十二枚目 奥に潜むもの
「玻月、本当に大丈夫なのか?」
「紫色の原石は恐らく歓喜と悲哀の涙だと思う」
「なんだそれ?」
「始まりと終わりを告げし者の話を知らないの?」
「雀は知ってるか?」
「聞いたことがないな」
「二人が知らないだけか、この国では伝説にすらなっていないのかもしれない」
「そんなに有名なのか?」
「ええ、だってこの世界が生まれたすぐ後の話だから」
「この世界が生まれたすぐ後?」
「簡単に話すわね。
この世界が生まれた時には私達、人間は文明なんて持っていなかった。
そんな人間達の前にそれは現れたの。
神々しく輝き人々は無意識にひれ伏した。
それは人間に自分は始まりと終わりを告げし者と名乗り、この世界がどう変わるかを試しに来たと言って一滴の涙を溢した」
「涙?」
「それは紫色に輝いた大きな宝石の様だったの。
その宝石から光りが溢れ世界を駆け抜けた。
その光りは選ばれし者達に様々な力を与えたわ」
「良い事じゃないか?」
「じゃあ、選ばれなかった人はどうなったと思う?」
「まあ、今までと変わらないんじゃないのか?」
「選ばれなかった人達は人ではなくなったの」
「人ではなくなった?」
「醜い姿に変わり破壊を繰り返した。
選ばれた人達は力を使い、世界からその人達を全て消し去ったの。
選ばれた人達は宝石は危険だと理解し砕いた。
宝石は細かく砕け世界中に散り、人々はその欠片を歓喜と悲哀の涙と呼び決して触れてはいけないものとしたわ」
「その欠片が紫色の原石?」
「ええ、恐らく。
ただのおとぎ話だと思っていたけど、この村に来て本当だと理解したわ」
「始まりと終わりを告げし者はどこに?」
「宝石が砕けるのを見て姿を消した。
始まりと終わりに立つ者が生まれた時、再び会いに来ると言って」
「始まりと終わりに立つ者?」
「それが何なのかは分からないの」
「なるほどな。
でも、そんな危険な物をどうするんだ?」
「恐らく選ばれし者なら破壊できる」
「なるほど、そう言うことか」
玻月と雀は天羅を見つめる。
「ん? まさか俺が選ばれし者だと思ってんのか?」
「戦鬼がそうなんだと思う」
「もし違ったらどうするんだよ!?」
「その時は私が貴様の首をはねてやろう」
「おい!」
「ダメなら別の手を考えましょう」
「考えましょうって…いてっ! 急に止まるなよ!」
前を歩いていた玻月が開けた場所に出た時、驚きの表情を浮かべ固まる。
「あ、あれ!?」
玻月が指差した先には所々から紫の宝石が見える大きな岩と、周りには数体の怪物がいた。
「あれが取り残された人か」
「何をしているんだ?」
大きな岩に怪物が抱きつき岩と一体化すると巨大な岩人形へと姿を変える。
「なんかやばそうだな」
「グオオォォォォ!」
岩人形の咆哮が洞窟を揺らしていた。