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ダンジョンシステム整備士、津田征也  作者: 氷理
第四章:ダンジョンを増やそう
43/70

その、四十 最終試運転、のち開業





翌朝、9時―

ダンジョンの家には今か今かと50名以上の術者たちが待っていた。

館内放送がダンジョンの家に響く。


ピンポンパンポーン


『皆様おはようございます。本日の説明を開始します。

まず、それぞれカードを受け取っていただき、ご自分の名前を確認してください』

カードの名前を確認してもらい、間違いのないことを見渡す。

『カード右上にある階層まで行けることになっています。前回3階まで入った方は3階まで、それ以外の方々は1回になっていると思います』

すぐに不満が上がる。

「何でだよ」

「前回は最初から入れたじゃないか」

「2回目だとダメなのか?」

と広がる。

『皆様、落ち着いてください。

前回、実力が無くて2階に入った方が亡くなった方がいらしたので変更しました。1階の地図を見てください。2階へ上がるには赤い所にいる階のボスを3体倒して霊珠を受付までお持ちください。3つの確認が取れましたらカードのランクが上がり2階へ上がることができます。

それ以上の階も同様に各階のボスを3体倒していただき受付でカードの更新を受けてください。次の階へ入れます。あ、霊珠に霊力が付きますので他人の霊珠では判定はできません。

現在、6階の8カラットが最高となっています。

地図と注意事項をよくお読みの上、くれぐれも実力を考えて進むか進まないかを決めてください』

既に皆注意事項と地図の確認に夢中になって聴いている様子もないが、一応言っておくのがいいだろう。

『管理用の式として1階~3階には犬のポチが、4階以上には猫のタマがいますので、何かお気づきの点がありましたらどうぞ話しかけてやってください。

では、出発してください』

ダンジョンの扉が開く。

我先にと中へ入って行く。

目指すは階のボス、次の階を踏破し、6階へ行くことだ。

前回4カラットの霊珠で歓声が上がったくらいだ。

ギラギラした目が若干危険なような気がする。


「不知火さんは行かないの?」

ホールに残った不知火に声をかける。

前回の実験で協力してもらったため6階までフリーパスだ。

「この混雑の中で行くのはちょっと……」

「霊珠ってそんなに取れない物なの? なんか目が血走っている人までいるし」

「ああ、滅多に採れない。どんなに探してとれたとしても2カラットが限度、3カラット以上は珍しい上に用途も広がる」

「用途って?」

「2カラットまでなら材料に、それ以上なら中に術式を組み込んで単体でも強力な守り石や護符とする」

「へーなるほど」

「聞かなかったのか? 霊課に」

何故か驚かれた。

「いやー、聞いたんだけどね? それが色つきの霊珠が出た時だったから、こんな小さいので使えるとか思っていなかったって言うか…………・」

感覚の狂っている征也にとって色が透明の霊珠は全て『小さいの』で片付いているのだ。

それを聞いて不知火は呆れた顔になった。

「ああ、人並みの感覚ありませんよね」

と言って

「では行ってきます」

とスタスタ立ち去られてしまった。

「ひどい」

と呟いた征也は少しいじけた。






お昼前、辻本が戻ってきた。

「お帰り、辻本君」

「今戻りました。ダンジョンの方、どうなってます?」

鞄を置いてさっそく尋ねる。

「うん、今3階と4階の行き来をしている人が多いみたい。1階と2階も時点で多いけど。やっぱり1カラットと4カラットの間にもう1階入れるべきだったかな? それとも3階に2カラットとか……」

