六枚目 統治者
「…っ…ここは…」
目を覚ました天羅の顔を覗き込む玻月。
「目が覚めたのね。
ここは神羽の宿屋よ」
「神羽…どうやって?
それにあの男は?」
「この人が助けてくれたの」
窓辺に座る黒髪の女がいた。
「誰だ? うっ…」
「まだ動いちゃダメ」
「私は雀。
直撃しなかったとはいえ、あの男の攻撃を受けたなら安静にしていろ」
「黒夜だったか。
知り合いなのか?」
「あんな化物の知り合いはいない。
奴は英鬼の中でもトップクラスの強さだ。
遊ばなければ一瞬で死んでいただろうな」
「よくそんな奴から逃げれたな」
「お前が戦っているのを見ながら私は隙を伺って、閃光玉を使った」
「そうか。
なぜ助ける?」
「時詠みの巫女様のご命令だ」
「あいつのか」
雀は天羅に近付き小太刀を首元に当てる。
「貴様が…貴様が来なければ巫女様は!!」
「殺すか?」
「…今は殺さない。
全てが終わった時、お前達の最後だ」
「雀さん、ごめんなさい」
「雀でいい。
それよりこれからどうする気だ?」
「どうするかな」
「なっ!? 巫女様から何も聞いていないのか!」
「こっちへ向かえとだけだったからな。
雀は何も聞いていないのか?」
「私はあの橋でお前達を救えとだけ言われただけだ。
その後は同行して顛末を見届けろとな」
「となると後はこの街で協力者を見つけるしかないか」
天羅が起き上がり包帯を外すと傷口が消えていた。
「天羅、傷が…」
「一つ聞きたい。
お前の能力はなんだ? あの黒夜の動きを止めたり、傷を一瞬で直したり」
「う~ん、それはまた今度な。
腹減ったし飯でも行くか。
支払いは雀が頼む」
「何だと!? どうして私が…待て!」
部屋を出ていく天羅を追う雀。
「もしかして天羅が始まりと終わりに立つ者。
まさか…ね」
玻月も二人を追いかける。
「くっ…どうして私が三人分も払わなければいけない!」
「俺達は仲間だろ。
次は何処に行くかな」
「誰が仲間だ!
必ず殺してやる!」
「ご、ごめんね雀。
私達、お金が無くて」
「小さい事は気にするな。
ん? なんか集まってるぞ!」
「団子でキレてた人間とは思えない発言ね」
人だかりが出来ている場所へ向かう天羅。
「俺が何したってんだ!」
「商売をするならちゃんと許可がいる。
無許可なら即退去だ」
商人風の男と鎧を着た警備隊の男が揉めていた。
「こんなに広い場所なんだからいいだろ!」
「それは困るよ」
人混みが開け、派手な装飾品を纏った男が悠然と歩いてくる。
「なんだお前!」
「貴様、この御方は神羽の統治を任されているエダル様だぞ!」
「へぇ、ならここで商売させてくれよ!」
「悪いけど僕は臭い物は大嫌いなんだ。
特にゴミを漁るような君みたいな害虫はね」
「ゴミを漁る害虫だと!?」
「この街は商売の街。
だけどそれは秩序が保たれた長い歴史の上に成り立っているんだよ。
君の用な商人崩れが踏み入れていい場所じゃない…ナルバ」
ナルバと呼ばれた背の高い褐色の肌をした男が商人の首を掴む。
「ぐっ…はな…せ…」
「…」
ナルバが男の腹に手を当てると弾かれるように街の外へと吹き飛ばした。