【序文】『 マーフの願い 』
⒈花束の約束【第0章】- episode of zero -〈序文〉『 マーフの願い 』
あの人はいつもそうだ。
優しい言葉でいつも私達を甘やかして、そのくせ自分だけ辛いのを我慢して、いっつも全部背負い込んで。
あの人の背中は傷だらけだった。きっと心も傷跡だらけなんだ。あの人からは寂しさしか感じられなかった。
そう言えば最初からそうだったね。
出会いなんて最悪だった。僕は“君みたいな人”が大っ嫌いだった。でもあの時も君は僕らを助けてくれたんだ。
ずっと、ずっと、背負い込んでばかり。
酷い人だよ。本当に。
僕だけに優しくなんてしてくれないんだから。
いつも決まって誰かの願いも痛みも全部独り占めにしてしまう、そんな自分勝手な人。
でもそんな人だから、僕らは君に着いて行こうと思ったんだ。
君は1人じゃなんにも出来なくて、足並みだって合わせてくれなくて、スケベでエッチで、すぐ他の女の子の所に行っちゃう。そしていつも笑いながら帰って来てくれる。
変に綺麗好きで、色んな事に顔を突っ込んで、余計なお世話って怒鳴られてばかり。
挙句の果てには世界一の嫌われ者だし、命だって狙われてる。
ボロボロなのに、悲しいはずなのに、君はいつもと変わらない。ずっと出会った時と同じように微笑んでいる。
「かっこいいな。かっこいいんだ、君は。」
僕からしたら世界で1番笑顔の似合う人。そしていつも僕の知らない場所でひっそりと泣いている。
叶わないって分かってるのに。届かないって知ってるのに。どうしても君しか居ないの。
これも君の権能なのだろうか。
ねぇ、アデン。あなたの名前を聞かせてよ。
アデン・グラ・ヴェオレンスじゃない。あなたの本当の名前。
私はね———。