その、四十九 9月の始まりは
「津田さーん」
学校帰りで制服姿の赤井が駆け寄ってくる。忘れていたが、今日は高校生たちの始業式だ。
「赤井ちゃんお帰り」
「ただいまでーす。津田さん、補佐が呼んでいましたよ?」
「え、なんだろ?」
特に心当たりがない。また新しい何かを言われるのだろうか?
「ほら、津田さん狐のRPG始めたんでしょ? 新しい術者さんの候補を探しているそうなんですよ」
「う、うーん、あー、……狐のRPG……まあ、そうかな?」
多分、いや確実に松林の件だろう。
コンコン
「どうぞ」
「失礼します」
「津田君、来たわね」
補佐は手に持っていた書類を渡してきた。
「何でしょう?」
「ウカノミタマ様の協力の元、うまく運営できているみたいね」
書類に目を落とすと、松林からの報告書だった。現在2階を進行中のようだ。
「新しい候補者を見繕ってみたのだけど、どうかしら?」
机の上に置いてあった書類を渡される。どうやら履歴書のようだ。
「神々に好かれる体質なら問題ないかと思います。霊力の量とか技術よりも、……えーっと魂の色? 質? とかが好かれているかが重要なので、履歴書を見せられても…………」
候補者は現時点で7人、どの人も治癒のお茶会の参加を希望している。
「どうやって判断しているの?」
「松林さんの時は不知火さんからのお墨付きが最初にありましたから、そこから辻本君が使役することを考え付いたので判断は必要ありませんでしたし……。
うーん、……必要なのは狐さんを呼べるかどうかなので、召喚の祝詞を上げて呼んでもらって呼べたら合格で採用ってことでどうでしょう?
確か天司君から聞いた話によると使役系はかなり人数少ないらしいので、増えたらいいな、くらいで考えておいた方がいいとか。多かったら先着順で」
「わかったわ。それなら誰の目にも明白だから文句は言えないでしょう。
一人ずつ呼んで試してもらうわ。手順は報告の通りでいいのよね?」
「はい。松林さんはそれで呼んでもらえました。
…………ダンジョンの隣に邸宅を増やしておきますか?」
「お願いするわ。あと何件くらいできそう? 場所も有限でしょう?」
「そうですねぇ。7件は大丈夫ですね。
まだ色々と手探り状態なので少しずつ増えてもらえればいいですよ。今はお茶会と神社の方が慌ただしいのでこっちは急ぎませんし」
「そうね。明日の会議で最終的に大丈夫って判断されれば治癒の茶事の運用が正式に始まるし、神社が開くのも13日だったわね。
そうそう、来月は初めての出雲での神測りの儀に参加するのでしょう?
今月は忙しいわねぇ」
「そうなんですよ。出雲ではいるだけでいいって言われているんですけど……。
恰好だけでもちゃんとしたものをって衣冠束帯を揃えて貰っていますし、現代人だからスーツも着るって今日は後でテーラーさんに調整に来てもらうんです。あと、着付けの練習もしないといけないし、ちょっと目が回りそうです」
「こんなところでしょうか?」
「これで行きましょう」
ようやく治癒の茶事の進行が決定した。
これを料理長他関係者に配って手配すれば今日の所は終わりだ。
ぽぽぽんっ
「さて! 例大祭について話し合いましょう!!」
キエートがハイテンションに登場した。
「は?」
「ああ」
「あらあら」
「まあまあ」
「突然ねぇ」
会議室に集っていた面々はそれぞれに反応した。
「ごめん、キエート。後にできない?」
これを配って時間調整を行えば終わりなのだが。
「できませんよ! 神社ももうすぐ完成ですし、多くの神社で例大祭は9月! つまり今月ですよ!」
9月に例大祭が多いのは事実だが、まだ完成していないのだし。
「キエート、例大祭は4月にしてはどうですか? 神として生まれたのは4月ですし、9月は茶会の正式運用が開始されるので大祭を行うことでどうでしょう」
例大祭はその神社で最も大きなお祭りであり、由緒によっては秋の大祭以外に設けているところもある。天司のいうのはそういう事だろう。
「成程。神となった4月の11日ですか。…………ほかにご希望の祭日はおありですか?」
キエートも前例を思い浮かべたのか同意してくれた。
「そうねぇ。ダンジョンの開始日と茶会の開始日かしら?」
「ええ、それは祭日になりえますね」
補佐の言葉に志津が同意する。
「……天司君のお祭りの日は?」
「ありませんよ?」
「じゃあ、天司君の誕生日でも入れとく?」
「やめてくださいよっ! 誕生日が広く知られるのは術者として最悪です! 誕生日は術者の性質に深くかかわるものです。絶対にやめてください、ね?」
完全に目が座っている。コクコクと頷くしかなかった。
「…………他に、何かないの? …………天司君が、霊課に入った時、とか?」
「ああっ! それがいいですね!」
ボソボソと言う征也にキエートが明るく返してくれる。
「それなら構いませんよ。確か12月の……何日でしたっけ?」
今度は天司も同意してくれる。
「私の方で確認しておくわ」
補佐が調べてくれるそうだ。
「では、まとめますね。例大祭は4月11日、大祭は一宮の津田様が7月と9月、二宮の葉月様が12月。月次祭はどうしましょう、10日でよろしいですか?」
「ええ、それでいいでしょう。征さんもそれで構いませんか?」
「うん。あ、銀達は?」
「それは追々考えましょう。まだ研修も残っていますし」
「わかった」
銀達は出雲から帰ってきたらまた研修に行く予定だ。
「後は元旦に祈年祭、くらいで行きましょうか。まだできたばかりですし」
「はい、ではそのように報告しておきます」
神社の方は銀達も忙しく手伝いながら今急ピッチで仕上げが進んでいる。13日に神事が行われ、午後から一般に公開される予定になっている。
「…………神社って誰か常駐するようになってるの?」
「一応神主1人は必ず常駐してもらうことになっています。あとは交代で巫女が入ります。それなりに広いですし、非常勤で時々応援にも来てもらう予定です。何かありますか?」
ふと思い出したように尋ねる。
「あーうん、ほら、ダンジョンは一般の人が入れないってわかるけど、お茶会の方は一般人は入れないのは何でってなるでしょ? お祭りがあるなら尚更。普通のお抹茶を飲めるように社務所で受付……って無理かなぁ? って思って……」
「「「ああ」」」
皆思い当たったようだ。
「唯さんは茶会の予定以外はそんなに忙しくないでしょう? 卒論もほとんど完成していると聞いているので、時間のある時に神社の方で指導して貰えばどうでしょう?」
天司の提案に
「確かに……9月の大祭の時には野点をすることも視野に入れてもいいかもしれませんねぇ」
と補佐が話す。
「今年は無理ですから来年からですね」
唯さんも乗り気だ。
「私も手伝いますよ」
「志津さんは治癒のお茶会と旅館の方に集中してください。ただ、来年の4月と9月の大祭に関しては相談させてもらっていいでしょうか?」
征也は慌ててそこまでしなくていいと言うが、結局のところ大祭の相談はした方がいいと思い当たりしょげるのであった。
「大丈夫よ」
「すみません、志津さんには次々にいろいろと頼んでしまって」
最初は治癒の茶会だけだったのになぜか茶会ができる旅館まで作ることになっている。
確かに霊課の広間でずっとするわけにもいかないが、志津さんとその兄弟弟子さんには現在旅館の茶室設計まで考えてもらって建築業者と打ち合わせをお願いしている。
「いいのよ。頼ってもらえるのは嬉しいわ」




