八枚目 取引
天羅達はエダルの屋敷へ案内されていた。
「改めて僕は神羽を統治しているエダルだ。
君達は?」
「俺は戦鬼の天羅でこっちが玻月で雀だ。
実は困った状況で…」
玻月の素性は隠し、捕虜として今までの事を説明する天羅。
「なるほど。
けど戦鬼が捕虜一人を逃がすのにどうしてここまでするのかな?」
「惚れてるからに決まってるだろ」
「天羅!?」
「愛ね…まあ、そういう事にしとこう。
だけどなぜ君が逃げ出せたか不思議だね。
誰かが手助けしたのかは分からないが、君にはそれなりの価値があるって事かな?」
「わ、分かりません」
「面倒事は嫌いなんだけどねぇ。
戦鬼とは別に仲良しって訳じゃないから、向こうに手を貸す義理もないし。
君達を差し出したら向こうはいくら出すかな?」
三人に笑みを向けるエダル。
「売るのか?」
「だって君達を助けても僕にはなんの得もないよ?
むしろ戦鬼、あるいは政治家の連中に睨まれる可能性が高い。
いくら僕でも政治家相手に戦うのはちょっとね。
それとも君達は僕に何かしてくれるかい?」
「それは…」
「あんたの望みはなんだ?」
「色々あるんだけど、その前に僕にどう助けて欲しいのかな?」
「たぶん羅刹じゃ解決できなさそうだから陽炎へ行きたい」
「陽炎へ!? でも私は陽炎からも狙われてるのよ?」
「なぜ狙われてるか事情が分からないとどうしようもないだろ?
陽炎なら英鬼達もそう簡単に手は出せないだろう。
裏切り者をあぶり出すのにも良さそうだしな」
「でも危険すぎるわ」
「こっちに居ても同じだ」
「そうだけど…」
「陽炎に行きたいのか。
…協力してもいいよ」
「エダル様」
「ナルバ、大丈夫だよ。
僕の知り合いが陽炎にいるから君達を手助けさせよう」
「本当か!?」
「ただし、条件がある」
「条件はなんだ?」
「ここから戦鬼達に見つからず陽炎へ行くには特別なルートを行くしかない。
神羽の裏にある水蜜洞窟を抜けてスラの村を通ってカルバ平原を行く。
そのルートなら安全に国境へたどり着ける。
その道中に届け物とある物を回収してほしい」
「届け物と回収?」
「スラの村にいるフガンという医者に薬を届けてほしい。
その後、カルバ平原の中央に模様が刻まれた小さな箱を回収して陽炎の知り合いに届けてくれ」
「そんな事でいいのか?」
「ああ。
頼めるかな?」
「まあ、こっちに拒否権はないからな。
分かった」
「今日の所は休んで明日の朝に出発してほしい。
君達がいる宿代と食事代は僕が払うよ」
「助かる」
「ありがとうございます!」
天羅達は宿へと帰っていく。
「エダル様、あの者達に協力してよろしいのですか?」
「問題ないよ。
彼らが陽炎をたどり着ければ羅刹と敵対してもお釣りがくるよ。
それに安全と言ったけど、あれは戦鬼に会わないだろうって意味だよ。
無事に陽炎へ着けるとは言っていないからね」
窓から空を見上げるエダルの表情はどこか楽しそうだった。