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ダンジョンシステム整備士、津田征也  作者: 氷理
第二部:管理・整備が始まるよ
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その、四十六 使役を始めてみましょう






「失敗したよね、大失敗だよ」

「何がですか?」

辻本と廊下を会議室へ戻りながら話す。

「ダンジョンに外部の人を入れたこと。最初から最後まで自前でやるべきだったのに討伐する人を外から入れたこと。

黄泉だって王庁だって外に被害が出たらそっちを優先するでしょ?

ダンジョンは他の人の手を借りずに自動で動くようにしなきゃいけなかったんだよ」

「あー、確かにそうですけどね」

「これでダンジョンを本業とする人を確保することになると、松林さんはお茶会費用の返済が終わるまではお給金いらないけど返済したらいるでしょ? 松林さんだけで浄化足りなくって追加で誰か雇うなら別にお給料が必要になるよね?

そうなると入場料じゃなくて霊珠を売って収入を得るべきだったような気がする」

霊課は電力源として霊珠を使っているし何かで売れないだろうか?

なんとも言いようがなく曖昧に笑う辻本が会議室のドアを開ける。

そこには昨日の今日でやってきた松林がいた。



「神使たちには分霊を作ってもらって分霊箱に入れてもらっています。

お米とお神酒、塩を供えてヒトガタを奉り、その縁で分霊を引っ張る感覚で実体化をしてください。

ああ、実体化に必要な霊力は最初にヒトガタに吹き込んでありますから、大量の霊力を取られて倒れたりはしません。安心してください」

松林の霊力はあまり強くないため下手をすると倒れる可能性がある。

「尻尾が増えるにつれて使役者の霊力になじんでいきますから自分の式神として扱ってください。尻尾は最初1本ですがだんだん増えて地狐さんは7本、気狐さんは8本になって上限です。2本になるころには完全に使役者の式神になるはずです」

最初に挨拶に来てくれたのは地狐さん3匹と気狐さん1匹だ。この4匹の狐さんたちが分化して26種類の分霊の狐さんたちになるのだ。うまく運用できるようであればもっと上位の狐さんたちも参加してくるし、狐だけでなく他の神々の神使たちも参加する予定になっている。

会議室の後方に祭壇を設置して供物を並べヒトガタを置く。

「祝詞はこれです。呼びかけるように読んでみてください」

ウカノミタマ様とオモイカネ様に添削してもらっているので祝詞はこれで大丈夫なはずだ。

「はい」

松林が祝詞を唱える。


ぽぽぽんっ


ポップコーンのはじけるような軽快な音が上がり

「……地狐、楓だ。よろしく」

狐耳シッポのついた中学生くらいの少年が姿を現す。

薄茶色の腰まである髪に鮮やかな緑の瞳の美少年だ。……髪の色はアカギツネの色だろう。

「おおっ! 神使召喚に成功したみたいですね!」

「召喚いたしました松林、と申します。楓様、邪気の魔物討伐にご協力お願い申し上げます」

キエートと辻本が興奮し、松林は丁寧に頭を下げた。

「ああ、役目はわかっているよ。よろしく頼むよ使役者殿。それと君が招いたのだから敬語はいらないよ。楽に話してくれ」

「はい、……わかったわ。よろしくね」

どうやら相性は良さそうだ。

「松林さん、楓さん、挨拶は終わったかな?」

「はい」

「津田様、今回はお声掛けいただきありがとうございます」

深々と頭を下げられて征也は居心地が悪い。

「あ、そんなにかしこまらなくていいから、ね?」

「はい」

「次、いきますね。

ダンジョンの外枠の空間に家を作ってあるから、そこで神使達は生活してもらう形にしようと思います。松林さんはそっちに通勤って形をとるのはどうでしょう?

外で耳と尻尾出したままだと微妙な眼で見られそうだし、ずっとしまっておくのも大変でしょう?」

「はい、お気遣いありがとうございます」

「助かります」

後で聞いたところ、松林は神使達を住まわせる場所をどうしようかと頭を悩ませていたらしい。

「えーっと、先に家の方へ案内しますか? ダンジョンの方へ行ってみますか? どうします?」

「ダンジョンへ行きましょう。そのために呼ばれたのですし」

楓が即答する。

「では、左の扉から。あ、最初は自分で思うよりもずっと弱くなっているはずですから、慎重に行ってください。あとは……移動はダンジョンの階段でしかできないので、入り口から遠くなるほど帰りを考えて進んでください。松林さんも気を付けてあげてください」

