その、二十 霊珠の色は
霊力者としての基礎知識がまだまだ足りません。
それに気づいたのは破裂騒動が終わってしばらくしてからの事だった。
征也はその日どんよりした空気を纏って定時にバイトから会議室へ帰ってきた。
「せ、征さん? どうなさいましたか?」
会議室を開けたら気付いた天司がすっ飛んできた。
「うん、……いや、ね…………」
「とりあえず座ってください。お茶を入れましょう」
そう言って備え付けのポットを手に取る。ポットがあったり冷蔵庫があったり段々会議室が生活感あふれる寛ぎの空間に変って行くのは止めた方がいいのだろうか?
「で、何かありましたか?」
お茶を差し出されホッと一息。
「…………今月で、バイト…………やめることになった…………・」
「やめるんですか?」
意外そうな天司に
「いや、それが捜査霊課の庶務班? の人? が既に辞めるって挨拶に来たらしくって、今日引継ぎがどうのと上司から言われて初めて知ったんだ……」
知らないうちに辞めることになっていたと涙目で事情を話した。
「ああ」
天司からはバツの悪そうに苦笑いをされてしまう。
キラーンと目を光らせたのはキエート。
「いーじゃないですか! これでダンジョンに全力投球できますね!
津田様、この間ダンジョンの仕事でお給料もらったでしょう! それもいっぱい!」
やたら嬉しそうなキエートの弾んだ声に疲れが倍増する。
「うん、まあ…………そうなんだけど……。せめて自分で辞める時期は決めたかった……………………」
「すみません、先走った真似をして」
ガックリと机につっぷした征也に天司がちっとも悪いと思ってなさそうに謝っていた。
そう言う訳で、征也は自分の予想より早くバイトをやめて神様業をすることになってしまったのだった。
この日征也は落ち込みすぎて使い物にならなかったのは言うまでもない。
「ねー、天司君。霊珠の色が付いているのって、不純物が混じっているから?」
「え! 津田様! 色つきの霊珠が採れたんですか!?」
何気なく征也が天司に尋ねた言葉にキエートがすごい勢いで身を乗り出してきた。
「う、うん。…………この間、4階を作って採れた霊珠がサファイアっぽい感じだったり、エメラルドっぽい色だったりしたから…………。違うの?」
勢いに押されて引き気味の征也は絞り出すように事情を話す。
「霊珠は大きさによって色が変わって来るんです!
最初は無色透明、少し大きくなったら水色……アクアマリンみたいな色になって、大きくなるにつれて青、緑、赤に変わって行って、最終的には紫になるんですよ!
サファイアやエメラルドのような色ということは、相当大きなものだったのではありませんか!?」
キエートに押されて助けを求めようと周囲を見れば、梓と唯も期待に満ちた瞳をキラキラと輝かせていた。
仕方なく征也は袋からピンポン玉くらいの緑色の霊珠を取り出す。
コロリ
机の上に置かれた霊珠を見て女性陣はさらに目を輝かせる。
何時の間に用意されていたのか、棚の上に取り付けられたカラット測定器で測定し始めた。
「108.3カラットですね。現世では国宝級ですよー」
興奮している女性陣に征也は何とも言えない呆れた目を向けていた。
「いつからこんな機械おいていたの? っていうか、霊珠って宝石みたいにネット情報とか手に入らなくって凄いのか凄くないのかイマイチわかんないんだよね?」
「ああ、そうでしょうね。宝石のように簡単に出てくるわけでもありませんし、産出できる場所は秘匿しますからね!
外部に情報が漏れないようにしてありますし、知っているのは師匠や兄弟弟子に教えられた霊能力者か必要に迫られた霊能力者くらいですからね」
結局霊能力者しか知らないじゃないか。
「ふーん、そうなんだー」
征也が袋の中を覗き込む。青と緑の霊珠がキラキラと静かに佇んでいる。
「見せてもらっても?」
期待に満ちた目で見つめられて渋々袋を渡す。
「おおー! すごいっ! 見事に青と緑ばっかり! しかも10、11、12…………36個! さっきのも入れて37個!
本当にびっくりですよ!」
「本当に見事な霊珠ですこと」
「こんなに大きな霊珠、見た事ない」
うっとりと見つめているが、
「喜んでいる所悪いけど、今日のお題いくよー」
全くもって進まない。
「あっ、分りましたー。今日のお題はなんですか?」
キエートがデレデレとした顔を引き締めて話題を変えてきた。
「今日は4階と5階の作成のお話。急ごしらえで作った4階は最下層にするとして、3階と最下層の間に新たに4階と5階を作るの。
4階は前に決めたとおり4カラットを基準に魔物を産まれるように配置すること」
征也はダンジョン作成ノートをみながらよどみなく進める。
「5階はまだ何カラットにするか決めて無かったよね?
4階と同じにするか、もう少し上げてみるか、どっちがいいと思う?」
ダンジョン以外で魔物と戦ったことが無く、またダンジョン内でも大物魔物を蠅叩きを作って倒す征也だ。ハッキリ言ってチート能力なため、一般的な術者がどの程度なのかサッパリ見当もつかない。
「んー、そーですねー。一気に邪気を片付けようとすると上げる方がいいですけどー。しかし上げ過ぎても術者の方が倒せなくて意味ありませんし。困りましたね?」
キエートも思案顔だ。この際、梓と唯にも聞いてみようと思ったが、その直前で二人が1カラット程度の力であることを思いだして断念した。
「では、イワナガヒメから不知火さんをお借りしてはどうでしょう? 女神に認められている捜査霊課以外の術者ですから、きっと優秀な一般的術者のはずです」
「ああ! その系列がありました。木霊さんに連絡をとってみましょう」
天司の提案にキエートが乗ってきた。
あっという間に予定を取り付けてきて、
「今週の土曜日朝9時に会議室へいらっしゃるそうです」
と決定した。
「分ったよ。じゃあ、それまでに4階を作っておこう。3階の1.2倍の広さを取っておくと動きやすいかな?」
「そうですね、この場合遊撃部隊をこちらに配置して……」
4階はキエートの協力のもとに設計図通り完成させました。
何事もデータがあった方がいいですよね、征也君。
次回、立場ごとに戦闘可能なレベルを実験します。




