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壊れたこころ




リヴィエルがこない


ここ数日、彼が私の元を訪れることはなかった

どうしてか、なんてわからない

普段ならきっと、破壊の魔女である己を恐れたのだろう、だとか飽きたのだろう、と思うだろう


けど、どこか違和感を拭えない

何かがおかしい

嫌な予感がする

このままだと嫌だと、このままではいけないのだと心が悲鳴をあげる

わからない

わからないのに、嫌だと言っている

自分のことなのに、よくわからない


「やぁ、破壊の魔女」

「ーーッ!!!」


咄嗟に使い古した––––けれど、何処か違和感のある鎌を手に持っていた


そして、その刃先を声の主に当てていた

反射、と言ってもいいだろう

この声は聞き覚えがあった


「…お久しぶり、とでも言った方がいいかな?」

「……」


何年か前に破壊の魔女(わたし)を訪ねてきた奇特な男がいた

“自分の『優しさ』を壊して欲しい”と言った、そんな男

名は確か


「リーンハルト……」

「おや、驚きだな

破壊の魔女も名は覚えているのか」

「…要件は」


ひとつ、人々の知らない事実がある

破壊の魔女(わたし)は、一度破壊した者は壊せない

破壊衝動は湧かなくなる

だって、ソレはもう私にとって壊れたモノなのだから

壊れたものを更に壊したいとは思えない


何故皆が知らないのか、というのは簡単だ

誰が好き好んで自分を壊した相手に会いに行く?

来るとしたら復讐に、だ

そして私は、私に殺意を持つ者を生かしておくほど甘くない

だから、この事実を知るものはいないのだ


だが、リーンハルトは違った

何度も何度も会いに来る

皮肉を混ぜながら、私が此処で暮らしていけるように必要なものを届けに来るのだ


わかりやすい共通の『悪』はあっていいのだと、この男は言った

私は『必要悪』なのだと

それでも良かった

別に、どうだって良かった


だって、私は破壊の魔女で、その名の通り沢山のモノを壊してきたのだから

他人の大切なものや、命でさえ


何だって良かった

良かったんだ


彼を守れるのなら、それで


私は私の考えに首を傾げる

彼、とは誰だっただろうか



「––––––リヴィエルが、倒れたよ」



その言葉は、私を動揺させるのに十分過ぎるほどだった

倒れた

倒れ、た



嗚呼…もう、限界、なのか


わからないまま、私はそう思った




「なぁ、破壊の魔女?

俺と取引をしないかい?

少年は今、俺の保護下にある

さぁて、破壊の魔女

ここで問題だ。君が、いや、君は本当に、破壊の魔女(・・・・・)なのかい?」


嫌だった

男の声を聞くことが

男の問いの答えを導き出すことが

だってわかってた

わかりきっていたことだった


–––––––違う



違う、違う違う違う違う!!

わからない

何を言っているのかわからない

わかっているはずなのに、わからない

その事に焦りが募る



「…これは取引だ、破壊の魔女

彼の命と君の命。君はどちらをとる?」

「そ、れは…」


答えようと、私は口を開く

その答えはとうの昔に出ていたのだから


待って、待ってよ

答えって何?答えなんて、出ていない

私は知らない

わからない


思考はグルグルと忙しなく回る

私の考えなのに私じゃない

知ってる私と知らない私

混乱は収まらない





「…リーさん

何をしているんですか」




白くて、やわらかな髪が揺れる

嗚呼、どうして

どうして


どうして来たの


「リヴィ、エル」



逢いたかった

けど、逢いたくなかった

これは、きっと紛れもないリーゼロッテ(わたし)の心




「……ッ……!?しょ、うね、ん…っ!?」

「酷いな、リーさん

リーザに会うなら一言でも言ってくれればいいのに…」


彼の手は赤く染まっていた

赤い、赤い血で


だって、リヴィエルの手は、腕は、リーンハルトの胸を貫いているのだ

ごぼ、という音とともに口から血を噴き出すリーンハルト

その目には、ただ、純粋な哀しみだけが映っていた


彼はきっと気づいてた

気づいていて、私のところに来たのだろう

優しさを壊したはずなのに、とことん優しい男だ

私と、彼を案じて、手を差し伸べていたんだろう


なのに、何も…何一つ感じていないような、そんなリヴィエル

笑顔すら、浮かべていた

まるで世間話をするように、肩に触れるように、彼をその手に掛けても、なお


リーンハルトは、もう、命をおえていた

やけに生々しい音を立ててリヴィエルの手は引き抜かれる

支えを無くした塊は呆気なく地面に倒れこんだ

赤い赤い液体が流れ出る


駄目だよ、リヴィエル

だめ

かえして、かえしてよ





その破壊(ちから)をかえして










「やぁ、リーザ

君に逢いに来たんだ」


––––––そっか。私は、逢いたくなかったよ


「ねぇ、リーザ

俺たち、幼馴染なんだよ?知ってた?」


––––––知ってたよ。ずっと知らない振りをしていたよ


「リーザ、どうしてリーさんを知っているの?」


––––––数年前からお世話になってるの


「ねぇ、リーザ

どうしてリーさんは、倒れているの?」


––––––それは、貴方が殺したからよ


「ねぇ、リーザ

どうして君は泣いてるの?」



「ぅ、あ……ああ…」


私は涙を流す

だめだった

間に合わなかった

守れなかった

何のために、私は、


「いやぁあぁあぁぁあ!!!!」






–––––––破壊の魔女に、なったのだろう





「…?リーザ?

どうしたの?リーザ、リーザ

俺の、リーザ

泣かないで、リーザ」



リヴィエル

私のリヴィエル

お願い

お願いよ






これ以上、貴方(こころ)を、殺さないで







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