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ダンジョンシステム整備士、津田征也  作者: 氷理
第四章:ダンジョンを増やそう
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その、三十 そういえば、健康の神様だった……

地味に日常化していて、自分の神徳なのに自分でも忘れそうだった征也君。




 突然だが、糖尿病で合併症を引き起こしたり透析になったりすると、ものすご~く行動が制限されるのだとか。目が見えなくなったり、血管がボロボロになったり。透析で何時間も拘束されたり水分摂取量が厳密に決められていたりとか。

 岸田が帰ってほっとしていたところに、そんな資料を見せられて

「津田君はこういうの、どう思う?」

坂本補佐が笑顔で圧力をかけてきた。背景にゴゴゴゴゴ……と音がしそうだ。

「あのー、どう思う、とは?」

怖い怖い怖い!

「津田君、健康の神様でしょ?」

さらに笑顔が深くなる。

「あの、今……黄泉のダンジョン考えている最中なんで…………」

同時進行でいろいろは無理だ。何度もやっていることであればまだしも、初めてであれば尚更。

いくら設計が終わったとはいえ黄泉のダンジョンはまだ作っていないのだ。フィルターの改良や排気口までのラインを決定したりして、やるべきことはいくらでもあるのだ。

「あら、黄泉は私たちの管轄じゃないもの。バイトとはいえ、税金からお給料貰っているでしょう?」

歩合だけど、やった分しか貰ってないけど。毎日、しっかり絵馬を書いた人を治癒させています!

「ちゃんと毎日、腰痛とか膝痛とか直して書類提出しているじゃないですか」

「地味だけど効果は上がっているわね。でも、それで終わりじゃないわよね?」

駄目だ。逃げられない、この微笑み。

「糖尿とか全身の病気はとっても大変そうですし、治せるってわかったら大挙して押し寄せてきそうで嫌なんですよね。制限付けるとゴリ押しで横入りされそうなんで、やる気が出ないと言うか……」

頑張って言い訳をしてみるがにっこり笑って反論は途中で封じられた。

「そうね。でも、少数だから価値が上がるんじゃない。健康保険じゃなくって自腹で高額な報酬! ふふっ……毎月1人か2人位で……高額の医療費を使っている人を治してくれるといいわね。

厄介事はこっちで引き受けるから考えるだけでも考えてみて」

そう言うだけ言って補佐は戻って行った。

最後に振り返って見せた視線は肉食獣か猛禽類が獲物を定めた時の視線に似ていた。絶対に逃がさない、と言っているようなものだ。

征也は蛇に睨まれた蛙のように冷や汗が止まらなかった。



補佐が去ってすぐ、

「津田さん! 明日! 明日お茶会行きませんか!?」

廊下に出ると赤井が突進してきた。

一体何事だ?

「え? お茶会? …………えっと、それは唯さんか天司君辺り誘ったら? 茶道とか習ったこともないし……」

習い事は書道と英会話だけで茶道などは習ったこともない。街のイベントのときには遠巻きに見るだけで、お抹茶を飲んだこともないのだ。

「唯さんと葉月さんは津田さんが来るなら一緒に行くって……」

どうやら先に声をかけていたらしい。

「えっと…………」

「ダメですか?」

言いよどむ征也に赤井は審判を待つような真剣な表情で待っている。

「うーん、俺ほんとに何も知らないよ?」

「大丈夫です! 隣の人と同じことをすればいいんですから!」

勢いに押されて

「う、うん。分った……何時にどこにいけばいいの? ……あと、持っていくものとか……」

承諾したが、何をどうするのかさっぱり分からない。

「タクシーで行きますから、玄関前に10時にお願いします。持っていくものは葉月さんが揃えてくれるとおっしゃっていましたから聞いてみてください」

言い終えると赤井はほっとした様に息を吐き出した。

「あー、よかった。もう誰も来てくれないかと思った……」

「てか、何で突然お茶会?」

どうして初心者まで駆り出してのお茶会になったのか?

「うちの祖母が茶道を教えているんです。今回生徒さん達6人を招いて正式なお茶会のおけいこをする予定だったんですけど、その生徒さん達がお昼のレストランで食中毒になって搬送されたそうです。それで明日は来られないって連絡がありました」

「食中毒?」

「はい、昼過ぎのニュースで18人が救急車で搬送されて、そのうちの4人が生徒さんだったんです。1人は確保しましたけど……」

ほう、とため息をつく。

「残りの3人が俺達か」

本人に非はないがドタキャンになった訳だ。

「はい、お茶室もお料理やお菓子、お花も予約してありましたからここまで来てキャンセルできませんし、どうしようかと思いました」

「そっか」

「じゃあ、私はこれから準備がありますからまた明日」

そう言って赤井は走り去って行った。






翌日、穴井に着物を借りて(天司の着物は身長差があるせいで丈が合わなかった)お茶会に出かけた。

緊張のあまり帰りには身体がピキピキ言いそうになっていた。

「ほら、簡単だったでしょう?」

「簡単じゃないよ! コピー動作をオートで発動するようにしておかなかったら難しかったよ!」

天司の行動をそのまま写し取って時間差で行動するように、神力で設定しておいたために何とか行動できたのだ。

そうでなければ、あの、複雑な仕組みが簡単に行動出来るはずがない。絶対にどこかで固まったまま動かなくなっていたはずだ。

「怖かったですよー、あの婆さん。ちょっと失敗しただけで怒った時の坂本補佐のような視線が……」

何を思い出したのか浜岡が青褪めてぶるぶるっと震える。そう、赤井が確保したもう一人は浜岡だったのだ。

穴井から聞いた話では、あのお婆さんは娘である赤井の母親が赤井を出産するまで一緒に捜査霊課でキャリアウーマンとしてバリバリ働いていたそうだ。あの威圧感たっぷりの鋭い視線にも納得だ。

「昨日穴井さんにレクチャーしてもらったけど、お茶会なんて初体験だったのに……」

涙目の浜岡は穴井からいろいろ聞いてそれなりに予習していったのだろうが、あれは作法を何度も練習しないと無理だろう。注意点も付け焼刃で行動するには多過ぎる。

「あー、えーっと、…………もしかして、この後、御礼状、とか書かなきゃならない、とか……?」

「えええっ、そうでしたっけ? 津田さん、俺、そこまで読んでなかった……」

征也も一応ザッとは本に目を通してきたのだ。

「そうですね、突然でしたし御礼状だけでもいいと思いますよ?」

そして帰ってから会議室に篭り天司にダメだしされながらも、征也と浜岡は御礼状を何とか書きあげた。

ちなみに御礼状の内容については、征也は何度も書き直しはしたが最終的に自分の考えた文章が書けたが、浜岡は天司と穴井から何度も却下されて結局ため息をつかれて天司の例文で書き直す羽目に陥った。





赤井ちゃんのお祖母様は実の所、坂本補佐よりも厳しい人なんです。

「捜査霊課所属ですのに、この程度も出来ないとはどういうことでしょう」by赤井志津

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