叶う、が。
目を開けると、どこか懐かしい天井があった。ここは病院だろうか。体は普通に動いていた。
「透! いつまでも寝てないで学校の準備をしなさい!」
二年前に亡くなった母さんが僕を呼んでいる。
「え、え」
思わず涙が出てしまう。ああ、叶ったんだ。少し小さくなった体を見て懐かしく感じた。母さんが二階の僕の部屋まで来てドアをノックした。
「ボサボサしてると初登校日から遅刻だよ」
ドアの向こうにいる母さんを抱きしめたくなったけど、我慢して、
「はーい、今着替えて行くよ」
そう言って、クローゼットを開けて新品の制服に袖を通そうとした。そこで気付いた。
「なんで学ランなんだ?」
僕の通っていた高校はブレザーだったはずだ。だけどもそこにあったのは上からボタンをしめるタイプの普通の学ラン。戸惑ってしまう。もしかして、タイムスリップではない?
部屋にある鏡で自分の姿を確認すると、やはり”僕”だった。紛れもない、高一くらいのときの僕が鏡の中にいた。恐怖を感じた。何かが違う?
急いでYシャツを着て学ランを着て一階に降りた。
母さんは母さんだった。親父は、いない。そういう家庭だった。
「早くご飯食べなさい。父さんに手も合わせて」
「え?」
これもおかしい。親父と母さんは僕が中一の頃離婚したはずだった。無論死んではいない。そんなこと言おうもんなら親父に笑われていたことだった。
仏壇を見るとそこにはやっぱり親父がいた。笑顔だった。こんな笑顔見たことないくらいの笑顔だった。
「あの、母さん」
「なに? 早くしなさい」
「親父ってなんで死んだんだっけ」
はー? そう言って母さんは続けた。
「あなたが中一だったときに交通事故で死んだじゃない」
さも当たり前のように母さんが言った。衝撃的だった。二十六年後にも父さんは生きていて世話になっていたから、目頭が熱くなる。
「……なあ、母さんは、父さんのこと好きだった?」
「何言ってるの? 死ぬ前日まで好きだったよ」
それだけ聞いてようやく納得した。ここは少し違う世界だ。