十六枚目 封魔師
魔物は斧を頭上で回転させ始めた。
「ぐっ、体が引っ張られる!」
「(エダルは戦鬼ならなんとかなると思っていたのか?…いや、無理なのはわかっていたはず。
なら、天羅や私達を殺すためとは考えにくい…だとすると)」
「雀!」
「うるさい! 考え中だ!」
「状況をよく見ろ!」
「何を…!?」
地面がどんどん吸い上げられ、回転する斧で粉砕されていく。
「このままじゃ俺達もああなるぞ!」
「仕方ない…あれの動きは私が止めるから何とかしろ」
「何する気だ?」
「玻月、頼みがある」
「何? …うん…うん…わかった!」
雀は駆け出し魔物の背後に回ると地面に何かを描き強く手を押し付けた。
「何して…なんだ?」
地面から鎖が伸び魔物に巻き付いていく。
「玻月!」
地面に手をつき目を閉じる玻月。
「魔物が動き出したぞ!」
鎖を千切ろうと動き出した魔物に太い根が巻き付き動きを止める。
「まだ完全じゃない。
玻月、次だ!」
「うん!」
土が魔物の体を包み込み、斧を回す手を止めた。
「っ! だめ…持たない…」
「天羅!」
「分かってるよ!」
魔物の体を駆け上がり、包み混んでいる土に触れ強化する天羅。
「行くぞ!」
先程より大きな何かを描き、巨大な鎖で魔物の足を引っ掻け倒す雀。
「衝撃を最大に強化してやるよ!」
魔物が倒れると同時に凄まじい叫び声が響く。
「ダメージはあったみたいだな…それより、鼓膜が破れそうだ!」
「やったか?」
「…だめ!!」
玻月が叫ぶと同時に魔物を覆う土が吹き飛ぶ。
「ちっ、やべぇな」
「これまでか…」
その時、笛の音が響くと魔物を文字の紐が巻き付き締め上げていく。
「何が起きたんだ?」
徐々に文字の紐が縮み、魔物を小さくしていくとあの箱に吸い込まれた。
「戻った!?」
「ふう…君達は馬鹿なのか?」
声のした方には笛を手にした小さな男の子が立っていた。
「子供?」
「全く!
エダルさんがここに行けって言うから来たのに、誰も来やしないから帰ろうとしたら魔物を呼び出す馬鹿がいるとはね」
「エダルの知り合いか?」
「僕は封魔師のチャロ。
エダルさんも封魔の箱があるなら言っといてくれればいいのに」
「(なるほど。
エダルは私達が封印を解くと予想し、魔物に勝てるか試したのか。
最悪このチャロという封魔師がいれば何とかなると踏んで…いつか殺す)」
チャロは箱を拾い上げる。
「あーあ、ボロボロじゃないか。
これなら君達が来なくても封印が解けてたかもね。
参ったなぁ、補強用の箱なんて持ってきてないよ」
「触っても大丈夫なのか?」
「今はね。
君達が触った時はたぶん封印の力が弱まってたんだよ。
かなり年代物だし、大昔に封印されたんだと思う」
天羅が箱に触れると一瞬で新品の箱に変化した。
「これでどうだ?」
「凄いや!
お兄さん何者? こんな事出来る人初めて見たよ」
「これならしばらくは持つんだろ?」
「あと二百年は大丈夫だよ。
でもこれを何処かに保管しないと」
「実はこれを陽炎に届けるように頼まれててな」
「そいなんだ。
じゃあちょっと待って…はっ!」
箱に手をかざし紐を巻き付けるチャロ。
「なんだ?」
「簡単に開かないようにしておいたから。
じゃあ、僕は仕事があるから行くね!
そうだ、お兄さん達の名前は?」
「俺は天羅、こっちが玻月で…向こうで苛ついてるのが雀だ」
「お兄さん達、面白いね。
それじゃあまた何処かで!」
チャロはそう言って去っていく。
「一時はどうなるかと思ったが」
「これで陽炎へ行けるわね」
「雀、行くぞ!」
「…利用するとは…必ず殺す!」
「だめだありゃ」
こうして三人は国境へと進み始めた。