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ダンジョンシステム整備士、津田征也  作者: 氷理
第二部:管理・整備が始まるよ
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その、五十四 和カフェの担当者たち






 10月に入り、少し時間的に余裕が出てきた。

「軽く食べたいと言う人としっかり食べたい人がいるでしょうから、副菜をつけるかを選択制にしたらどうでしょうかという案が出ています。あと、ご飯のお替り自由と味噌汁を具沢山にして大盛にするパターンも」

安倍が要望と今度雇う料理人の意見を持ってきてすり合わせだ。

「ああ、それも良いですね。

ご飯と味噌汁だけの場合とそれにプラスで好きな副菜を取るやつか。何なら昼まで伸ばして14時くらいにオーダーストップで、その後はカフェタイム、とか」

好きなおかずを取る定食屋があったなぁ、と思い返す。

「いえ、副菜は3種類セットになるように作るようです。昼まであると大分安心ですね、時間は他の店と被りますが屍のようになって出てくる術者の方は楽でしょうし」

「あー、確かに。時々屍みたいになって受付のホールにぐったりしてる術者さんがいる。仮眠室のある2階までも上がれないくらいになってるの、見かける」

ゾンビのようになっているホールの術者たちは大体が朝始発出来て、午後に休息を取った後で朝に受付に頼んでいた弁当を食べてから帰っていく。そりゃ、睡眠はしっかり家でとりたいのだろう。慣れた場所の方が安心して休めるだろうし。

「厨房は2人ずつ4人を交代で回す予定で、その中の1人が副店長に指名されています。栄養士の資格もお持ちだそうですし、基本的には和食で量も多く胃に優しい献立をお願いしています」

「副店長って喫茶店経験者?」

「いえ、以前は食堂に勤務していた厨房担当だったそうです。雇い主が高齢になって体力的に無理だとして食堂を閉めたので、新しい仕事を探していたとこちらへ」

「ああ、そういう事もあるのか。

 なら、えっと、定食がご飯と味噌汁・香物、それに味噌汁大盛とご飯お替り自由、副菜追加の3種類で進める方向ですか?」

指を折って確認する。

「はい、そのようにする予定です」

ここは決まったと安倍が手元のボードにチェックを入れる。

「と? 店長は?」

安倍はぺらりと手元の紙をめくる。

「店長は主に飲み物担当ですね。元はバリスタ……でしたが、どういう訳か日本茶にこだわるようになってこちらへ。珈琲以外にも日本茶も紅茶も一通り講座を修めています」

「……出す飲み物をきちんと知っているってのはいいことなんじゃないかな?」

見境なさ過ぎの様な気もしないでもないが。

「そう思いましょう。

 飲み物は抹茶・ほうじ茶・紅茶・珈琲を主に、珈琲と紅茶はデカフェを入れます。他に抹茶ラテ・ほうじ茶ラテ・ロイヤルミルクティー・カフェラテを入れるそうです。

まあ、やたら材料が増えないからまだ良しとしましょう」

「ああ、牛乳が増える程度ですかね。そこは特別こだわって原価がやたら高くなりすぎなければ」

「大丈夫です、キッチリ申し渡してありますので」

何やらこだわって際限なく増やしそうな気配でもあったのだろうか。安倍の虹彩が不穏に光ったが、背筋に悪寒が走ったので見なかったことにして次へ。

「……あとは……、甘味か」

「抹茶寒天に黒蜜をかけたもの、きなこもち、パウンドケーキが抹茶・ほうじ茶・プレーンの3種類。合計5種類ですね。

焼き菓子のみ元パティシエの方をパートで雇うことになっています」

「大丈夫なの? パートで」

「幸い数が多くありませんからね。和風甘味の方は厨房で作ってもらいますし、今の所パウンドケーキ3種類だけですので」

知らない所で和風甘味は上生菓子を卸してもらう和菓子屋さんにレシピを考えて貰って、厨房で作ることになっていた。きなこもちの餅は餅屋に頼むそうだ。

「その人はフルタイムの仕事にはいかないの?」

「はい、出産で退職されて今年下のお子さんが小学校へ入ったのを機にパティシエに復帰されましたが、フルタイムで働こうとして体力的・子育てに厳しかったようで8月に退職されました。

 上生菓子は外注で甘味は厨房で十分ですし、少し働いているので感も戻ってきているでしょうからパートでも大丈夫かと。幸い、パウンドケーキは数日寝かせた方が美味しいようですので、時間内に作って貰えばあとは保存して切って盛り付けるだけなら厨房の方で十分です」

「ああ、子育ても体力勝負ですけどずっと立ち仕事にいきなりの復帰はきつかったでしょうね。

 体力が戻って来たら、そのうち何時か、和菓子みたいに毎月じゃなくても季節の洋菓子とか作って貰えたらいいですね」

子育ては体力も精神力も削ると聞くが、ずっと立ち仕事も追加じゃつらかっただろう。それに、仕事を始めても子育てはあるし、学校から帰ったら子どもの相手もして家事もするだろうからご婦人は大変だ。夫の支援もどこまであるのか。

「ええ、ぜひ四季の味覚を合わせてもらいたいですね」

「またはアレルギー用とか野菜を使ったヘルシーなやつとか?

