その、六十 師も走る程忙しいから師走だよね
年の瀬までは寒いエリアの配置・育成の調節をしようと辻本君と話し合った。12月の大祭は二宮の天司君が主役のため我関せずができていい。
キツネコたちは六条院風邸宅を得て、春の町に住み、夏の町が薬作成工場、冬の町が薬草保存と下処理、秋の町を来客用と使い分けているようだ。
「津田君、ウカノミタマ様のことだけど年内に調整が難しいから年明けてからお願いできる?」
「分かりました。決まったら教えてください」
どうせ日付の決まった予定はないのだから。
「それと薬草の本を出版して貰いたいの」
「出版?」
「費用は経費で落ちるわ。薬草の本をきちんと冊子にしてダンジョンに入る人に売る予定でしょう? それを一般向けにも寄贈して実績も作っておこうと思うの」
補佐が資料を見せる。図書館や薬学系の学校・教授などのリストが上がっている。
「はぁ……」
「霊薬は術者でないと作れないけど薬草だけなら一般向けに見せてもいいでしょう? もう入力は住んでるみたいだし」
確かに入力は住んでいるが霊薬の何々の原料になる、と言ったことも書いていたはずだ。
「特別な編集はしていないですし、霊薬のことが入っていたりもしますよ?」
「私の指定した形で入力したのよね?」
「はい」
「だったら大丈夫よ。おかしなところはこちらで編集するわ、津田君は許可だけくれれば」
「はいどうぞ」
「ありがとう。
それでどう? 年内にどこまで終わりそう?」
進捗状況を聞いてきた。
「年内に寒い地域の配置までは終わりそうですけど洋館がまだ。良い資料がなくって」
本来なら邸宅と庭はセットで作るものなのだが、先に庭だけ作って後から邸宅を合わせようとすると難しい。
「あまりそこは急がなくていいわ。どうせここまで来る人は少ないし、霊薬の講座の講師を依頼する方も難航しているから。
どちらかと言えば日本庭園のエリアに早く手を付けて欲しいわ。4月の大祭の時に公開したいし……洋館の方は後回しにして春のエリアだけでも先にしない?」
先程の薬草の本の寄贈相手でも呼ぶのだろうか?
「分かりました。春のエリアからですね」
と言いながら3か月ちょっとで終わるかと不安にもなった。これまでは実用専門だったため美しい光景を見せるためのものではない。温度・湿度調整は必要ないとはいえ、人に見せられるだけの造園能力が必要だ。
上手く配置できるだろうか?
「津田君、悪いけど料理人の式神を作れるかしら? 年明けに大捕り物をするのにしばらく迎賓館の方に詰めるみたいなの。うちの課も年末年始は忙しいから自立型の式を使うにも霊力使うし」
「はーい。安倍さんに買い物の手配を頼めばいいですか?」
「そうね、外注のお弁当もいいけど高くつくし栄養バランスも心配だし、何より外に出る時間がないって抜く人がいるのよね。機密情報もあるから持ってきてもらう訳にもいかないし」
「分かりました、弁当の形が良いですか?」
「ええ、各人の机まで運んでくれるとなお良し。忙しいのだから倒れられても困るわ。詳細は安倍と詰めて頂戴」
「はい」
補佐は戻り征也はメモを持って安倍の元へ。
「津田様、お聞きになられましたか?」
「補佐から調理用式神を希望されました。何人分ですか?」
安倍の所には段ボールが積んである。外装から察するにキッチン用品のようだ。
「ひとまず30人分で直前になればまた増えると思います。その時にはまた連絡いただけるそうです。業者はネット注文でダンジョンの家の方へ配送されます。こちらは今日手配の明日から配達可能ですが、いかがでしょう?」
「式神を作るだけなら1時間もあれば十分です。今日の昼と夜はおにぎりの配布位で明日から始めますか?」
「そうしましょう」
征也は式神づくりに取り掛かり、安倍は必要物品の運び込みを始めた。前日に話が来ていたらしく段ボールの山を運んでいた。
「安倍さーん、終わりましたよ。もう取り掛かりますか?」
征也はマネキン型の式神を3体作成して安倍へ声をかけた。
「お願いします。調理器具は入れてありますので」
現在時刻10時半、安倍の机の後ろに積み上げてあった段ボールは綺麗になくなっている。
「それと迎賓館の中って自販機とか何もなかったですよね? キーパーにお茶とか必要ですか? いつぞやレジャー用品の福引で当たった奴がありますけど」
「ではそれもお願いします。それと弁当箱は洗って使う物にしてあります」
「はい。じゃあお願いね」
マネキンたちはスチャッと片手を上げるとキッチンへ向かった。征也はキーパーを探すべく給湯室へと向かう。連日植物の配置図とにらめっこしている征也には息抜き扱いだ。
洋館エリアの洋館を探すのを後にして日本庭園の作成に入っている。造園技術と知識を収集して配置に悩む日々だ。
「どこにやったかなー」
キーパーを棚の中から探し出し脚立を降りると
「津田様?」
後ろから声がかかった。
「あれ? 松林さん、こちらへ何かありましたか?」
松林が丁度給湯室の前を通りかかったところだった。
「第一ダンジョンを6階まで攻略が終わりましたと坂本補佐へご報告に。この先は第二ダンジョンへ進めばいいのでしょうか?」
「そうですね。今狐さん達の尻尾は何本ですか?」
「ほとんど4本ですね、まだ3本の者もおります」
「行ける所まで行っていいけど、第二ダンジョンになったら一気に魔物の強さが上がるので気を付けてください」
「はい。他の方々からも8ctから12ctの集団に一気に上がると聞いております。十分気を付けます」
「お願いします。あ、報告は補佐の方へ」
「ええ、では失礼いたします」
松林さんは補佐の部屋へと行き、征也はキーパーにお茶を作って迎賓館の作業場へと向かった。
「征さんは軽く手を貸しすぎですよ」
天司が会議室へ戻って来て調理用式神を提供したことに文句を言う。和カフェから食材を借りての本日お昼の弁当は、ゆかり・わかめ・塩の3色俵おむすびに紅白なますと卵焼き、蒸しブロッコリーである。通達されていたとはいえ、マネキンたちが配布して回る時はギョッとされていた。そして征也の分も何故か届けられた。
「天司君お昼食べた? これ食べる?」
「征さんのお昼は?」
「うちはみんなお弁当だから。朝言われて作った式だからもう持ってきてたんだ。自分の分ここあるから」
津田家で食事の準備は征也と銀、右近・左近の当番制である。
「そうですか、では有り難くいただきます」
天司は大学が冬休みに入るため霊課の業務を忙しく片付けている。小学生の銀と大学生の右近、専門学校生の左近も冬休みに入っており、ダンジョンの方を手伝ったり神社の茶道体験の手伝いをしたりしている。




