抹消者の黒船
龍の国は極めて平和な国だった。心優しく、強く聡明で美しい王妃、屈強で信頼の厚い王。そして、賢くたくましい王子。王家であるルーラー家は一族で剣術の名手であった。王妃は体術に優れており、親衛隊の隊長も務めていた。
しかし、彼らの治める平和な国は火の海と化した。家屋は焼け、煙が立ち込める。
その火の海を、少年は必死の思いで駆け抜けた。
サイバが城へ戻ると彼の両親、王と王妃が出迎え、城の地下の洞穴へ避難していった。
「サイバ、あなただけでも逃げなさい。」
王妃が言う。
「そんなこと、出来るわけないじゃないか!僕も母さん達と…」
「お前はまだ若い。逃げて、生き延びろ。名を変えるのだ。龍の国はもうお終いだ…このまま滅びるだろう…」
王子の言葉を遮り、王が言った。王は続けて話し始めた。
「極東の国の港へ飛べ。お前の龍の力ならば過不足なく飛び続けられるはずだ。極東へ着いたら私の知り合いを訪ねなさい。それでこの世界の真実を知るのだ。」
王はサイバに1枚の紙切れを託し、攻撃が止んだときに、外へ出て飛んでいくように言った。
そもそも、今何が起こっているのか。それは数時間前、船での出来事に遡る。
* * *
「伝令、異能者を発見、これを通達する。」
船室では冷や汗をかいた団長が受話器を手に取り忙しく舌を動かしていた。
「『抹消』される国や島が増加傾向にあることから、世界に異能者が増加していると推測される。…了解、これより『抹消』を開始する」
団長は受話器を置くと船室から出てきて、船員に合図を送る。その合図を皮切りに街に鉛玉の雨が降った。