その、三十八 神徳と神力
6月末、銀たちが帰ってきた。
「お帰り~、元気だった?」
征也はのんびりと彼らを受け入れた。
「はい、長らくお暇を頂いて申し訳ありません」
「いいよ、研修だもん。どうだった?」
リビングに皆座らせて研修の中身を尋ねる。
「日本の神々の事や決まり事、研修等についての助言を頂きました」
「そーなんだ」
うん、と頷いてさらに内容を聞こうとしたが
「私たちはまだ神徳がありませんから、征様に決めていただきたいと思います。よろしいでしょうか?」
と春仁が尋ねた。
「神徳って自分で決めるものじゃなかった?」
征也もそうやって決めたはずだ。
「征様は主ですが、私どもは従神ですから」
「主様に決めてほしいのです」
「「征様に決めてほしいんだ」」
銀が説明し全員が頼む。
「いいの? 納得できないかもよ?」
「それでもご迷惑でなければ決めていただきたいのです」
と春仁が更に言う。何だか詰め寄ってきて怖いかも。
「んー、えーっと、……分かった。
最初は銀? 銀は元々が制服のシャツだから子どもの担当はどう? 妊娠出産から成人まで見守る感じで、健やかな成長を助けてあげてくれるかな?」
「承りました。必ずそのようにします」
深く頷いて銀は子どもの神となる。見た目10歳位なので丁度いいかもしれない。
「できるだけでいいからね?」
一言神徳を暴走させないように言っておかないとどれだけ暴走するかわかったものではない。
「えー、次は右近と左近行こうか。足腰膝の神、又は交通安全の神、どっちがいい? 一人ずつどうかな?」
右近と左近はアイコンタクトで
「俺が足腰膝の神を担当します」と左近が言い、
「俺は交通安全の神を担当します」と右近が言った。
そして最後に春仁の方を向き、
「春仁はスーツのズボンなんだよねぇ……。何にしようか。学業や出世は天司君の領域なんだよねぇ……。
うーん…………。あ、そうだ! 良縁にしよう! 恋愛だけじゃなくって、職場や学校なんかでも良縁を結んで悪縁を切るように。
春仁、こういうのは嫌?」
ズボン全く関係なくなったが。
「いいえ、私のためにありがとうございます。良縁の神、しかと承りました」
春仁はちょっと悩んだが縁の神に落ち着いた。
最近思い付きだけで行動しているような気がする。
「では、私は報告へ行ってまいります」
「私は夕食の準備をします」
銀が報告に行き、春仁が夕食の準備をする。
その間に左近と今までの不在だった時のことを情報交換する。
ただひたすら古参の神々の講義が続いたと言う左近に
「藤野様から毎日絵馬と強い祈りの3つ貰って治してる。
健康に関しては茶道で治してもらうことになって、今準備中かな?
えーっと、ダンジョンについては現世・王庁・黄泉の3カ所あって今は準備中だけど、中身はできているからいつでも試運転できるよ。マニュアルと劇落ちタワシ君6号も作ってあるし、稼働したらすぐ渡せるようになってる」
と現世のことを説明する。
「藤野様の依頼は今後いつまで続けますか?」
「どうして? いつまででもいいと思うのに」
「神社を造れば直接参拝者と交流することが出来ます。今の状態ですと、祈りの約3割を手数料に藤野様に支払っていることになります」
「ああ」
そういうことか。
「藤野様に相談してみるよ。神社が出来て使えるようになってからだから、まだもうしばらくは依頼を受けるだろうし」
給に辞めても神社新しいから参拝客来るか分からないし、と付け加える。
その話を聞いたのは銀たちが帰ってきた翌日の事。
「津田様は書道をなさいましたね? 色紙に神力を込めて書いてほしい言葉があります」
「習っていただけであんまり上手じゃないから、穴井君か天司君辺りに頼んでみたら?」
唯が征也に色紙を渡す。唯がメモにしている手持ちの紙には『美貌とプロポーション美人』と書いてある。一体何がしたいのか?
「津田様だからですわ。赤井様の御顔のそばかすを治したのが最初だったとお聞きしたものですから、是非美容の方も頑張っていただきたいのです」
美容も範囲内だっけ、と征也がすっかり忘れていた唯の言葉をどこから聞いていたのか
「書いてください津田様! こういう所から祈りと神力の交換が始まるのです!」
キエートが出てきてハイテンションに叫ぶ。
「キエート、何って?」
征也は突然のキエートに意味が解らない。
「人に祈ってもらうことと祈りに応えて神力を使う事、この二つが相乗効果で神気を強くするのでーすっ! 津田様は祈りを直接必要としませんが多少は変わってきますし、普通の神々にとってはとても重要なことなのですよっ!」
「ああ、信じる者は救われるってやつ?」
「そーです! 強い祈りは強い力になります! 本当は自分の神社に参拝してもらうのが一番いいのですが、津田様には今お社がありませんし、建設中の場所は人通りが少なすぎます!」
キエートが力強く言い募る。
「いや、そういうのいらないから」
「ダメですよ! こういう事こそ力の元なのですから」
ガラリ
銀と右近が入ってきた。
「お帰り~。
あ、二人はどうしてる?」
高天原で勉強してきた同じ状況の二人に聞いてみる。
「何の話でしょうか?」
かくかくしかじかと説明すると
「私たちは既に小さくとも社がありますから、そこの神鏡からでもできますし、征様同様夢を渡って祈りを叶えて感謝されるたり驚かれたりすることで祈りと神力を交換することもあります。
そう言う意味では征様も交換をしておいでです」
と返って来る。そうだった、従神達の社は既に発注してあり設置していないだけで社が工房にあるんだった。
「唯さん、神社には神鏡を置く予定だけど、その色紙はどうするつもり?」
「神社には進行を失って消滅した神の社が多くあります。その中でも交通の便の良い場所に置きます。
実は神力に生物は敏感なので力を失った神は見過ごすことが出来ても、神力の強い場所であれば心惹かれて参拝してしまうものなのです。
津田様の御力であればパワースポットになることが可能です」
唯が言うことは従神達も知っていた。しかし彼らはキエートが説明したと思い込んでおり、キエートは逆に従神が昨日の時点で説明したと思い込んでいたので、当の征也は知らないままだったのだ。
「あー、そうなんだ。てか、この言葉ってどうなの? ……だからこういうのいらないって言ったよね?」
誰が言い出したのか、この何とも言えない言葉。
自分の社が出来る予定なので、これ以上社はいらない。
唯の視線がスッとキエートに向く。
「人間は顔が美貌でプロポーションが美しいことを望むでしょう?」
何が悪いんだと言わんばかりだ。
「そーなんだけど、ちょっとあんまりじゃない?」
「たとえば?」
「…………」
突然振られても分からない。そもそも考える必要はないのだが。
「では『顔も姿も美しく』などいかがでしょうか?」
銀が出した案に決まった。どうしても逃げられないらしい。
色紙は手すきの分厚い和紙を使っている。これなら数百年持つとキエートは言っていたが、その時にこの字と言葉で黒歴史扱いしてしまうだろう。
そして駅から徒歩5分、バス停から徒歩3分の神社に色紙が納められた。
休眠中だったその神社の神様、ククリ姫(元は五穀豊穣の神様で可愛い系の美少女)が目をさまし美容の神様として活動を手伝ってくれ始めるのはその半年後。美容のパワースポットとして雑誌に取り上げられるのは、1年後。
津田神社が健康と美容に効果があると能力者以外に流れ始めるのはそれからである。