 あとは……、そのくらいかな?」

「はい。2階で茶道体験は巫女の西尾さんが担当します。

 大体9時から16時まで、1時間ごとの予約制で空いていれば飛び込みも可能です。西尾さんがいない時はその補佐をしている平田さんと連城唯さんが交替で」

解説付きの茶道体験も行う計画の方もちゃんと進んでいる。

「唯さんがいれば大丈夫ですね。志津さんは今茶事と旅館と大祭で手いっぱいだろうし」

「やはり葉月様の大祭でも?」

志津さんは4月の例大祭の時には大寄せをやる気なので、そのことを気にしているのだろう。

「いえ、特別に何かはしないそうです。

 ただ大祭の時もカフェの方は開けるらしくって、お抹茶だけでも志津さんが手伝うみたいなことを聞いてですね? 治癒の茶事は少し噂になっているから、もしかしたら人数が多いかもしれないと」

「ああ、そういう事でしたか。確かにそれはありそうですね」

何だか都市伝説のように噂が流れているという。ホラーな事態にはならないでほしいが、リアルな参加希望者対決も嫌だ。

 何とか穏便に乗り越えたい。

「津田様は最近顔色が優れないようですが、大丈夫だとおっしゃいますが本当に大丈夫ですか?」

げんなりした内心が顔色に出てしまったのだろう。最近の調子の悪さは鈍い自分でもよく分かっている。

「大丈夫ですよ。ここ数年一人暮らしで来たので、誰かと歩調を合わせながら暮らすのが結構難しいだけですから」

「ああ、眷属の方々が帰っていらっしゃったのでしたね。

 では、マンションでも買ってみますか? 少し一人の時間を持った方がいいかもしれません」

一人の時間から少しずつ一緒の時間に移行していくのか。解決策としては無難な所だろう。

「……アパートを借りるとか」

最近資産があるのは知っているが、マンションをポンッと買うのは胃が痛い。予想外の事態でお金は持っているが感覚までは預金金額に付いて行っていないのだ。

「おすすめはしません。津田様は茶会のこともダンジョンもありますので出来ればセキュリティーのしっかりした場所で、盗聴器などもチェックした方がよろしいかと」

「おおう……」

そういう対策も必要だったか。こっわー。

「もし必要でしたらこちらでお探ししますよ」

「でも私用で使うのは……」

「構いません。失礼ですが、こちらとしましても下手な部屋を探されて他の所に取り込まれるような事態は避けたいのです。ですから」

「お願いします」

即座にお願いした。

「ではご希望の間取りなどはございますでしょうか?」

「……ワンルームか1LDKくらいで何かあれば」

取り敢えず誰も来ない部屋でベッドと仕切りがあればいいと思う、程度にしか考えていない征也に

「そうですね……一人になりたいと言う目的を考えれば2LDKのウォールドアで、誰か来たらそちらに行ってもらう形にした方がいいかもしれません。泊まる時に一緒の部屋はストレスでしょう」

「ウォールドア? って何ですか?」

「ああ、自分で壁を作ったり取り外したりするタイプです。

 普段はリビングに一体化させておいて、急な来客などがあれば仕切りを作って部屋にして使ってください。

 眷属の方は頼んで帰って貰えばいいでしょうが、葉月様は泊まることもあるでしょう。……いえ、最初の1回は安全を確認するために絶対泊まります」

「分かりました、お願いします」

ほぼ丸投げに近いが、その後無難な間取りと一般家庭の買うような金額の3つ4つのマンションを探してもらいその1つと契約した。

 若いのにローンではなく即金だったので変に思われないか内心ビクビクしていたが、担当者は変わらぬ笑顔で手続きを終えてくれた。お金ってあるところにはあるそうだ。



 マンション購入の副産物として、話を聞いた眷属たちがちょっと距離感を保ってくれるようになった。

 とてもありがたい。

 勿論、天司君は泊まりに来たし、一度補佐も確認に来た。

 赤井ちゃんと穴井君には引っ越し(?)祝いに連名で、これからは外に出るだろうからと防犯スプレーをくれた。何故? 茶会か? やっぱり茶会が噂になっているからか?

「そうですね。参加された方の中にはかなり高名な方もいらっしゃったので、そこから流れたと考えれば広まりは早いでしょう。

安全性を考慮すればマンションより神域の方に住んでいただきたいのですが、どうです? 広い場所が苦手なら襖や衝立で仕切ることもできますし」

江戸城仕様の神域は人の家みたいで何となく行き辛い。

「迷子になりそうだよね。トイレや台所に行って帰って来られなくなりそう」

「それは近くに改装して付ければいいですから。

 好きな場所に住んでもらって構いませんが、表は神々の使いが来ることがありますので中奥か大奥にどうぞ」

「そ、そうなんだ」

「ええ、大分整ってきましたしね」

「どんな感じ?」

以前見せて貰った時には城郭と本丸が出来ていた。

「そうですね……今できている本丸・二の丸・西の丸はそのまま再現してあります。

 紅葉山には墓所ではなく庭園を、吹上御庭の方には茶畑を作る予定でいます。城下には田園が広がっているようにしようかと。庭師の方々に今相談して庭園の設計図を作って戴いているところです。

 他に何かありますか?」

「んー、うん。

 何だろう…………衣・食・住、だからどこかにちょっとだけ、衣料品を作るところがあったらいいかなぁ?

 多分、綿は水が一杯ないといけないって聞いたから、ちょっときついかな? でも養蚕は生き物だし……式にまた頼めば何とかなるかなぁ? 麻は、どうだったっけ? うーん?」

いつか隠居の時に住むか他の神に神力を求められて籠城のようになると聞いた。

「そうであれば、養蚕ですね。吹上の方に入れておきましょう」

「うん、ありがとう」

日本で布は絹が最も格が良いとされている。作ることが難しくないのであれば養蚕がいいだろう。

「いつかは神域に住みますので、今の内から少しずつでも慣れておいたほうが良いでしょう。御小座敷当たりなら8畳2間くらいですから最初は住みやすいでしょうし」

「うん」

御小座敷が中奥の将軍の超プライベート空間として使われていた事実を征也は知らない。神域の主神として最も地位の高い立場に置かれようとしていることも。








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