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さっちゃん

作者: ペンネグラタン

「ふえ……おにいさんだぁれ?」

 俺の前に天使が舞い降りた!!

 いや、明らかに迷子の女の子やん。べ、別に、お持ち帰りしたいとか思ってないからな。俺はヒキニートなだけで健全な一成人男性だからな!

 こほん。で、今俺の目の前にいる幼女……ん、この言い方はなんだか犯罪臭がするな、女の子はとてもとても可愛らしい容姿で、涙を流している。うん、迷子だよな。

「どうしたのかな? お母さんとはぐれちゃった?」

 よく声かけた俺! 久しく外に出ていなかったからコミュ障とか発症してないか心配だったけど、ちゃんと会話できた。大丈夫、きゃわいい幼女と会話できたぜいえええいとか思ってない。

 俺は今泣いている女の子を宥めている善良な一般市民のはずだ。不審者じゃないぞ。不審者じゃないぞ。大事なことだから二回言わせてもらった。

「お兄さん……」

 もてよ俺の心臓。かわいい女の子に急ん視してる場合じゃないぞ。お兄さんって呼んでもらえて喜んでる場合じゃないぞ。この子を助けてあげるんだ。邪念なんかないぞ。

「おうち、なくしちゃったの」

 おうちなくした? おうちって今時の玩具の名前だろうか。

「うん、お父さんやお母さんは?」

「さっちゃんにはさいしょからいないの」

「そっかぁ、お名前、さっちゃんって言うんだね」

 ちょっと待て、ちょっと待て、これはお持ち帰りオッケー……じゃなくて! え、何、さっちゃんおうちないって家のほう? ええええ、今時の孤児ってことっすか。

「え。じゃあ施設とかに届けたほうがいいのかな」

 落ち着け俺。こういう場合の正しい対処法を選択するんだ。お持ち帰りとか考えちゃいけない。俺は清く正しいヒキニートのはずだ。……言ってて悲しくなってくる。

 突如ふえええ、と泣き出すさっちゃん。え、俺何もしてませんよ。泣く要素あった? 俺泣かせる原因わからないんですけど。ノータッチなんですけど。え、おまわりさんこいつですコースじゃねえよな。

「施設やだよお。普通のあったかいおうちがいいよお」

 ぐはあっ、さっちゃん、なんて恐ろしい子。その幼さの中に魔性を秘めている。じゃなくて。そうだよな、普通のおうちがいいよな。これはお持ち帰りゴーサイン? いやいやそれはおまわりさんこっちですコースのあれだ。落ち着け、もちつけ、いや、落ち着け、俺。

「えと、どうしたもんかなあ……」

「おにいちゃん、おうちぃ」

 ええとですね。

「それお兄さんおまわりさんに捕まっちゃうから」

「おまわりさんかんけいないもん」

 いや、結構関係あるよ、お兄さんの社会的地位的に。

「かんけいないもん。さっちゃん、ざしきわらしだから」

 ……ナンデスッテ?


 えー、家ナウです。

 去っちゃbは普通の人には見えないようで、母や姉はいつもどおり俺をごみを見るような目で見てきたけど、さっちゃんの存在に触れることがなかった。明らかに見たことない女の子連れているのに突っ込みがないのはいくらなんでもおかしいだろう。つまりさっちゃんが俺以外には見えていないということだ。そういえば帰り道もおまわりさんこっちです現象の予兆すらなかったな。

 つまりさっちゃんの自称座敷わらし説が信憑性を増したということだ。……いやいやどういうこっちゃ。

 部屋に案内すると、さっちゃんは口を開いた。

「私ね、普通の座敷わらしとはちょっと違うの」

 普通の座敷わらしとは何ぞや、と思ったが、暇と時間だけはたっぷり合った俺の知識力を舐めてもらっては困る。

「座敷わらしって言うのは、東北地方でよく伝わっている妖怪の一種だよな。家に取りついて、その家に幸せをもたらすと言われている。もしくはその土地に住み着いているといわれもある、だったか」

「すごーい。お兄ちゃんよく知ってるね!」

 はっはっは、ヒキニートでよかったって初めて思ったぜ。

 で、さっちゃんは何が違うのかというと。

「わたしね、とくていのおうちにつくんじゃなくて、ひとにつくの」

 人につくとな。

「座敷わらしの幸せを与える力が必要な人に見えるようになるの」

 な、なんていい子なんだ。必要な人に幸せを与えるとかもはや天使だろ。

 あれ? ってことは……

「おにいちゃんがつぎのひとみたい」

 やっふうううううううううい!!


