十一枚目 奇病
「こんな場所に何の用だ?」
「エダルからフガンて医者に届け物だ」
「先生に? 誰か確認してこい!」
男の指示で若い男が村へ走っていく。
「お前達、どうやって蜜獅子の群れをやり過ごした?」
「倒しただけだが?」
「倒した? 冗談を言うな!
あれは化け物だぞ! 戦鬼でもあるまいし…まさか」
「一応、戦鬼だが?」
天羅の言葉に周りの男達は一瞬たじろぐ。
「な、何で戦鬼がここに!? エダル様との協定で立ち入り禁止のはずだ!」
「そうなのか?」
「私に聞くな!」
「雀なら知ってると思ったけどな。
まあ、こっちにも事情があるんだよ」
「おい、こいつら村を潰しに来たんじゃないのか?」
「エダル様の名前を使って油断させる気だな!」
ゆっくりと武器を構え天羅達に近付く男達。
「ちょ、ちょっとどうなってるの!?」
「戦鬼はその強さ故に国民からあまり好かれていないのが実状だ」
「ちゃんと国は守ってるんだがなぁ」
「どうするの!」
「待ちなさい!」
その時、男達の後ろに現れた中年の男性が叫ぶ。
「先生! こいつらは敵です!」
「大丈夫だ。
色々事情があるようだが、エダルから連絡は受けている」
男達を押し退けフガンは天羅に手を差し出す。
「村の者がすまなかった。
私がフガンだ」
「俺は天羅、この二人は玻月と雀だ。
これをあんたに」
小包をフガンに手渡す天羅。
「…確かに。
とりあえず私の家に来なさい。
皆もご苦労様、心配はいらないよ」
フガンの言葉で男達は去っていく。
「狭い家だがゆっくりしてくれ」
家にたどり着いた三人は出されたお茶を飲む。
「しかし、あんなに警戒しないといけないのか?」
「…実は村の少し先にある鉱山が問題なんだよ」
「鉱山?」
「エダルが信用した君達だから話すが、ここの鉱山からは金や宝石の原石が取れるんだ」
「初めて聞いたな。
でもそれとどう関係あるんだ?」
「お前は馬鹿か」
「馬鹿ってなんだよ!」
「それだけ狙われやすいって事だ」
「それもあるが、一番の理由は鉱山に近付けさせない為なんだよ」
「ん?」
「今の鉱山は非常に危険なんだ。
入った者は謎の病気にかかり今も苦しんでいる」
「謎の病気?」
「先生! マタルが!?」
その時、一人の男性がドアを勢い良く開け入ってきた。
「すぐに行く!
君達も来なさい、見た方が早い」
フガンの後に続いて入った家には、苦しみながら変異した右腕を掴むマタルがベッドに横たわっている。
「ぐああ!」
「進行が早い! ちゃんと薬は打ったのか!?」
「注射をする時に暴れて割れちゃったんだ」
「くっ! こうなっては仕方ない…腕を切り落とす!」
「そんな! マタルが彫刻を出来なくなる!」
「死ねば何も出来ないんだぞ!」
「マタル…許してくれ」
それから腕を切り落とし注射を打つとマタルは眠りにつく。
「あれは一体?」
「分からない…今は開発した薬で進行を遅らせているが止められた訳じゃない」
「鉱山に入った人がみんなあんな風になってしまったんですか?」
「ああ、変異は腕や足から進み全身に広がっていく」
「全身に広がったらどうなる?」
「怪物となり人々を襲う」
「鉱山に何があるんだ?」
「帰ってきた者の証言では紫色に輝く大きな原石があったそうだ」
「紫色の原石…」
「その原石から光りが溢れ皆あんな風になってしまった」
「近付かないようにするのが賢明だな」
「そうはいかない…この村はあの鉱山で生計を立てている。
危険だと分かりながら鉱山に行くしかない」
「私達の役目は届け物だ。
先を急ぐぞ」
「雀の言う通りどうにも出来なさそうだな」
「…鉱山に行きましょう」
玻月の言葉に全員が驚く。
「私達の目的はこの国を出る事だ!
こんな所で時間をかけていたら出られなくなるぞ!」
「それでも助けるべきです!」
「はぁ…何を言っても無駄みたいだな」
「天羅!」
「君達は正気か!? 何も分かっていないんだぞ!」
「私に考えがあります」
「…分かった。
しかし、決して無理はするな!」
「はい!」
こうして三人は鉱山の中へと向かった。