がする。

 声も、仕草も、表情も。全てが心地よい。まるで僕の心を包み込む周波数を知っているみたいだ。


「僕、君が居なければずっとあの暗い部屋の中に閉じこもっていたかも知れない。君が連れ出してくれたんだよ。君が僕を救ってくれたんだ。」


 僕は空を見上げ、着ている服や髪が風に揺らされる。

 どうしてだろう?今日までずっと陰鬱な感情ばかり頭に浮かんでいたのに、まるで霧が晴れたみたいだ。


 それは、安心感や安堵感あんどかんとは少し違う気がする。まさに“平安へいあん”という言葉が適切だろう。


 頭の中で全てが繋がった気がした。


 知束は涙を拭き、その場でゆっくりと立ち上がった。

 

「‥‥‥ねぇ、真白。どうやったら君のような人になれるの?」


 僕は真白に問いかける。


「知束?」


 真白が僕の問いに不思議そうな顔をしていると、僕は少しだけ強張った肩を下ろして首を上に向けた。


「僕さ、夢が出来たんだ。それもとっても大きな夢。なんと言っても僕がヒーローになる夢なんだ。カッコいいでしょ?なんてね、僕はヒーローなんかじゃない。ただ後悔したくないだけさ。僕と同じように悲しくて報われない人の心を助けたい。君のように。」


 真白は表情を変えた。目の奥が開いて行くような感覚だ。

 僕はふと後ろを振り返り、真白の驚いたような顔を見てニッコリ微笑んだ。


「世界を救ってやるんだ!!どんなに辛いことがあっても、諦めない限り希望はある。どんな世界だって。君と一緒なら僕はヒーローにだってなれるかも知れない。」


 すると天使がラッパを吹き始める。

 まるで僕の心境を賛美しているかのように鐘の音が鳴り始めた。空はより一層輝きを増して世界を照らす。


「何万年もの時代の中で、世界が滅びるのなんてあっという間だった。何億人もの人がたった一晩で消滅してしまったんだ。皆んな幸せになる為に生まれてきたのに、無情にも奪われたんだ。そんなのおかしいよ。なら今度は僕らでそれを阻止しよう。一緒に救おうよ、世界!!」


 義也、孝徳、マヤ、椎菜も僕と同じようにゆっくりと立ち上がった。そして僕らは一列に並んで真白を見ている。


 今の僕には全てが伝わってくるんだ。

 義也も、孝徳も、マヤちゃんも、椎菜も、皆んな本当は同じなんだって。


 僕に託したんだって‥‥‥。


「もう時間が無いんだろう?本当は僕が眠っていた間に“あの災害”によって世界は少しずつ失われている。」


 真白は何も答えなかった。


「“時の崩壊”から皆んなを救えるかなんて分からない。僕は役立たずかも知れない。それでも僕は約束したんだ。」


 僕は薄桃色に光沢する目を真白に向けた。髪は白く長く伸びていて、不健康なくらいに白い肌はボロボロの服の間からも見る事が出来た。


 そんな僕が一歩を踏み出すと、爽やかだった風が少しだけ大きく吹き始める。どこからかヴァイオリンのような音も聞こえる。


 ゆっくりと真白の元まで近づき、僕は細くなった腕を差し出して彼に言った。






「一緒に行こう。世界(あの日)へ」






 そう言って手を伸ばす僕を見て、真白はクスッと笑ってこう言った。


「全く。キミは本当に不思議な子だよ。」


 深紅の目を輝かせながら彼は僕の手を取った。そして彼はどこまでも真っ直ぐな目で僕らを見ている。






「共にこうか、世界へ。」





 

 真白は僕の手を取った。

 そして彼は憂いの表情で僕を眺めている。

 なんとも美しい宝石のような目で僕の目を見つめていた。


「そ、そんなに見つめられたら‥‥‥。」


 僕はふいに目を逸らしてしまった。

 すると意地悪そうな顔をして真白が僕の顔を覗き込む。


「キミのそーゆー照れ屋な所も、僕は魅力だと思うんだ。」


 揶揄からかい混じりの口調でそう言う。

 僕は何も言えないまま、真白から目を逸らしていた。


「忘れずに。キミが友人と会えるのは今日が最後になる。今一度心に問え。世界の英雄になんてならずしても、カレらの友人では居られる。世界はもちろんキミを必要とするだろう。しかし、この決断に後悔は無いのかい?本当にキミは過去を認められるのかい?」


 真白は顔色を変えて言った。

 僕は再び真白の目を見て答えた。


「僕はね、英雄にならないといけないんだ。友達と友達である為に。それが僕の約束。そう、約束。」


 そうだ、僕は約束したんだ。


『 最後に約束、どうか精一杯生きてください。そして、ちゃんと誰かを好きになって。泣きたい時は我慢しないで。私達みたいな人を助けてあげて。そして今度こそちゃんと幸せになってね。ありがとう。 』


 どれだけ現実が厳しくても、どれだけ世界が滅びても、僕は約束を果たす為に前に進むだけだ。


 心が折れ曲がりそうな絶望に襲われても、心臓が引き裂かれそうな音を立たとしても、僕は僕らしく前に進む。


 そうだ、君と同じさ真白。

 僕はどこまでも進まなくちゃいけない。


 どこまでも、真っ直ぐに。






最後まで読んでいただき、

誠にありがとうございました。


今後とも、

この作品を完結まで描き続ける所存であります。


もし少しでも良いと感じられましたら、ブックマークやコメントなどお待ちしております。


また、アドバイスやご指示等ございましたら、そちらも全て拝見させて頂きたく思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