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魔女の溜息




「…んー…どうしたものか」


ガラクタだらけの部屋で、少女はポツリと呟いた


…困ったな、壊し過ぎてしまった

足の踏み場がない


全てを壊す事が性分の少女は、今や物を壊し過ぎて、ベッドの上から動けない状況にいた

実はこれはよくある事なのだが、今回はベッドまで壊れていないのが救いだ


「この前壊したのは何処だっけか…あぁ、そうだ

腕、だったな」

この間久方ぶりに人間が来た

で、「破壊の魔女を倒してやる」だの言っていたから相手をしてやったんだ

特にやる事もなく暇だったからな

まぁ、そいつは暇つぶしにもならなかったが

「…少し触れただけで壊れるとは…軟弱な人間だ」

どうしてこんなにも人間は弱いのだろう

同じ魔女ならば、私を認めてくれるのだろうかと思っていた頃が懐かしい

結果、同じ魔女でも畏怖されるという事がわかった訳だが

「…だから人は嫌いなんだ」

誰が聞いてる訳でもないが、そう呟いた

独りでいると喋る必要がないから、声の発し方を忘れてしまう

それは色々と困るので、自然と独り言が増えるという訳だ


ちりん


「…?」

遠くで物音がする

誰か、来た?

「…ふぅん…次は楽しめるかな」

足元のガラクタを踏み潰しながらクスリと笑い、音のした方へ向かう




「おや、君が『破壊の魔女』さん?」

「…」


いたのは、あまり強くなさそうなヒョロイ男

マントを着ているから顔は見えない

ただ、今回も楽しめなさそうだなとは思った

「お名前をお聞きしてもいいかな?」

「……」

ちょっとした違和感

人間は、いつもは私を前にしたら恐怖か蔑みの目を向けてくるのだが…

この男は、違う

多分、これは興味

「…リーゼロッテ」

いつもの奴らと違うコイツに、気まぐれで名前を教えてやった

「そうか。俺はリヴィエル」

「……」

リヴィエルという男はにこにこと微笑んでいる

今だ、口元しか見えていない


ーーそんな目で私を見ないで

私を、虐げないでーー


幼い頃の記憶が蘇る

マントを着た者たちに腕を掴まれ

暗い穴の底へ閉じ込められてー…


途端に、力が暴走する

私の周りの地面に亀裂が走り、その亀裂は男の元へと向かう


「(…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!!)」

頭の中は、その言葉で埋め尽くされる

「!」

いつの間にか、私の手には使い慣れた鎌が握られていて

壊さなきゃ

壊して壊して全部

全部いらない

壊さないと

私の中の破壊衝動が、溢れ出す

私の意識はそこで途切れた








「(…まずいな)」

リーゼロッテは鎌を握り、微動だにしない

だが、こちらが動けばすぐに殺されるだろう

「(…まぁ、動かなくても殺されてしまいそうだけれど)」

このまま行くとどちらにせよ、俺は死んでおしまいだ


「ーーッ…いっ…」


ぼんやりとしていたら、右足に鈍い痛み

鎌で足の腱を切られたようだ

次に狙われる場所は、おそらく左足

「……っ」

痛みを無視しつつ、右足を庇い次の攻撃を避ける

避けきれず、少し足を切られた

破壊ってかなり物理的だな

「…こ…きゃ……」

ブツブツと何かを言っているようだけれど、地面が崩れる音に鎌が空を切る音で途切れ途切れにしか聞こえない

「ーーッ!!」

腱を切られた足に鋭い痛みが走る

よろけて、その場にしゃがんでしまった

彼女が目の前に立って、鎌を構えているのがわかる

「壊さなきゃ…!」

彼女はそう言って鎌を、大きく振りかぶ

った

その時の彼女の顔は、どこか泣き出しそうに見えた


「…くっ……」

ギリギリで急所は避けたけれど、肩からお腹の辺りまで切れ、傷は所々深い

出血量も含めるとこのままでは死んでしまうなと何処か他人事のように思った

だけど


先程から、気になっている事がある

彼女はもしかしてーー…







「リ……ロッテ」


声が聞こえる

遠くで、優しい声が

私に優しい声を向ける人はいない

だって私は独りだから

独りでいないと、皆壊してしまうから


「リーゼロッテ」


カラン…と何かが落ちる音

そして、何かが頰を伝う感覚

なんなんだ

よく、わからない

私は今、現れた男を壊そうとしていて…

…違う

殺そうと、していて

でも、何故?

何故殺そうと思った?

いつもは壊すだけにしているはずなのに

嗚呼、頭が痛い

私の手には、再び鎌が握られていて

座り込んでいる男に向かって、振り上げて…


「やっと見つけた」


男がそう呟いた気がした


次の瞬間には、私の手に握られた鎌は男の腹部に刺さっていた

肉に沈み込む感触

ドロリと赤い血が流れ出る

嗚呼、私はまた壊してる

私はまた、私の為に壊してる

そうでしょう

じゃないと

私はーー…


「そんなにも、壊したいのなら

僕を壊してくれないかい?」


「え……」


今、まさに壊されかけている男は笑みを浮かべながら

確かにそう言った

壊して?

何故、そんなこと頼むの?

「僕は家族もいないし、心残り(・・・)もない

それに、壊されることを望んでる

壊すにはうってつけだよ」

どうしてか、力が抜けた


壊す?

嫌だ

壊したくない?

それも嫌


よくわからない

自分の頭の中でグルグルと同じことを考えていた


微動だにしない私の様子を見て、自分の提案への返答がNOだと察したらしい男は、鎌を腹部から勢いよく抜いた

血が、噴き出す

赤い血

痛く、ないのだろうか


「先ほどの答えが、NOだとするなら手を貸して貰えると助かるな

このままだでは死んでしまうからね」

自分のことのはずなのに、他人事のように言う男…リヴィエル


「嗚呼、でもいつでも僕を壊しても構わないよ」

「………」


どうしよう

なんか、とてつもなく変な人みたいだ


何故かリヴィエルを家に運んだ

その後に指示されながらの手当て

「そうそう、次はこっちを巻いて」

「こ、こう…でいいの、か?」

ワタワタし過ぎた私は、時折リヴィエルに笑われる

不思議とイラつかない

心地よいとすら思っている私がいた


「…で、いつ僕を壊すんだい?」

にこにこといい笑顔でそう言われた

手当てが終わったばかりなのに


私は破壊の魔女

全てを壊したい

その為に生きている


…はずなのに


どうしてだろう、こいつは壊したくない

なんか、生理的に受け付けないというか

本能が止めとけと警告しているというか

なんとも言えぬ気持ちになりながら


「……はぁ…」




深い深いため息を吐いた

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