表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

シシイ・ファルカ

作者: 鈴木美脳

 シシイ・ファルカも、オセ連盟も、トグーツも、東部ババンガも、あいつらは「ガイジン」だ。

 セニンチや、スラ・セニンチや、オットウや、マツキブタイは違う。もともとは日本人だ。

 いいか、ルセ。この土地は、本来、俺達のものだったんだ。


 どこまでって、全部だ。あの山の向こうの山の向こうの山の向こうの山もずっとだ。

 俺達が話すイントネーションは、日本語って言ってさ、日本語を話す連中は、日本人って言ってさ、俺達はかつて、世界一だった。今はガイジンにも殺され、逃げ回っているけど、この土地で一番威張ってた。

 日本人同士で、必死で殺し合ったり、騙し合ったり、本当はこんなこといけないんだ。

 日本人同士がまとまって生きてた、安全で安心な幸せな時代を、俺は知ってる。


 ずっとずっと行った先にはさ、どこまでも水面が続く「海」があるんだ。

 なぜって、大地には土よりも水のほうが多いんだぜ。この土地は海に囲まれた大きな島だ。

 大地は丸くて、何もない暗い空間に浮かんでいて、回っている。夜空の星みたいなものの一つなんだ。

 この宇宙はビッグバンで始まった広大な空間で、この地球では木々や虫や鳥やネズミや人間が分化していった。

 なぜそんなことがわかるかって。昔は人間みんなが協力もしてて、そうすればそんなことも解き明かす力があったのさ。


 本当は、子供が銃なんて持つ必要はないんだ。いや、大人だってない。

 銃や爆弾なんてものは、社会のごく一部の警察や軍隊という職業の人達だけが持つのが一番だ。

 それが、俺みたいな古い日本人みんなが胸にいだいていて忘れられない願望なんだ。

 今は仕方ない。

 でも、殺したり騙したりが当たり前だとルセに思ってほしくなくてさ。


 日本語を話す俺達が、この土地を何千年も守ってきた。

 俺達の目や耳の形は、この土地で生き抜くために誰よりも最適化されている。

 もしも同じだけの食事や装備や武器があれば、俺達日本人は、この土地ではどんなガイジンよりも強いんだ。

 今はそれどころじゃない、夢物語だけど、そんな希望はあるはずなんだ。


 子供が襲撃に怯えて眠るだなんて、決して当たり前のことじゃない。

 傷のない健康な身体でほとんどの人間が大人になっていくことが、当たり前でありうる。

 日本人も人間も、助け合うことができる生き物なんだ。

 殺された遺体など見ずに育つことが当たり前でありえて、殺さずに育つことは当たり前でありうる。

 誰一人殺さなくったって、おじいちゃんやおばあちゃんになるまで生きることが当たり前でありうる。

 お前の世代では無理かもしれないけど、俺達の世代が死んでも、そんな夢を伝え残してほしいんだ。


 キヌタ渓谷の遭遇戦で昨日、オットウがトグーツに皆殺しにされたって噂は、多分、本当だ。

 なら近く、それを知ったシシイ・ファルカが前進してくることは避けられない。

 俺も怖いよ。俺も涙が止まらない。

 でも東部ババンガを牽制していたマツキブタイの動きは読めないし、タイミングによってはまた生き残れる可能性はあるはずだ。


 ルセ、俺はお前を守るために最善を尽くす。

 俺も、お前の親父に何度も助けられたからな。

 俺がいつか、シシイ・ファルカに殺されるのか、マツキブタイに殺されるのか、飢えや怪我で死ぬのか、わからん。わからんけど、俺達、日本語イントネーションの連中はかつて協力して、銃のない安全で幸せな社会を実現していた。

 ルセはそんなこと信じられないかもしれないけど、そんな記憶が俺の中の希望なんだ。


 ルセも、日本人だぜ。この土地を統べる力と権利が五体に備わっているんだ。

 何千年、何万年、この土地に埋まっている遺体のほとんどは同じ日本人だ。味方してくれないはずがない。

 だから、運が味方してくれると思おうぜ。

 前向きに進もう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