12話 最悪な知らせ
アベルが暴走により寝込んでいる頃
「お父様、リティシア参りました」
「ああ、入ってくれ」
私はお父様の返事を聞いて扉を開けます。しかし、何でしょうか? お父様が私を呼ぶなんて珍しいですわね。
お父様の執務室に入ると、中には私のお父様でこの国の王様、ヘンドリクセン・ゼルヘラートが椅子に座っていました。それに、お母様とメルセもいた。みんな揃ってどうしたのかしら?
「リティシア、お前には頼みたい事がある」
お父様はそう言いながら手紙を1通私に渡して来ました。私がそれを受け取ると、読むように言われたので、手紙に目を通していきます。うわぁ、汚い字ですわね。
初めは汚い文字を読んで行くのが苦痛で仕方なかったけど、次第に書かれている内容が辛くて表情が歪んでしまいます。
「……お父様、これは」
「リティシアには申し訳ないと思っている。しかし、これも王族として責務と思って欲しい」
辛そうに顔を歪ませるお父様とお母様。メルセは手から血が滴るほど握っていた。私はメルセの側に寄って強く握られた手に触れる。
「お嬢様……」
「駄目ですわよ、メルセ。自分の手を傷つけては」
「ううっ……申し訳ございません。私が……私がお守りすると誓ったのに!」
私の前で膝をつき涙を流すメルセ。もう、綺麗な顔が涙でぐちゃぐちゃじゃないですの。私はハンカチを取り出してメルセの涙を拭います。
「どうしてそんな悲しそうにするの? 私は国のために働けるのです。これほど名誉な事はありませんよ? お父様、このお話お受けいたしますわ」
この国のために私は……嫁ぎます。
◇◇◇
「はい、アベル様、あ〜ん!」
「いや、リア、俺もう自分で食べられるから」
全身の骨が粉々に砕けて動けなくなり、目を覚ましてから1週間が経った。父上とリアが用意してくれた薬と治療魔法師のおかげで傷はほとんど癒えた。逆に体を動かしたいぐらいだ。
それなのに、リアは俺の世話を焼きたがる。あまり言っても押し問答になってしまうので、俺が折れる形になっているけど。
しかし、鬼の力は俺の思っていた以上に凄まじかった。リアから聞いた話だけど、父上と接戦をしていたらしい。俺の記憶には全く残っていないけど。
屋敷の庭は目も当てられないほど酷い事になっている。いろんなところに穴が空き、焼け野原となっていたのだ。屋敷に被害が出ていない事が不思議なくらいだ。
ただ、当然だけど、周りの屋敷から苦情は来た。とんでもない轟音と地震が周りにも被害を与えていたのだ。父上が周りの家に慰謝料を払っているのを見て申し訳ない気持ちになってしまった。
ただ、そのおかげで俺の中にある鬼の力も感覚でわかるようになった。いつでも俺を乗っ取ろうと虎視眈々と狙っているのが腹立つけど。この体は俺のだ。絶対にやらねぇ。
鬼の力をいつでも使えるようにはなったけど、一瞬で持っていかれるのが難点だ。どうすれば耐えられるのかがわからない。これは慣れて行くしかないのかな。
リアから食事を食べさせてもらい終えると、リアは食器を持って部屋から出て行ったため、部屋の中は俺1人だ。
この1週間、当然だけど学校も休んだ。スロウさんやステフたちはお見舞いに来てくれたけど
「リティシア様は来てくれなかったな」
スロウさんが言うにはリティシア様も学校を休んでいるらしい。理由は生徒会長であるスロウさんにも聞かされていないのだとか。
もしかしたら体調を崩しているのかな? あんな別れ方をしてしまったから余計に心配だ。よし、明日には……
「アベル様、大変です!」
明日にでもリティシア様に謝りに行こうと思っていたら、食器を片付けに行ったはずのリアが慌てて戻って来た。そして、俺に何かを手渡して来た。
この世界には製紙技術はしっかりとある。勇者がこの世界に伝えたからだ。そのため、この世界には新聞もある。俺に手渡されたのは新聞だった。
「どうしたんだよ、リア。そんなに慌てて」
「いいから読んでください! 早く!」
物凄い剣幕で新聞を押し付けてくるので、少しビビりながらも新聞を読むと、俺は固まってしまった。まるで時が止まったように。そして気が付けば新聞を放り投げて走っていた。後ろからリアが俺を呼ぶ声が聞こえてくるけど、それどころじゃない。
なんで? どうして? 俺は新聞の内容が信じられなかった。新聞に書かれていた内容……リティシア様が隣国の勇者の息子と結婚するなんて……
◇◇◇
既に日は暮れる前、俺は王城へと辿り着いた。俺は近衛隊長である父上の息子で、リティシア様の幼馴染なため、特に調べられる事なく入る事が出来る。
何時もなら挨拶をするのでけど今はそれどころじゃない。門兵の人たちも皆一様に表情が暗い。
城の中に入った俺は真っ直ぐとある部屋へ向かう。リティシア様自身の部屋だ。いるとしたらここだろう。すれ違う侍女たちは俺を見て驚きの顔を浮かべるが、俺はそれを気にする事なく部屋へと向かう。
城の中を5分ほど歩くと、ようやく辿り着いた。外には女兵士が立っていて、この人たちも俺を見て悲しそうな顔を浮かべて来た。
女兵士は俺を止める事がなかったため、俺はノックもせずに扉を開けた。本来なら有り得ない行為で、捕らえられても何も言えない。だけど、この時はそんな事を考えている余裕もなかった。
「なっ、どうしてアベルが!?」
扉の側で立っていたメルセさんが1番に俺に気が付いて声を上げ、そして、奥の鏡の前に立つ赤髪の少女、リティシア様がこちらに振り返った。
俺はその姿に息をするのも忘れて見惚れてしまった。鏡の前に立っていたリティシア様のしていた格好が、純白のドレスだったからだ。
「あら、アベルじゃないですの? 何の用かしら?」
「あっ……そ、その……」
「要件を早く言ってくださる? 私も結婚式までに準備する事が多くて、あなた1人の相手している暇は無いのですよ」
……今まで感じた事のない冷たい視線に、見た事のない表情。俺は何も言えなかった。
「……用がないのなら出て行って頂戴。メルセ、アベルを追い出して」
「待ってください、リティシア様! どうして、結婚なんか! それに俺に何も言ってくれなくて……」
「他人のあなたに何を言うと言うのよ!」
初めて聞くリティシア様の怒鳴り声に俺は黙ってしまった。目を真っ赤にして俺を睨んでくるリティシア様。恐れてしまった俺は後ずさる事しか出来なかった。
「騎士でもないただの幼馴染という他人のあなたに何を話すというのです。話す事などありません! 準備の邪魔です! メルセ、追い出しなさい!」
「……わかりました。アベル、出ろ」
俺は何も言う事が出来ずにメルセさんに腕を掴まれて部屋を出ていた。メルセさんの「すまない」と言う言葉だけが頭の中に残っていた。
◇◇◇
「……ぐすっ……ごめ……ごめんな……さい、アベル。ううっ……ひ、酷い事を言っで……ごめんなさい……」
閉ざされた扉の向こうから大切な人の涙を流す声は俺には聞こえなかった。
良かったら評価等、ブックマークよろしくお願いします!




