夢掴めこの右手
今、目の前にあるこの右手。小さくて、筋肉なんて微塵もなく、貧弱なこの右手。
その右手で、僕は色んなものを掴んできた。
淡いアイボリーの命を掴んだことから始まり、スカーレットの希望、コバルトブルーの挫折、バイオレットの悔恨、ピアニーの裏切り、ターコイズの絶望、ビリジアンの自殺願望。全部掴んでは離しての繰り返しだった。
今、僕は目の前のこの右手で夢を掴もうとしている。何度も落としてきた夢を。その度に色を変えた夢を。
もう、この手は酷く汚れている。色んなものを掴みすぎたのかもしれない。爪には黒い練りゴムが詰まり、手の平には重なった絵の具の濁ったグレーが乗っている。
でも、だからこそ、この汚い右手で、絵筆を握るこの手で、二度と落とさない夢を描きたい。