「「はい」」

神妙に二人は揃って頷く。

「行ってまいります」

楓が扉の向こうへ消えたところで征也はモニターの電源を入れる。

「松林さんはこっちで様子を見ましょう」

モニター越しに見る楓はどことなく体の動きがぎこちない。まだヒトガタに霊体が馴染んでいないせいかもしれない。

狐火で戦う楓は2戦目の攻撃で傷を負ったせいか、進退を悩んでいるようだ。

「戻ってください!」

松林がモニターに付属するマイクで声をかけた。裏声がひきつっている。

楓は一瞬渋い顔をしたが横から魔物の気配を感じて撤退した。


「お帰りなさーい」

気楽な声をかけるのはキエートだ。

「楓さん、けがは?」

松林が駆け寄ると

「大丈夫ですよ、大げさな」

と笑うが傷が痛むのか動きが鈍い。見た目は大した怪我でもないが、服で見えない場所に打撲でも負っているのだろう。

「家の方へ行きますよ。治療法を教えます」

右の扉から入ると木造の屋敷の廊下に出た。

「神使の家がどうなっているのかわからなかったから、一応寝殿造りにしてあります。

出入り口は東の対の南側、車宿です。今出たところがダンジョンの入り口です。奥の扉は一般出入り口で普段はダンジョンの家の2階に出ます。

東の対の東側孫庇に治療室を置いています」

治療室と札のかかった部屋へ案内する。

「楓さん、霊珠は取ってきましたか?」

「はい」

室内には魔法陣が2つ並んでおり、白い皿が台の上に置かれていた。

「神使はこの陣に入ってもらって、もう一つの陣に術者が入って霊力を送ることで傷を治せるようになっています。

術者の霊力が残っていないときは、この中に陣が書いてあるお皿に霊珠を入れて術者の代わりに陣の上に置くと同じように傷が治るようになっています」

楓と松林が指定された陣の上に座ると、楓の傷は目に見えて消えていった。

「成程、こうなっているのですね」

「オモイカネ神に相談したらこの陣を勧められたんです。

東の対には治療室が3つとその内側に休憩室が3つ設けてあります。東庇は治療用と覚えてもらえればいいかと。

母屋と南庇は好きに使ってもらって、北庇には潔斎室になっています。場合によってはけがをした際に邪気が酷くて困ることが、もしかしたらあるかもしれないので浄化の陣を入れています」

傷を治しながら二人は征也の説明を聞く。

「北東の対が召喚する儀式用の対になっています。ここは母屋が召喚又は進化を行う場所で、南庇が潔斎室になっています。あ、大分先の話になりますが進化はそれなりに身体が強くなってくると儀式をして段々力の上限を伸ばしていくんです。進化すると大本の狐さんと同じ数まで尻尾が増えます。

寝殿は日常の業務などや資料室などに使ってください。北の対・西の対・北西の対は神使の私室を想定しています。

まあ、陣の書いてあるところ以外は使いやすいように好きに使ってください」

「はい、ありがとうございます」

「あと2匹分、北東の対に呼べるように供物を用意してあります。しばらくは慣れないでしょうし、少しずつ増やしてもらって頑張ってもらえればいいかと思います。

今日は初出陣・初治療で疲れたでしょうし、ゆっくり休んでください。この後は2人で話し合ってダンジョンに入るかは決めてください。家の中を見て回ってもいいですし、ダンジョンの初級アドバイザーのポチに話を聞いてみるのもいいかもしれません」

ざっと説明したところでキエートが

「津田様、まだ使用料のことを話していませんよ」

とフォローしてくれた。

「ああ、そうだった。出陣門から入る分にはダンジョンの入場料は取られません。その分、毎月決められた分の霊珠を納める必要があります。

まあ、今月はもう日にちがないからノルマないけど、来月からは納めてもらいます。

内容は3つです。

1つ目はダンジョン使用料、これは霊課に納付します。

2つ目は神使使用料、これは神使の数によって神様の所へ届けられます。楓さんはウカノミタマ様のところですね。一旦霊課に納めて霊課が振り分けます。

3つ目は邸宅使用料です。これは邸宅を維持するのに必要な物で、北東の対の東庇に専用の台が設置してありますからそこに直接霊珠を入れてください。忘れたら邸宅の空間が消滅する可能性がありますのでご注意ください。

他に何かあったっけ?」

ずっと黙っていた天司の方を振り返る。

神使使用料は今のところはウカノミタマ様だけだが、運用がうまくいけば他の神々からも神使を貸し出してもらう予定だ。その時に報酬の件で揉めると困るので霊課を介している。自分が仕事をすることなく神使の分霊を出すだけで収入になるのだから美味い話らしい。まあ、うまくいけばの話だが。

「使用料は課長補佐から具体的な指示をもらってください。事務担当も教えてもらえるでしょうから借金及び保育園の件もその時に聞くといいでしょう。

ダンジョンのことは初級のポチ、それ以下のタマ、2匹でわからなければコンに聞いてください。何かあれば会議室の方へ声をかけてください。要望や相談なども受け付けます」

質問もなさそうだったのでポチに後は任せて引き上げた。







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