「でも、行き来はしているんですよね?」

「うん、1・2体狩って戻ってる」

「だったら大丈夫じゃないですか? 階段近くには寄ってこないんですよね、魔物」

「そーだけど、魔物がってより人同士で喧嘩してるの。誰が次行くって揉めてて。そんなに固まるなら4階にも休息所あるからそっちいけばいいのに」

「休息所にたどり着く自信がないんじゃないですか?」

あっさり言う辻本に

「うーん」

としばらく黙りこむ。

結局猫のタマにどうにかするように指示した。

「ああ、辻本君にはこれ見てもらおうと思ってたんだった」

といってダンジョンの設計図を見せた。

「へーなるほど、こんなラインが入っていたんですね。でも、邪気を吸い取る気脈って意外と細いですね?」

「今邪気が酷いから細い所からで十分だよ。ほんとすごいから」

と気脈の状態を見せる。黒い流れがフィルターを取って黄色の流れになる様子が見える。

「凄いですね。こんなに真っ黒になっているんだ……」

フィルターのラインの流れを見ながら最初の鍾乳洞モデルを一緒に考えた。






3連休中は24時間営業で3・4・6階の休息所は夜になってもにぎやかだった。ダンジョンの家の2階の休息所や1階の待合所もだ。

そんな中、坂本補佐に征也たちは呼ばれた。

「津田君、辻本君、今日ダンジョンで何か問題はあったかしら?」

「特に何も」

「4階で喧嘩があったくらいですか?タマが上手いこと散らしてくれたので問題ないと思いますが」

式神の猫であるタマが4階入り口付近にいた者たちを威嚇して追い払ってくれたのだった。以降は2・3階で多くの人が魔物と対戦する方法へと変わった。

「もうこのまま開業していいかしら? 特別変更する点もないのでしょう?」

補佐の言葉に征也が頷くと、その征也を見て辻本と天司も頷く。

「ではではー、開業ですねー。津田様頑張りましたよねー」

とキエートが軽く言う。

「館内放送して来るわね」

と補佐が出ようとするのを征也が止める。

「あ、補佐!第二ダンジョンの事はまだ言わないでください! あれはまだ大まかな設計予定図しか書いてませんから」

「もちろんよ。第二の方は完成したら教えて頂戴」

とダンジョンの家の方へ出て行った。

「それにしても式神の名前が単純だと思いますよ?」

「キエート、それ自覚しているから言わないで」

犬のポチ、猫のタマ、狐のコン、皆分り易くていいじゃないか。


ピンポンパンポーン


『皆様、こんばんは。

霊課よりお知らせいたします。

ダンジョン内は正常に機能していることが確認されたため、本日より試運転から本運転として開業いたします。

もう一度繰り返します、ダンジョンは本日より開業いたします』


ポンピンパンポン


館内放送が聞こえた。

これで本格開業だ・

「津田様、メンテナンスの方はどうなっているのでしょう?」

「ああ、10日に1回くらい激落ちタワシ君6号を入れる予定。管内に邪気が貯まらないように加工したから溜まり難いとは思うけど様子見かな? 目標1か月溜まらない様にしたけど」

ふむふむと聞いている。

「他には?」

「他は式神が問題あると判断した時だけ来ることになっているから、その時解決するよ。死者が出たらコンが霊安室に置きに来て受付の人が対応してくれるから、特に何もなければ年末年始以外はずっと開けていられるよ」

「カード方式かなり役に立ってますね! 入場料とか死亡したときとか! さっすが私!」

キエートが自画自賛している。夕食に出されたハンバーグを征也が残した半分も回収してひとしきり味わった後、

「では本格開業の連絡をオモイカネ神様に入れてきますね」

「ああお願い」

「はーい」

デミグラスソースの付いた唇を拭きキエートが連絡のために席を立つ。

「7月8月終わったら増えるかな、人数」

「どうでしょう? もうとるだけ取ったと減るかもしれません」

征也の呟きに春仁が答える。それもありうる事態だ。

「ですから皆の関心が減る前に第二ダンジョンを……」

「た! 大変ですー!!!」

春仁の言葉をさえぎってキエートが慌てて帰ってきた。

「キエートどうしたの?」

「闇美彦が偽名でダンジョンに入っているとオモイカネ様から言われて帰ってきました!

闇美彦とその配下のモノが力を上げたらダンジョンでいくら消しても邪気が増えます!! 悪循環になるかもしれません!!」

右往左往するキエートなんて始めて見た。

「えーっと、その偽名は判ってるの? 誰が闇美彦とか知らないんだけど」

「はい、春日瑞樹と名乗っています。すぐ回収してください!」

「この場合、館内放送で呼び戻すべき? 言霊で戻って来てくれるかなぁ? 『闇美彦さんとその配下さん、出てきて』。

闇美彦って負の感情の塊なんだよね? もう『闇美彦さんとその配下、現状を幸せに思って!』とか神力込めて言ったら正の感情とか持ってくれないかなぁ?」

と若干神力を込めて駄目もとでも言ってみる。

『『ぐぁああああああっ!』』

何だか苦しそうな悲鳴が聞こえる。何だか黒い靄が一瞬立ち上ったようにも見えた。

「あれ、なんか聞こえた?」

『な、なんということを…………』

若干震えた声が足元から聞こえる。

よく見ると誰かが2人、机の横にうずくまっている。

「もしかして、神力入れた声が聞こえたから? 闇美彦さんとその配下さんですか?」

よくよく見ると、片方はいつぞや闇美彦と名乗った青年のようだ。人の名前と顔を覚えるのは得意ではないためうろ覚えだが、そんな気がする。

しかし、ダンジョン内で邪気を吸収していたにしては前回よりも若干見た感じのカラットが小さくなっているような気がする。しかももう一人の青年の方の推定カラットの方が大きい。

『わ、我に何という言霊を言うのだ! 幸せになど、なれないと言うのに』

もう一人の青年が怨念を吐き出すように呻く。

「あ、うん。幸せになれないから闇美彦さんなんだよね? 負の感情の塊だから」

『このような屈辱、いづれ返してやろう』

『主様、ここは一度ご帰還を』

闇美彦の方がもう一人の青年に対して主様、と呼んでいることからして、どうやらこちらが本物の『闇美彦』らしい。

二人の青年が消えた後、

「そのー、春日瑞樹さんを出禁にしたらいいのかな?」

今さらである。

「津田様ってホント、トンデモな解決方法をしでかしますよね。さっきの言霊で、闇美彦と片腕が大分浄化されてカラットを失っていましたよ。そこにある霊珠の落し物が浄化分です」

とキエートがこめかみを指先で揉みながら青年二人のいた場所にある霊珠を指さした。

パラパラと散っている霊珠は意外と小さいながらも色が薄らついており数は多い。

「そーなんだ。これって恨まれる?」

能天気な声で考え込んでいる征也に

「大丈夫です。恨んでも何か出来るほどの力はないはずですから」

と天司が宥める。

「まあ、そうですね。2000カラットずつ位は弱くなったんじゃないですか?」

キエートが霊珠を回収しながら呆れたように呟いた。




飛んだハプニング? があったものの、これで現世ダンジョンは開業した。

キエートに習いながら闇美彦が出入りできないように結界も貼っておいたから、今の所は問題もないはずである。




ようやく開業までたどりつきました。

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