十枚目 スラの村へ
天羅達は水蜜洞窟を進んでいた。
「なんだか気持ち悪い洞窟ね」
「ここはその名の通り、水蜜が染み出ている。
一説では地中に埋もれた大樹の蜜という話だ」
「雀って物知りね」
「巫女様が教えてくれた。
私は戦う術しか教えられず育ったから、巫女様の話は楽しかった」
「そうだったの…巻き込んでしまってごめんなさい」
「巫女様がお決めになった結果だ。
私は巫女様を殺した奴を絶対に許さない!」
「雀…」
「女同士だから仲が良いのは分かるが、厄介な事になってるぞ」
天羅が指差した先には群れをなした怪物達がいた。
「何あれ!?」
「蜜獅子、鼻から伸ばした触手で蜜を吸う生き物だ。
しかし、この時期に群れでいるのはおかしい…」
「原因は分からないがあそこを抜けるしか道はないな」
「人を食べたりしないでしょ?」
「触手は蜜を吸うだけの物だ。
だが…」
「何なの?」
「自分達の種族以外は問答無用で襲ってくる」
「食べられちゃうの!?」
「いや、襲うだけだ。
殺した後は見向きもしない」
「どっちにしろ襲われるのね」
「お前が物知りなのは分かったがどうする?」
「簡単だ…貴様が何とかしろ!」
天羅の腕を掴み蜜獅子の前に放り投げる雀。
「うわぁぁぁぁ!
いてっ! 無茶苦茶す…る…」
蜜獅子達が天羅を睨み付け地面を引っ掻き始める。
「ちょっと雀!? 早く天羅を助けないと!」
「待て、奴の力を知るにはいい機会だ」
「でも!」
その時、蜜獅子達が一斉に天羅へと突進していく。
「(蜜で足場は悪い…避けれないとなると)」
天羅が下に溜まった水蜜を片手ですくい投げると、水蜜の粒が弾丸の様に飛んでいき蜜獅子達を貫いた。
「すごい!」
「(何をした? ただ水蜜を投げただけ…それが蜜獅子の体を貫くなど)」
「ふう…これで満足か? 雀」
「貴様の力は何だ?」
「また今度だな。
さっさと先に行くぞ」
一人歩いていく天羅を追う二人。
「しかしあの野郎、蜜獅子の群れが居るのを分かってたな」
「エダルさんの事?」
「だから私達に頼んだのだろう。
荷物運びなどいくらでも人手がいるだろうからな」
「じゃあ、この先も…」
「戦鬼が来ない分、別の危険があるって事だな。
おっ、出口だ」
三人が洞窟を抜けると一本道の向こうに小さな村が姿を現す。
「あそこがスラの村ね」
「…」
「どうしたの?」
「囲まれてるな」
「何に?」
玻月が辺りを見回していると一斉に武器を持った人達が現れた。
「蜜獅子みたいにはいかないか」