その、四十八 愚痴仲間を手に入れた!
「こんにちは」
会議室に入ってきたのはまだ見たことのない青年だった。
「霊課で松本の相方をしています坂宮と言います。津田さん、ですよね? 今お時間取っていただいてよろしいでしょうか?」
「はい」
相方という割には見たことがない。人のよさそうな雰囲気で優しそうな困った笑い方をしている。
「ダンジョンの最下層を使わせていただきたいのです。松本には内緒で」
「?」
征也はきょとんとしたが、天司は呆れた目を坂宮に向けた。
「征さん、松本は坂宮に過保護なんです。一人で魔物討伐何てとんでもないと言うくらいには」
「そうなんですよ。自分の力量位は見極めておきたいんですが、あいつ自分が守るからって……そういう事じゃないんです!」
力一杯天司の補足に同意する。
……完全に目が座っている。相当鬱憤が溜まっていそうだ。
「う、うん。じゃあ、今から行く?」
「はい!」
会議室から最下層へ入る。
「じゃあ、4ctから0.5ずつ3回で上がるよ。準備は良い?」
「はい、いつでも」
「はいスタート!」
坂宮の持つのは刀の柄だ。開始とともに霊力の刃が生える。
短刀・太刀と自在に長さを変えながら戦っていく。
「……っ、……はっ!」
赤井や穴井よりも速い速度で討伐していく。多分、彼らより強い。
「…………っ」
表情が変わってきたのは30ctを超えたあたり。
「はっ」
35ctを超えると苦戦し、37ctを超えると必死さが伝わってくる。
「すみません、止めてください」
「はーい」
ザクッ
最後の魔物を倒すと大きく呼吸をしながら座り込んだ。
「きっつ……」
「39ct1戦目で終了です。上に上がったら水ありますよ。落ち着いたら戻りましょう」
坂宮の息が整ったところで会議室へ戻り、備え付けの冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して渡した。
「赤井ちゃんが27か8で穴井君が32だっけ? 一人でも結構やっていけると思うけど……なんでそんなに過保護なの? ダンジョンの試運転の時にもいなかったよね?」
赤井と穴井は組んでいるけれど単独での仕事もそれなりにこなしているはずだ。2人よりも強いので十分戦えるはずなんだが? 実践に弱いとか?
「あー、試運転の時にいなかったのは実家とちょっと揉めたからですかねぇ?」
「坂宮の実家は不知火なんですよ。だから松本が出したがらなかったんです」
天司の言葉に不知火を思い浮かべた。性格や雰囲気は全然似ていないと思うが、口元はなんとなく似ているかもしれない。
「不知火さんと親戚?」
「一応妹ですよ。あそこは女系の一族で姉が神に仕えて妹が家を継ぐんです。それで男はすぐ養子に出されるんで記憶ないですけど。妹の方が亡くなった時に跡継ぎに困って俺を連れ戻そうとして松本が……」
「ああ、連れ戻されないように会わなかったの」
「いえ、そこは解決しました。ただ、松本には不知火アレルギーが残ってしまって……」
解決したの? と天司に目を向けると
「松本が神前の誓約で坂宮の伴侶になると誓いを立てました」
といつもより数段低い声でつぶやいた。遠い目をした天司よりさらに遠い目をしている坂宮は
「俺、松本以外と交わったら血族全員が発狂した上に子孫死ぬって誓約になっていましてね? いつの間にか。ホント、あいつ何考えているんでしょうね?」
腹の中が空になるような深~いため息をついてくれた。
「きっとそれだけ貞操の危機だったんでしょう。不知火家が認めた女が送り込まれてくる所だったらしいですし」
「はぁ……」
がちゃ
「失礼します。リョーセーいますか?」
「ここにいるぞ」
入ってきたのは松本だった。
「リョーセー?」
「俺、坂宮涼成って言います。音読みでリョーセーって呼ばれています。松本は秋生なのでシューセーって呼んでます」
「ああ」
仲良しだなぁ。
松本はすぐに坂宮の隣に陣取った。
「松本君、坂宮君は39ctまで一人で行けたよ? そんなに心配しなくって大丈夫じゃない?」
内緒と言われたが口に出てしまった。
「ちょ…………」
「戦闘能力は認めますよ。問題はお人好しで押しに弱い所です!」
「はぁ」
「人に言われて断れなかったり、丸め込まれたり、大雑把な所があって契約を細部まで詰めていなかったり! とにかく、そういうところが心配なんです」
力一杯力説してくれる。
坂宮だけでなく身に覚えのありすぎる征也も大ダメージを受けた。
「さて、坂宮も受けたなら俺もダンジョンでどこまでいけるか試してみても?」
「どうぞ」
松本は結局45ctまで進み、途中で呼び出しが入ったため終了した。平気な顔して仕事に戻ったので、限界値はまだ見えない。
坂宮は第二ダンジョンの設計が進み、不知火が相談相手から降りたことで征也と交流できるようになった。
「確かに俺、頭良くないけど事後承諾は止めてほしいよね」
「あ、わかります! こうなったからねって、決まってから言われても困るんですよね!」
「そうそう、その前に行ってほしいよねっ! 言われた通りにするとしても心の準備は必要だしっ!」
「大切なことなら尚更ですよねっ!」
こうして征也は愚痴仲間を手に入れた。




