十五枚目 小さな箱
「次は確かカルバ平原で箱の回収だったな」
「でも平原にどうしてそんな箱があるのかしら」
「どうせそこで死んだ人間の遺品だろう」
「雀、怖い事言わないでよ!」
「もしかして玻月は霊とか信じてるのか?」
「死者の強い思いはその場に残るものよ」
「じゃあ、その箱の近くにも死者の魂がいるかもなぁ~」
「や、止めてよ!
怨念だったら天羅が取りつかれてよね!」
「そこの馬鹿二人、さっさと行くぞ」
二人を置いて先へと進む雀。
「あ、待って!」
「雀は美人なのに勿体ない奴だな」
それから山間を進みカルバ平原に到着した三人。
「ここは自然が生き生きしてる」
「滅多に人がこないからな。
蜜獅子も花の蜜を吸ったりしてよくいるんだが…」
「水蜜洞窟に群れていたのもここからいなくなっていたからかしら?」
「恐らくな。
なぜここを離れたかだ」
「そんな事はどうだっていい。
箱を回収して先を急ぐぞ」
「無愛想な奴だな」
「真面目なだけよ」
三人は箱を探しながら平原を歩いていく。
「こんな広大な場所で模様がある小さい箱なんて探せるのか」
「もう弱音か? 情けない男だ。
モノが小さい奴は心も小さいな」
「女がそういう事言うなよ。
って小さくねぇよ!」
「だったら黙って探せ。
ん? どうした玻月?」
立ち止まったまま玻月に話し掛ける雀。
「あそこ…何かあるわ」
玻月はそう言って少し先を指差す。
「なんだ見つけたのか?」
「待って! 慎重に進んで。
あそこだけ自然が苦しんでる…ううん、何かに怯えてるような」
「とりあえず行ってみるか」
慎重に三人が進むと、地面に模様が刻まれた小さな長方形の箱があった。
「これか…ヤバそうな気配がするな」
「(この模様は何処かで見た気が…)」
「見てても仕方ないな。
素早く掴めば」
「思い出した! 天羅、待て!」
雀の制止よりも先に天羅の手が箱に触れ、黒い煙が吹き出し周囲を包み込む。
「なんだ!?」
「とりあえず離れるぞ!」
玻月を抱えた雀と天羅は煙から抜け出す。
「何…これ…」
「あいつこんな物を回収させるつもりなのか!?」
「やはりあれは封魔の箱。
古より存在する魔物を封じていた箱だ」
煙が消えていくと同時に巨大な斧を手にした頭が二つ、長い尾に全身鱗に覆われた蜥蜴の様な生き物が立っていた。
「倒せるのか…」
「本当に馬鹿だな。
倒せないから封じていたんだ」
「雀、封じる方法は?」
「あの箱を使うのは間違いないが、封魔師でないと不可能だ」
「逃げるとか無理だよ…な?」
「逃げれたとしてもスラの村は潰されるだろうな」
「そんな!?」
「じゃあ、やるしかなさそうだな。
向こうもやる気満々だぞ!」
地面を右足で何度も踏みつけ身を屈める魔物。
「来るぞ!」
斧を振りかぶり高く飛び上がった魔物は三人へと振り下ろす。
「ぐっ!」
「きゃっ!」
「…倒すなど不可能だ」
魔物の一撃は三人を吹き飛ばし、周囲の地形を一瞬で荒れ地へと変化させた。