四枚目 動き出す英鬼
「聞いたか? 時詠みの巫女様が殺されたそうだ」
「聞いた聞いた! なんでも若い男女らしい」
「とんでもない事をしやがる」
とある店で話す男達の側に天羅と玻月の姿があった。
「今の話って…」
「とにかく先を急ぐぞ」
二人は周囲を警戒しながら店を出る。
「どうして巫女様が?」
「あいつは自分の運命が分かっていたはずだ」
「なら逃げれたはずでしょ?」
「運命は決して変えない…それがあいつの信念なんだよ」
「親しかったの?」
「ガキの頃にな。
今は西へ行く事だけ考えろ」
「…わかった」
二人は街道を進み商いの街、神羽に近付く。
「もうすぐ神羽に…!?」
「ちょっ! どうしたの!?」
玻月の手を掴み木陰に身を隠す天羅。
「あそこを見てみろ」
街道の途中に武装した男達が紙を見ながら、通行人を引き留めていた。
「検問かしら?」
「だろうな。
俺はまだ大丈夫だろうが玻月の顔は向こうにバレてる。
強行突破しても危険が増すだけか」
「どうするの?」
「裏道を行くか…ついてこい」
天羅は街道から離れ、道なき道を進んでいく。
その頃、とある場所に英鬼達が集まっていた。
「皆、揃ったか」
「頭、俺達を呼んでなんの用だ?」
「足を下ろせ黒夜!」
机に足を上げながら座る黒夜を叱る眼鏡の女性。
「ちっ、相変わらずうるせぇ女だな」
「命子、説明をしてくれんか?」
黒夜と睨み合っていた命子は年配の男性の言葉で我にかえる。
「分かりました。
先日、捕らえた捕虜が逃げ出しました」
「捕虜が逃げた位で俺達を集めたのか?」
「少し黙っておれ」
「わーったよ!」
「逃げた捕虜は陽炎の巫女。
なんでも自然を操る力を持つとか」
「その巫女は強いのかなぁ?
殺りたいなぁ…殺りたいなぁ…」
髪の長い男が息を荒げながら命子を見る。
「苦断が盛りだしたぞ」
「直接力を見たわけではないので、実力はわからない。
ただ戦鬼が一人、行動を共にしているらしいの」
「位は?」
「恐らく戦鬼。
その戦鬼が捕虜を逃がし、時詠みの巫女を殺して逃亡中」
「時詠みを殺した…確か牙炎、巫女様はてめぇの管轄だよな?」
「そうだ」
「責任問題だな」
「巫女様、自身が招き入れたのだ。
そうなっては手が出せん」
「とにかく、その二人を捕らえろ。
国外には出られないはずだ」
「頭、別に殺してもいいですよね?」
「なるべく生きたまま連れ帰れ…行け」
英鬼達は一瞬で姿を消した。