 つまりご本人公認のお兄さんになったってことでよろしいね!

 天国かよ。

「お兄ちゃん? どうしたの、ガッツポーズなんかして」

「なんでもないよ」

 というか、座敷わらしでもガッツポーズって知ってるんだね。

 ようやく俺の時代が来たってことだねやっほい。

「お兄ちゃん。お仕事してないの?」

「ぐふっ」

 いきなりえげつないぞさっちゃん。

 まあ、イエス以外答えられないのが現状だが。

「じゃあ、さっちゃんがおうえんするからがんばろうよ」

 お兄さん頑張っちゃう。


「何、いきなり採用試験とか行き始めちゃって。気持ち悪いんですけど」

 いくら家族でもそれはひどいと俺は思う。ヒキニート卒業しようとする弟を応援してくれたっていいじゃないか。あんなに俺をごみくず見るみたいに見てたくせに。

「おにいちゃん、がんばれー」

 さっちゃんを見習ってほしいものだ。どうせ見えないのだろうけれど。

 さっちゃんのためにお兄さん頑張るぞー。母や姉からの冷ややかな視線にだって耐え切って見せるからな。

 企業面接なんて久しぶりに行ったから緊張したなあ。まあ、社会復帰への第一歩だ方、一発合格するなんて思ってないけどさ。

 からの合格。

「やったね、おにいちゃん」

 さっちゃんパワーすげえ。


 さっちゃんは俺が折れそうなときも応援してくれた。さっちゃんの応援があるだけで、俺は頑張れた。母や姉からは相変わらずの反応だったけどな。

 おかげで順風満帆だ。俺の人生絶頂期だぜ。

「職場、合ってんの?」

 姉が話しかけてきた。職場が合っているかどうかはちゃんと考えていなかったが、ここまで続いているということは、合っているんだろう。

「へえ」

 姉がなぜか不服そうなんだが。それとも、今度は姉のほうが上手くいってないとかかな。

「せいぜい頑張れば」

 あれ、なんか侮辱された感じになってるぞ。なんでだよ。

 頑張って見返してやるからな。なんてったって俺にはさっちゃんという座敷わらしがついているんだからな。さっちゃんのためならいくらでも頑張れるぜ。

 だが、就職して一年ほど経ったころ。

「おにいちゃん」

 さっちゃんから申告があった。

「わたし、もうつぎのひとのところにいかなくちゃ」

「え」

「おにいちゃんのおしごとがあんていしてきたから、おにいちゃんはしあわせになったの。だからさっちゃんはもういかなくちゃ」

 そういって、さっちゃんは消えた。

 きっと幸せな俺には見えなくなったんだろう。

 これでいいはずだ。いいはず、なのに。


「何で俺、頑張ってんのかな」

「知るか」

 相変わらず対応が塩な姉。

 こんなやつと一緒に生活するために頑張ってたんじゃない。母も俺が働き始めたのにいい顔しないし。

 さっちゃんがいなくなった今、俺に頑張る意味なんてあんのかな。

「望まれてねえのかな、俺」

 そんな世界に生きてる意味、ないような気がする。


「ああ、あのお兄さんやっと死んだんだ」

 さっちゃんという座敷わらしの仮面を被った妖女は。一人の青年が首を吊って死んだのを見て、口元を歪めた。

「性犯罪者予備軍なんて、みんな死んじゃえばいいんだよ」

 彼女はさっちゃん。かつて、幼女誘拐殺人事件の被害者だった幽霊。

 彼女は幼女を好むものを取り殺す悪霊になった。

 今日もまた、彼女の姦計によって、ロリコンが死ぬのだろう。

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