その、三十四 庶務係の担当者
集団演習は滞りなく終了し、王庁側はひさぎ様に報告して出入り口などを建設する予定だそうだ。黄泉と同じく9月の設置予定である。
「坂本補佐―?」
「なにかしら?」
「現世のダンジョンって今6カラットまでしか作っていませんけど、黄泉と王庁は中堅クラスでも8カラットなんですよ。
上位クラスとは言いませんが、せめて8カラットくらいはあった方が良くないですか?」
現世の能力者は黄泉と王庁に比べてもしかして低いのだろうか? いや、不知火は12カラットで浜岡は13カラットまで行っていたし、赤井は28カラットで穴井は32カラットまで行っていたのでそこまで劣る訳ではないのかもしれないが。
「そうねぇ、上があった方が目標を高く持てるかしら? 訓練もできるし、8カラットの階も作っておいて」
あっさり許可が出た。
ダンジョンの6階に8カラットの階を造っていたら、すっかりお昼を過ぎてしまった。
食堂で遅い昼食をとっていると、松本に話しかけられた。……午後の講義は休講らしい、大学生っていいな。
「津田さん、神社の境内の見取り図が完成したので葉月と見ておいてもらっていいですか?」
「うん、ありがと」
そう言って受け取ると、予想外に大きな神社になっている。
大鳥居をくぐると左手に手水舎があって参道が伸び、授与所がある。授与所で御札やお守りが売られており、その後ろが社務所になっている。
その奥に楼門があり神社を取り囲む回廊が出来ていた。回廊の中に3つの摂社が並んでいる。銀と春仁は一人ずつなのに右近と左近は同じ摂社に祀られている。その奥に拝殿と本殿があり、右が征也で左が天司だと書かれていた。
「どうしてこんな大掛かりになったんだ…………」
溜息をついても手元の見取り図は変わらない。
ちなみに建設費用は木材を征也が提供するため3割引きで引き受けてもらったそうだ。
「木材は7月から基礎工事を始めるそうなのでその頃に卸してくださいとのことです。あと屋根は檜皮葺ではなく木製にするそうです」
きっとここまで大がかりなら木材はもう少し増やしておいた方がいいだろう。現状樹齢500年のヒノキが200本だけしか作っていないのだから。
「それと木材の樹齢はいろいろあった方がいいらしいですよ」
と教えてくれる。
「わかった。ありがとう」
あとは天司に丸投げしようと征也は軽く考えていた。
3つの摂社は工房で作ってから持ってくるそうなので、本殿から着工するのだとか。
「松本君、霊課にはいろいろ手配してくれる人がいるんだったよね? バイトでも頼んで大丈夫なのかな?」
「もちろんです。基本担当が付くんですけど、聞いていませんか?」
「いつもは天司君に頼んでるからあったことないんだ。2階の事務室にいるのは能力者で違うんだよね?」
2カ月近くも霊課にいるくせに会議室と本当に数人しか知らない。
「あー、事務室の向こうが庶務係になっているんです。補佐に担当を聞いてみましょうか?」
「うん、聞いてみる」
松本と補佐の元へ行くと
「ああ、葉月君と同じ安倍が担当になっているわ。葉月君ったらホント、過保護なんだから」
呆れた様子で教えてくれた。
「すみません」
そう言って庶務掛の部屋へ入る。
「安倍さーん」
松本は安倍の顔を知っているようだ。
「こちら津田さん」
「ああ、初お目にかかります、安倍と申します。御挨拶が遅くなり申し訳ありません」
30歳後半くらいの優しげな目元の紳士だった。
「こちらこそ、遅くなりましたけど津田と言います。よろしくお願いします」
「何でもお申し付けください」
優しそうな笑顔の人で安心した。
「津田さん、何か頼みごとがあったんじゃないですか?」
「あ、そうだ。安倍さん、ヒノキの苗木とか頼めますか? 神社の木材にするような」
「はい、以前にも頼まれていましたね?」
全快天司が手配した時に関わったのだろう。
「ええ、今日境内の見取り図を貰ったのですが、予想外に大きかったので足りないと思うんですよ」
征也は安倍に見取り図を見せる。
「前回の5本は200本に複製して大きくしてありますけど、細いのも必要だと言われまして、……えー、どのくらい作れば足りるのか…………」
「葉月様からは1夜で樹齢50年程にすることが出来るとお聞きしましたので、作るのも依頼を受けてその都度で良いのではありませんか?
差し当たって追加で200本もあれば十分かと」
「まあ、確かに2日前くらいに言ってもらえれば作れるかとは思いますけど」
とりあえず5本貰って樹齢100年と50年の木を100本ずつ作ることにした。
「あー、後…………できたらでいいのでお抹茶の苗木と、香木の苗木……は無理かな。日本の樹じゃないし……。とりあえず普通に香木でよさげなのを探してください。苗木じゃなくても何とか育てる方法を捜しますから」
と頼んでみた。この言葉では頼まれる方は意味が解らず苦労するだろうことを征也本人は分っていない。
茶事でお水とお香だけでは効果が弱いかもしれないと抹茶にも神気を混ぜたいと思ったのだった。
「抹茶の品種は何がよろしいでしょうか?」
「品種……」
茶道初心者の征也は抹茶の品種など分からない。抹茶は抹茶と言う品種だと思っていたのだ。
頭を抱えた征也に
「何に使われますか?」
と助け船を出してくれる。征也は病を治すお茶会の予定を話した。
「でしたら赤井様のおばあ様に相談されてはいかがでしょう? 香木の種類も一緒にお尋ねになれば茶事の時に合わせやすいでしょう」
と提案される。
やはりあの楚々とした女傑に会わなければならないのか。怖いんだよなぁ。
「そうですね。赤井さんに時間があれば色々と相談してみます」
絶対怒られるから赤井ちゃんか天司君に同行してもらおう、と考えながら返事をする。
「あ、そうだ。ダンジョンの家は立派に立てていただいて、あれも手配していただいたんですよね? ありがとうございました」
天司が手配したと言うあれも本当は安倍が実際には動いてくれたのだろう。
「いえいえ、どういたしまして。お気に召されたのなら何よりでございます」
多分神社を作成する手配も取り仕切っているのではないかと思う。
家が終わってホッとしていただろうに、次々にごめんなさいと言いたかった。
午後は黄泉用のダンジョンを確認して作成していた。9月設置の時は繋ぐだけにしておくためである。
ある程度区切りのいいところで一息ついたとき、
「征さん、神社の設計図はこれで良かったですか?」
天司が帰ってきた。
「あ、お帰り天司君。多分いいと思うよ? 専門家じゃないから何とも言いようがないけど」
「ではこれで進めますね」
天司も異論はないようだ。
「津田君、いるかしら?」
補佐が入ってきた。
「はい」
「さっき赤井さんに連絡したら月曜日大丈夫ですって。10時に玄関ね」
「え、何ですか?」
「安倍から抹茶の品種と香木の種類を相談したいって聞いたわよ。安倍と川村を付けてあげるからいってらっしゃい」
何か知らないうちに話がどんどん進んでる?!
「すみません、川村さんと言うのは?」
「川村はうちで一番茶道に詳しい庶務の職員よ。赤井さんが1人で決めてしまわないように内からも1人出すわ」
「はい」
もうどうにでもしてくれ。
「じゃ、月曜日にお願いね」
さっさと戻って行く補佐を疲れた表情で見送った。




