こぼれ話:里帰り
実家には今年は碌に連絡も取らずずっとバタバタしていたので、年末にようやく連絡して久々に今日の夕方帰ることになっている。
「えーっ! 津田さん実家に1泊もしないんですかー?」
「まあね」
「征さんご実家でゆっくりしてくればいいじゃないですか」
赤井ちゃんの言葉に同意すると天司が寄って来た。
「いやいや、今年は弟が受験だからね。多分家の方もピリピリしてるんじゃないかって思って、挨拶とお年玉だけ渡したらすぐ帰って来るよ。
もしかしたら夕食くらいは食べて帰るかもしれないけど」
「ああ、私も来年はそうなるのかなぁ」
赤井ちゃんは今高校2年生で来年受験だ。
「そうかもね。うちも来年はゆっくりできそうだけど、その次は妹の受験だし」
「津田さんの所って結構年離れていますね」
「うん、弟と10歳、妹と12歳違うから今高校生なんだ。じゃあね、そろそろ行くよ。
あ、赤井ちゃんがいつか教えてくれた手土産のお店が参考になったよ、ありがとう」
お土産をどうしようかと思ったが何軒かお歳暮のお店を教えて貰っていたため、そこから選んで買って来た。
「どういたしまして!」
「行ってらっしゃい」
赤井ちゃんと天司の声に見送られて実家へ帰る。
「ただいまー」
実家には帰って来たが、玄関寒い。だが夕飯が大分出来てきているのか、いい匂いがする。
「おかえりなさい」
約1年ぶりに逢う母が出迎えてくれた。
「おお帰って来たか、こたつ入るか?」
父も仕事納めをして帰って来ていたようだ。
「入る、寒かったー」
「そうだろう、入んなさい」
「夕飯食べて行くでしょう? 今年は統也が受験だから外に食べには行けないけど」
「いいよ、少しでも勉強したいだろうし」
両親が揃って部屋の方に視線を向けたので今も自室で勉強しているのだろう。
「あ、兄さん帰って来てる!」
「おかえりなさーい」
玄関の音を聞いただろう妹たちが部屋から出てきた。
「ただいま、お土産あるよ」
「はーい」
双子の姉である翠が受取り
「ありがとう! 何だろう?」
双子の妹の渚が礼を言って横から覗き込む。
「あ! 焼き菓子の詰め合わせだ!」
「夕飯食べてからにしなさい」
「「はーい」」
うちは全員甘党なのでちょっと高級なお菓子を買っておけば間違いない。
「夕飯何?」
「豚の生姜焼きと昨日の残りの筑前煮。お兄ちゃん呼んでおいで」
「はーい」
ドアに近いほうの渚が呼びに行った。征也は兄さん、統也はお兄ちゃんと使い分けられているのだ。
「翠は手伝って、ほらお父さんと征也もこっち来て」
とダイニングの方へ誘導される。既にほとんど出来上がっており、味噌汁とご飯だけお盆に翠が持ってくる。
「あ、兄さん帰って来たんだ。お帰り」
真面目な優等生の統也は家でもキッチリした格好をしている。
「ただいま」
「じゃ、いただきまーす」
「「「「いただきます」」」」
渚の声で一斉に食べ始めた。久々の外食でもない自分の料理でもない味だ。眷属にも作って貰っているが、最初に食べたのが征也の味だったからか、眷属の味はほとんど征也と変わらない味付けだ。
「征也、仕事はどうだ?」
「結構大変、慣れたら次、慣れたら次って感じで追加される」
「そうか、忙しくてもちゃんと食べろよ」
「はーい。でも寮だからご飯あるんだよね」
「それは良かった」
父と母は一人暮らしの息子の食生活が気になるようだ。
粗方食べてしまってから
「統也の志望校はこっち?」
「東京が第一志望と第二志望。多分大丈夫」
と訊いた。リビングに戻ってみんなでこたつに入る。
「そうか、なら私立と国公立と2回上京して受験するんだよね?」
「そうだけど?」
何を言っているのかと不審そうな統也に征也は持ち帰ったカバンを漁って
「ちょっと早いけどお年玉。これは君が使う用のお年玉、のつもり。
こっちは受験料だの交通費だので色々必要だろう費用、のつもり。母さんに渡しておくから」
使う用のポチ袋は本人に渡し、もう一つの封筒は母に渡す。
「ありがとう、あ、去年よりちょっと増えてる」
中身を確認し、ちょっと不審に思ってバツが悪いのか照れたように小さく笑う。母も封筒の中身を確認して
「あんた大丈夫なの?」
「ん? それは大丈夫、絶賛稼いでるから。上京1回分しか入ってないけど」
困惑している。それもそうだろう、フリーターで生活厳しいかと思っていたはずが、東京までの往復費用と同じくらいの金額を予想外に渡して来たのだから。実際は今年だけで一生遊んで暮らせる以上の収入が入って来ている。税金を払っても全く余裕だ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
礼を言って統也は自室へ戻って行った。
「と、翠と渚もお年玉。
今年は正月から仕事だからまたしばらく帰って来られないから先に」
「「ありがとう」」
正月には元旦の神事があるのだ。今年は初めてなので勝手に抜けるのもマズい。妹たちはいそいそと中身を確認する。
「正月から仕事なのか?」
「年中無休で開けてるからね」
ダンジョンの営業は年末年始なしだ。
「それと、ついでにこれ。化粧水代わりに使うといいよ」
神社に沸いているお湯をスプレーに詰めたものだ。普段は足湯に流れているが美人の湯でもあるので、ニキビや敏感肌にも結構効くのだ。
「なにこれ?」
「化粧水?」
「美人の湯。肌の状態を整えて安定させるやつ。夜寝る前に付けると効果的」
「へー」
「試供品? 試作品?」
何のラベルもないスプレーボトルに母が眉を顰める。
「美人の湯っていう温泉のお湯。神社に沸いているんだけどみんなボトルに詰めて持って帰って使っているって」
「温泉……」
母も温泉のお湯ならまあいいか、と許した。
「それってパワースポットってやつだよね!」
「面白そう」
妹たちは乗り気だ。
「さ、夕飯も食べたし、帰るよ」
「送ろう、どこまでだ?」
「駅まで送ってくれたらいいよ」
口下手な父と口下手な征也は車の中で無言のまま進み。
「じゃあ」
「じゃあ」
と言って別れた。
10日ほど経って妹たちから
『あのスプレーの温泉どこ?』
と連絡が来た。どうやら予想外に効き目があって友人たちからも聞かれたと言う。




