十四枚目 帰還
「どうぞ」
「すまない」
雀に紅茶を差し出すフガン。
「玻月さんはまた?」
「あれから五日…毎日行っている」
「君達のお陰で治療薬もほぼ完成した。
あの宝石は小さな細胞の集合体だとは驚いたよ」
「その細胞が人と融合し化物へと変化させていたのか」
「持ち帰ってくれた宝石…歓喜と悲哀の涙と言うんだったね。
あの欠片を調べられなければ無理だっただろう」
「あいつはなぜ化物にならずにあんな状態に?」
「うーん…私の予想ではかけらではなく、塊に触れた結果なのかもしれない。
少量の細胞と融合すれば化物になり、大量の細胞に触れれば同化してしまう。
もしかするとあれは成長しようとしているのかもしれないな」
「複数の化物が合体したのもそのせいだろう。
化物はあの宝石を運ぶための存在。
あんな物が世界に散っているとはな」
「恐ろしい事だよ」
その頃、玻月は天羅に話しかけていた。
「村の人達は快方に向かってる。
私達は村の英雄扱いされてるの…来た時は襲われそうだったのにね。
…私のせいかな? 私が何とかなるかもなんて言ったから天羅はこんな事になったのかな。
どうすればいいの…返事してよ…」
真っ暗な場所に横たわる天羅。
「(音も聞こえない何も感じない…まるで体が無くなったみたいだ。
どうして俺はここにいるんだ?
俺は…誰だ? 考えるのが面倒だ…考える? 何を?)」
小さな光りが天羅を照らす。
「(光り…眩しい…何なんだ?)」
ゆっくり光りに手を伸ばす天羅。
「(温かい…もっと欲しい…光りをもっと)」
そんな天羅の思いに呼応するかの様に徐々に光りが強くなっていく。
「(俺は…行かないといけない…)」
「我が子よ…」
「(今の声は…)」
光りに包まれていく天羅。
「玻月、そろそろ戻るぞ」
「雀…分かった」
二人がその場を離れようとした時、ガラスの割れる様な音が響く。
「…天羅」
「あれ…俺は何してたんだ?
玻月、雀、何があった?」
「おかえりなさい」
「ん? ただいま…なのか?」
「おい」
「どうした雀?」
「前を隠せ変態め!」
「前? あ」
戻った天羅は全裸になっていた。
「感動が台無しよ」
「いや、これは不可抗力で…がっ!?」
近付く天羅の股間に雀の投げた大きな石が直撃する。
「行くぞ玻月!
変態は村の奴等に運ばせればいい」
「う、うん」
それからしばらくして気絶した天羅は村人に運び出され、服を借りてフガンの元に三人が集まった。
「無事でよかった!」
「一部を除いては何とか無事です」
「しかし、体に異常は無さそうだ。
戦鬼なのが影響してるんだろうか」
「五日間の記憶も全くなくて…ただ変な声がしたような記憶だけはあるんだけど」
「声?」
「懐かしい感じの…でも嫌な感じの…」
「もう少しあの宝石の欠片を調べると何か分かるかもしれないね」
「歓喜と悲哀の涙は完全に無くなっちゃいましたね。
天羅が無事に戻れた事と関係があるのかしら」
「そんな事より五日も足止めを食らったんだ、さっさと先へ行くぞ」
「雀の言う通りだな。
フガンさん、お世話になりました」
「世話になったのはこっちだよ!
またいつでも遊びに来てくれ」
「はい!」
三人は身支度を済ませ村を出ていった。
「(彼らには言っていないがこの細胞を調べて分かった事が一つ。
この細胞はより強い同質の細胞と一緒になると、弱い方は吸収され欠片が粉々に砕け散る。
天羅くんが触れた歓喜と悲哀の涙が無くなったのがこれが原因だとすれば、彼が元に戻れたのも理解出来る。
ただ問題は天羅くん、君があれと同じ細胞を持っていると言う事になってしまう。
君は…いや、戦鬼とは一体何なんだ?)」