三話
自分の人生に真剣にならなくなったのは、いつ頃からだっただろうか。
何をしても、ただただ、どうだってよかった。
私というのは「どうしようもない人間」 と言う一つの言葉で説明がつく。
何もせず生きてきたわけではない。
何か、自分とは何か模索した時も存在した。
夢中になれそうになったものには、必死にかじりついた。周りの目なんて気にせず、ただ突っ走る。そんな真人間のような時期が存在したこともあった。
だが、何かが引っかかって、思うように進まなくなって、やめた。
学生時代の記憶もない。何もせず何も考えてこなかったせいか、今はもう、教室の風景さえも思い出せない。
今だってそうだ。アルバイトを転々としている状況だ。何をしていても、真剣になることができない。まるで他人の器に、魂だけが入っているような。
全て他人事。一生、上の空。
だがしかし、そんな俺が高揚している。
それはいたって当然。憂鬱な昼が始まる、そう思って日の光を拝もうとカーテンを開いたら、そこらに血の跡だ。
今なら私は絶望する人々に説法でも説いてみせよう。
人々よ、絶望してくれるな。
世界は変わったのだ。
受け入れよ、そして戦おうじゃないか。
この世界と。
そう思うと、楽しくって、絶望も希望に変わらないか
とね。
まぁ生きるのが辛くなったら、死んで歩いていやろう。今とあまり変わらないか。
私は何故か歯を磨き、なるべく動きやすい私服に着替え、意気揚々と真(?)世界へと赴いた。
時間は十五時二十六分。
ドアノブを勢いよく開けた瞬間に気づいた。
次からは静かに開けよう、と。
ゾンビといえば、音によく反応すると相場が決まっている。
そんな阿呆なことを考えながらとりあえず、路地に出た。
普段は人通りが少ない住宅街の路地。
色合いないこの道も今日は特別色づいていた。赤で。
狂の世界になりはなったが
もういいか、このパロディは。
意気揚々と外に出た割には、何もない。いや、何もないとは言わない。しっかりと壁に御誂え向きの血痕もある。
道端には何かの骨も落ちてたりする。ここまでは良い。
肝心の死人がいない。
死人だったり、ゾンビだったり、呼び方を定着しないといけないな。
しかし何だ、ゾンビと口にして言うのは何故か少し恥ずかしい。
ゾンビ、ゾンビ。
何だよゾンビって。
「ゾンビ」
ほらやっぱり、何か恥ずかしい。あまり人に聞かれたくないな。
ブツブツとぼやいていたら後ろから擦る音が聞こえた。
何を擦る音かなどはもう明白。もちろん靴だろう。ゾンビと言えば足をするのが相場だ。
そう言えば武器を持ってないな。
私は前方に、ゾンビ、そして曲がり角がないことを確認し、前方に進みながら振り返った。
まぁゾンビだ。歩く死人だ。
ゆっくり、ゆっくり。
一点私を見つめて、足を引きずりながら歩いてくる。
何故だろう、全然怖くはないな。目の前に死人が歩いていると言うのに、まだ私は真剣になれないのか。
普通に後ろ歩きでも距離が取れてしまうほどゆっくり死人は私に歩み寄ってくる。
気付かれて少し焦っているのか、身体を大きく揺らしながら、少し早めで歩いてきた。
しかし、何の脅威でもない。遅いのだもの。
私は、武器を探してあたりを一瞥する。
ゾンビものには必須の鉄パイプ、あとバールがないかと視線を動かす。
しかし私が立つこの場所は現実。フィクションではないのだから都合よく落ちていない。
落ちていたのなら、それはもう笑顔を隠しきれないほど喜んだのに。
私は競歩くらいの速さで歩き、一人ののろまを置いていった。
呻き声はだんだんと遠くなり、二十秒もしないうちに聞こえなくなった。
死人一匹は刺激が無さすぎる。
何だこれは、もう祭りは終わってしまったのか。あまりにもつまらない。楽しめるものも楽しめない。
私は人が多くいそうな繁華街に向かうことにした。
くさくさ煙草をふかしながら、歩くこと十五分。
ふふふ、分かっている分かっている。
遠くまで響く悲鳴、発狂、車が衝突する音、ガラスが割れる音。爆発音。
ああ良かった、祭りはまだ終わっていなかった。




