私とわたし
「…リーザ」
リヴィエルの声がした
どこか泣きそうで、震えている、そんな声
「リーザ…ごめん
ごめんね」
何を謝っているのかはわからないけれど、今のリヴィエルは、破壊に呑まれていない
私は、どうしていたのだろう?
確か、リヴィエルがリーンハルトを殺して、そして
「…ッ!!リヴィエル!!!」
「わっ…な、なに?」
起き上がってリヴィエルの頬を両手で持って挟む
目を合わせて、力を使う
––––私は身代わりの魔女
貴方の力の代償は、力は、全て私に
「…ごめんね、リーザ…
こんな事をさせて、ごめん
リーザ、俺は君を探してた
ずっと、ずっと探してたよ」
どこか悲しそうに、嬉しそうにそう告げるリヴィエルに、私は何も答えない
…答えられない
「リーザ…
俺の破壊が君を壊すのなら、それは俺が君を壊しているのと同じだ
もう、止めにしよう?
リーザが俺の身代わりになる必要なんてないんだよ」
なら、そしたら、
身代わりの魔女は何のためにいるの?
「リーザ、俺は君に破壊の魔女になんてなって欲しくない
君は優しくて、心配性なか弱い女の子なんだよ
俺の代わりに壊す必要なんてない
独りになる必要なんてない
心を殺す必要なんてない」
リヴィエルは優しく言う
じゃあ、どうしたらよかったの
リヴィエルを殺せばよかった?
そのままにしていた方がよかった?
関わらなければ、出会わなければよかった?
じわりと、涙が滲む
嗚呼、今までのことは、無駄だったのかな
ただ、生きていて欲しかった
壊れていくリヴィエルを、見ていたくなかった
でも、これも全部独りよがりだ
私のため
リヴィエルのためなんかじゃない
「リヴィエル…わた、し」
「…リーザ
ありがとう」
何を言われたのか、理解できなかった
微笑みを浮かべているリヴィエルの顔をただただ見つめていた
「リーザ、君のおかげで俺は今まで生きてこれた。
俺は、力から逃げ続ける日々にホッとしていたし、誰も傷つけずに済む生活に安心していた。
けれど、その日々に君はいなかった。
リーザ
俺のリーザ
俺の幸せは、君だよ。君が居なくちゃ意味がない。
君を犠牲にしていては、俺は幸せになれないんだよ」
嗚呼、痛い
心が痛い
わたしは、貴方に生きていて欲しかった
それだけでよかった
わたしがどうなろうと、それでも生きていて欲しかった
それだけだったのに
「リーザ
俺のリーザ
君は破壊の魔女なんかじゃないよ
独りぼっちが嫌いな可愛い女の子だよ
それで、いいんだよ」
「リヴィエル…わた、しは…」
嗚呼、声が震える
私は、破壊の魔女リーゼロッテ
何だって壊す魔女
人の想いも、人との縁も、命だって壊す恐るべき魔女
それは、事実だ
紛れもない、事実
「わた、し…は、私の、意思で、沢山の物を、壊したよ
お気に入りだった、髪飾りも、姉様がくれたぬいぐるみも、母様が大事にしていたカップだって、全部、ぜんぶ
私が壊したの
私の心の中にある黒いものが、全部ぜんぶ壊せって言うの
全部壊してたら、そしたら、わたしだって、壊せるんだって!
壊れてくれるんだって!!
私はわたしを壊したいの、リヴィエル
破壊を利用して、わたしを壊したいのよ!!!」
消えてしまいたい
貴方を救えない私なんて
そんなの嫌
私は全てを壊したい
私をわたしでいさせてくれるものを、全て
私の幸せにわたしはいらない
泣いてばかりの私
貴方を救えないわたし
全部ぜんぶイラナイ
壊せ
壊してしまえ
いつの間にか泣き虫なわたしが顔を出して、私の頬を濡らしていた
嫌い
嫌いよ
泣き虫なわたしも、涙を止められない私も
全部嫌い
「私は、わたしが大嫌い…
壊してしまいたい
全部ぜんぶ壊したいよ…リヴィエル…!」
わたしがいなくなったら、私はきっと
貴方を殺せるから