その、六十一 振り回されて、やっと通常通り
「津田君、土地はまだ残っているのかしら?」
「ん? 土地……? えっと、旅館の方ですか? 狐さんの方ですか?」
征也が庭園資料と植物の配置図とにらめっこしながら悩んでいる所に補佐が訪れた。年末年始を祭事で振り回され(と言っても本殿の中に座っていただけだが)、ウカノミタマ様とお狐さん達御一行を迎えてダンジョンについて話したり、挨拶回りでオロオロしてみたりして、ようやく月末になって通常通りの活動になったのだ。特に挨拶回りは辛かった。
「狐さんの方よ、ちょっと問題になっているのよね。年明けてシェルターを少し使った官僚がそんな場所を隠し持っているのはズルいって話が広まってしまって……」
「はぁ?」
「だからね? 他の省庁も都内から直通で広い土地が欲しいんですって。揉める前に提供できる容量を聞いておこうかとね」
「……省庁?」
「ええ、今言って来ているのは霊珠関連で関わった経済産業省とか、外交に関わる要人の避難所が欲しい外務省とか……」
「多分無理です」
省庁の名前からして無理そうだ。
「あら、どうして?」
「忘れてるかもしれませんが、俺、浄化と生命系の神です。それが基本です。警察に手を貸せるのは市民の命を守るという役割があるからで、他の所に無条件では無理です」
「あら? 実は無制限に力を貸していたのではないのね?」
意外そうに補佐が眉を上げる。
「……省庁で考えると厚生労働省位ですか、物凄く広げて農林水産省。……あと、文部科学省の高校生以下くらいなら……多分第二次性徴の終わるくらいのラインが銀の子どもの健やかな成長を見守る、の境目じゃないかと」
うーん、と首を傾げてつらつらと口にする。
「そう、子どもか健康に関する事ね? そう伝えておくわ」
「外務省の避難所は警察のセーフハウスを仲良く使ってください。仕切りを入れれば空間割れるので」
「伝えてはおくけど、多分こっちに知られずに使える場所が欲しかったのよ」
「そうですか?」
「多分ね。
それと話は変わるけど、札師の波川さんがいつ時間が空いているか聞いてきたわよ。依頼していた札は2枚とも書けるって連絡があったわ」
面談が延び延びになっている札師の波川だが、ダンジョンに協力してくれている甥の方に札を預けて書けるかどうかの確認をお願いしていたのだ。狐さん達用の召喚札と進化札だ。
「良かった。こちらはいつでも大丈夫ですけど、可能なら平日が良いですね。松林さんと石川さんはお子さんとお孫さんの保育園の関係で土日は厳しいですし、古井さんなら卒論が終わって平日でも出て来られるそうですから」
使役している松林さんたちも一緒に聞いてほしい。もしかしたら何時頃届けて欲しいとかの要望もあるかもしれないし。
「そうね、召喚札はあまり要らないかと思ったら、本体との縁を強めるために重ねることも強化の要因なんて」
「そこは気づきませんでしたね。レベルカンストに新しく完了札で完全体、ご挨拶に行って枷を外して貰って完成体とか……もう好きにしてくれってレベルですよね。完全に辻本君の思い付きとノリだけで作ったものでしたし」
ウカノミタマ様に来て貰ってそこの辺りも教えて貰ったのだ。知らないまま進化完了カンストで終了していたら地下鉄エリアの下に降りられない所だった。
「他の神々も少し興味を持ち始めているみたいだし、次はネズミかカラスか蛇か……。津田君はどんな神使が来たら良いと思うの?」
「人に化けられるなら何でも……ああでも、狐さん達が隠して運ぶなら小さいほうが良いですかね? 蛇だと春までは冬眠してそうですし、ネズミだと衛生上事情を知らない人からは嫌がられそうですね。カラスは無難ではありますけどゴミ漁りと勘違いされて追い払われそうで……。
ダンジョン内と狐さんのおうちにいれば大丈夫とは思いますけどね」
「狐さん達もほとんど外出せずに通販が多いみたい。
今は落ち着いているけど、外で魔物が出るようなことになったら出動して貰えるように少しは人の町に慣れて貰いたいのよね。少なくとも現場までたどり着ける程度には」
「……神使をしていたはずですから移動は大丈夫なのでは? むしろ耳尻尾とか隠して不審者に間違われないとか、見た目可愛いですからナンパを躱す技術とか……対人刑が少し必要かもしれません。時間のある時に少し町に出るように頼んでおきますね」
「お願いね」
後日、『子どもか健康』と言ったのを『子どもの健康』だと思われて、病院か虐待シェルターなら大丈夫かとか、保育所とかは無理かとか色々と要望を持って来られることになる。




