その、三十一 お茶会帰りの思い付き
「坂本補佐―」
お茶会の翌日、征也は補佐の元を訪れた。
「あら津田君、少しは考えてくれたのかしら?」
笑っているようで眼光鋭い視線が痛い。怖い、顔が引きつる程怖い。
「昨日、赤井ちゃんのお祖母様が開いたお茶会に行ってきましたが……あれを使ってみたらいいかもしれません」
聴いている方はきっと意味不明だろう、唐突に言い出した。だが、恐怖で頭が回らない。
「どういうこと?」
ちょっとだけ表情が緩んだので、少しだけ緊張が薄らいで言葉を紡ぐことができる。
「ほら、全身の病気を治すのに急激に変化させたら色々と別の場所に影響が出るかもしれませんし大変じゃないですか。正式なお茶会って4時間くらいかけてお食事してお菓子食べてお茶飲んで…………お香も焚いてあったし。
時間をかけて色々な方面から体調を整えるのはどうかと思ったんです」
「それはお茶会で病気を治そうって事かしら?」
分かりにくい征也の言葉を補佐は端的に言い表す。
「はい、上手くいくかは分らないんですけど。料理やお茶・お香に神気を混ぜておいたらいいんじゃないかと思いまして。そしたら俺がその場にいなくてもいいですし、霊課に売るか委託と言う形にしておけば呼んで治す人を課の好きなように選べる、かなぁ? とかなんとか……」
補佐はふんふんと聞いていて
「いいわね、赤井さんに頼めば茶事は自由にできるもの」
と同意してくれた。
「と言っても問題はいろいろなんですけどね」
これに関しては征也一人が考え込んでもどうしても解決は無理だろう。
「たとえば?」
「まず、茶道を習っている人以外お茶会に行ってもサッパリ何をしていいか分からないと思うんですよね」
浜岡も一応レクチャーを受けてはいたが、当日胃を直撃するような鋭い視線で咎められている。何も知らない人なら当然、どう動いていいのか分からないだろう。勝手な真似をされても場を乱しても、あの怖い視線を喰らうことになるだろうし。
「当然ね。仕方ないわ、それについては赤井さんと相談してみましょう」
初心者でもわかり易くて簡単な作法もあるかもしれないし、と呟く。
「あの方、とても厳しいんですよね? ……浜岡君怯えていましたし」
「ええ、昨日浜岡君が作法を間違えて覚えていたみたいで、『霊課たるものが何たること! 随分弛んでいるのではありませんか?』とのお叱りを頂いたわ。
でも一般人ならそこまで厳しくはないと思うわ。実際、普段教えているのは一般人で酷く厳しいと評判ではないから」
やっぱり厳しい人だった。霊課所属ではない初心者ならそこまで求められないとは思うけど…………。どうだろう、大丈夫だろうか?
「次、茶室までそもそも行けない人はどうするか。最初はお茶会に参加できる程度の軽度の人だけにしようと思ったんですが、多少でも効果があると知られたら病院から動けない人とかもねじ込まれる可能性があるでしょう?」
足が悪い人や腰の悪い人、目の不自由な人も茶室を使うのは難しいだろう。あの、躙口なる狭い入口はなかなか通るのに苦労しそうだ。正座も足の悪い人には厳しいはずだ。そんな人にはどうするのだろう?
「あるわね、絶対に。それはこっちで処理するから津田くんは考えなくていいわ」
「はい」
「他には?」
「あと、茶室を借りたら残り香がどうなるか、とか?
料理は昨日料亭に頼んだそうなので、業者の事とか? その料理人もどこまで我侭を聞いてもらえるかわかりませんし」
昨日頼んだのは茶懐石を扱う老舗の料亭だったので、料理人は自分の味にこだわりとか自信とかあるだろうし。
「そうねぇ」
「他にもお茶会の前後でどう変わったのかの検査とか? 今までは夢枕で費用対効果とか表に出なくても特に問題なかったですけど、現実だとそのあたり必要かなぁ、というのもありますよね?」
神様の領域を現代社会に持ち込もうと言う方が無理なのかもしれないが、料金を取る以上これは必要だと思う。
「うんうん」
「誰が実験台になってくれるかとか……。あと他の神様どうしているのかな? とか」
「他の神々はほとんど現世に直接介入はしてこないわ。津田君は神力も神格も十分だから、自由にしていいのよ」
「はぁ、……思いついたのはこの位です」
困ったような笑みで言い切った。
坂本補佐は少し考える様な仕種をしてから、
「具体的にどういう形で神力を注ぐかは考えているの?」
という問いに征也はうーん、と首をかしげて
「お水を御神水みたいにしたらいいんじゃないかと。
最初の待合で出される白湯は身体に効果が浸透しやすくするためのものを出しておいて、お料理のお水は病気に効くようにしておくとか。……他にもお香は神域で成長させた神気を含む香木を使うことにしておいて、抹茶にそそぐお湯も病気に効くお水を使う。
どうでしょう? お水2種類とお香の計3種類で身体を時間いっぱいかけて治すってことで。一気に身体を変えてしまうよりも、後々反動がまだましかな? とか思って」
と考え中の様子。
「なるほど、お水ね。そのくらいなら料理人も頼めば大丈夫でしょうね。お香とお抹茶に注ぐ分は赤井さんがちゃんと考えてくれるでしょうし」
「と言っても本格的に考えるのは9月に新しいダンジョンが完成してからですけどね。俺あんまり頭良くないから同時進行するとこんがらがってしまいますから」
思いついたら話しておくが、真剣によく考えるのは後回しにしておく。
まあ、思い付きなのでそのうち忘れている可能性もあるため、今のうちに補佐に話しておいて恐怖で忘れないようにする予防策でもあったのだが。
補佐はうん、と頷いて
「いいわ。それまでに今津田君が挙げた問題を片付けておくから」
とその方向で進める気満々である。
征也は段々とスケジュールが先まで埋まって行く様子に戦々恐々としている。
6月は黄泉と王庁のダンジョン設計及び異空間にダンジョンの内側設定。
7月は狭くなっている大気脈のバイパス術のお手伝いと最後のダンジョン試運転。
8月は本格的なダンジョンの運用開始。
9月が黄泉と王庁のダンジョン設置及び運営開始。
そして10月には初めての神無月なので出雲にてお披露目なのである。
どれも遅れると後々にスケジュールが伸びてしまって支障が出るために、可能な限り期限厳守である。
きっとその合間に、お茶会の話し合いが持たれることになるだろう。11月くらいからお茶会も試験運用をさせられるかもしれない。
ああ、そう言えば神社の起工式もあるんだっけ? あれっていつだった?! 異空間から木を伐り出してきて神社を作る業者さんに乾燥・出荷もしなきゃいけないんだったよね!
「ぬぉおおおおおおおおおおーーーーーーっ!!!」
「征さん?! どうしました?」
突然頭を抱えて青褪めたまま奇声を上げた征也に天司が心配そうに声をかけた。
一つ一つは大丈夫そう、と思えても並べられるとたくさんすることがあって頭を抱えてしまうのであった。
征也に心の安寧は程遠いようだ。
ある意味自業自得なんだが、頑張れ征也君。




