その、六十二 会議室から移動しよう
「征さん、神域がある程度できましたから見に来ませんか?」
天司は時々こうして神域へ誘ってくる。大学の後期試験がもう始まるだろうにいいのだろうか?
「んー?」
「この前は途中までの所でしたでしょう? 今回は庭園もほぼ完成しましたから。後は征さんが吹上御庭に茶畑を作成していただければ終わりです。
ずっと会議室を独占している訳にも行きませんし、これを機に神域に職場を移してはどうでしょうか。内線を引いてありますし、業務に支障はないようにしてあります」
そういえば4月から1年近くこの会議室を占領している。散らかした資料に壁にベタベタと貼ったダンジョン図、快適に過ごせる備え付けのポットと冷蔵庫、明らかにくつろぎすぎである。私物化していると言われても文句は言えない。
因みに補佐がその辺りうるさく言わないのは霊珠・茶会が金の成る木のためだ。更にダンジョンはセーフハウスで本部に恩も売れる。会議室1つで手元に置けるなら安いものである。
「そういえばそうだね。片付けて明け渡すかー」
物凄く快適だったのに。
「ええ、そのためにも見に来てください。必要な物があれば入れますし」
「分かった。いつがいい?」
「いつでも。これからどうですか?」
そして入れて貰った神域は無駄に広い。
「将軍って城の中にいて運動不足なイメージ会ったけど、これだけ広ければ十分だよね。本丸の中だけでも」
「いつもの会議室のように使う部屋は白書院を予定しています。広いですし、それなりに人数入りますからね。広すぎると言うのであれば黒書院でどうぞ。俺は本丸に常駐する予定ですが、仕事の拠点は西の丸に置きます。二の丸に征さんの眷属が済むようにしておけばいいでしょう」
「黒書院にしよう」
黒書院でも広すぎで上段(18畳)、下段(18畳)、囲炉裏之間(15畳)、西湖之間(15畳)の4室と入側で囲まれて溜之間(24畳)が付属するので、約190畳。最初に勧められた白書院は約300畳になる。無理だ、流石に広すぎる。
後で聞いたら健康の神様なので征也の自室(予定)の中奥から少し歩く長さを長くと思ったそうだ。有り難いが気を回しすぎだ。
「神気が濃いので加奈さんはそのまま来て貰っても構いませんが、唯さんは神気の侵食が進んでから追々来てもらいましょう」
元々の霊力が高い加奈さんなら問題なく移り住めるが、唯さんは神気酔いして動けなくなる可能性がある。
「唯さん、最近カフェの茶道体験、楽しそうに指導してるよね。
加奈さんはダンジョンの魔物分類やってる最中だし、どうだろう?」
「話すだけ話して映る時期は自分で決めて貰ったらどうですか?」
彼女たちは一応征也の神妻と言う立場にいるが、征也が仕事に振り回されているうちにどうしてそうなったのか恋人になったそうだ。正室と側室が恋人で夫はほぼ外野……悲しい事実だった。やはり放置し過ぎたのがマズかったのだろう。
「それもそうだね」
天守閣もちゃんと作ってある。本家の江戸城は火事で燃えた後そのままになっていたはずだが。
「あちら、まだ土のままの所が茶畑になる予定です。下の方、紅葉山の所は庭園の中に神社を作ってありますので、オモイカネ神やウカノミタマ様の許可が貰えれば社から行来可能の予定ですよ。
それとあそこが西の丸、そちらが二の丸となっています。三の丸はあちら、城の周囲は北方に桑畑と水田、それ以外はご自由にどうぞ。眷属も少ないですしあまり必要ないかもしれませんが」
城の外は草原のように見えたが、よく見るとホログラムのようになっていた。
「分かった。ありがとう」
早速補佐に話して移動を開始する。移るのは黒書院の西湖乃間、衝立で仕切り式神に物品を運ばせて、壁に貼っていたものはホワイトボードに貼りなおして持ち込みだ。
「ついでに家も引っ越しますか?」
「ん、んー。……まあ、一度に済ませた方が楽は楽かなー?」
人の家のようで落ち着かないと思っていたが、こう何度も勧められると一度は住んでおくべきかと思う。駄目だったらまたアパートに戻ればいいと、式神移動は楽でいい。自分の部屋の物は移動させ、キッチンなどの眷属と共用の所はまた相談して決めることにする。
「なるほどなー」
征也が使うと指定されていた部屋以外はそれなりに調度が整っている。
天司に頼んで他の部屋を見せて貰い、武家屋敷の参考にする。やはり紙の資料や知識としてではなく実物を見るとイメージが湧いてきて面白い。作るべきイメージが具体化して俄然やる気が出てきた。
「こんな感じで……」
数日にわたって細部まで確認し、武家屋敷に再現する。
「こんなに興味を示されるとは思いませんでしたよ」
とは征也が没頭しているうちに後期試験が終わって戻って来た休日の天司の言葉だ。
元々畳の部屋だったところをフローリングにしてダイニングとして使い、今は6人で食事をとっている。本当は式神が作ったお昼を天司と征也と2人で食べる所だったが、銀が気付き、右近と左近が気付き、春仁が追って来て6人で食べている。
「天司君が料理下手だったとは……」
征也と眷属は普通に料理ができて普通の味だが、天司は式を作れば料亭並みの見た目と味なのに自分で作ると壊滅的だった。理由は不明、きちんと本の通りに作っているのはみんな見ているのに……。
「出張したい?」
「色々と庭園の実物を見てみたいので」
俄然やる気の出た征也は補佐に許可を得て庭園として有名どころを見て回り、目を付けた庭園を毎日通って見続け見比べて作成中の日本庭園を進めた。後半毎日通っていたので何しに来たんだろうとか思われていただろう。
そんなこんなで3月に入る頃には何とか、日本庭園春エリアを完成するに至った。




